第11話 絶望 満桜side



気がついたら、もう病室の天井を見つめるしかできなくなっていた。何故か足の感覚が無い


「……動かないんだ、足が」


先生の声がどこか遠く聞こえた。


緊急手術のあと、目を覚ました時告げられたのは、想像もしていなかった事実だった。

肺の状態が急変しただけじゃなかった。

手術中に、血流の問題で脊髄に障害が起きたらしい。


原発性肺高血圧症に合併するリスクのひとつ──脊髄梗塞。


「前みたいに歩くのは難しいかもしれないね」


そう言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。


何度足を叩いても痛みも何も感じない。


「なんでだよっ!!」


叫んでも何も変わらないのに…


もうこれからのこと何も考えれない。

こんな足じゃ、恥ずかしくて……リナにはもう会えない。

醜い自分を、見せたくない。



もう二度と、リナと並んで歩けない。

もう二度と、あの河川敷を一緒に歩けない。

走ることも、一人で立つことすら出来ない


リナの前では、普通でいたかった。

いつもみたいに笑って、冗談を言って、ただ隣にいるだけでよかったのに。


今の俺は、そのどれも叶えられない。


リナが手術の日に送ってくれたLINEも見たけど返せなかった


「おはよう 頑張ってくるね」


その一言が、今の俺には痛すぎた。


俺の未来に、もう誰かと並んで生きる余地なんてない。

支え合うどころか、きっと重荷にしかなれない。


どうせ4月には死ぬし。


だから、もうやめよう。

この恋は、ここで終わりにする。


また1人でいい。

いや、1人でいなきゃいけないんだ。

リナには、ちゃんと未来がある。

俺ががそれを邪魔するわけにはいかない。

リナを巻き込んでしまった

あの時、俺が声をかけなければ、河川敷に行かなければ、リナに出会わなければ、


「ごめんな、リナちゃん」


本当はリナの手術がおわったらサプライズでリナの病院に会いに行こうと思ってた。

でももうリナと会うのはここで終わり。



自分勝手でごめんリナっ



スマホの電源を切って投げ捨てた。

カーテンも締切った。

そして、そのまま枕に顔を埋めた。


涙がこぼれても、誰にも見せなければ、傷にはならない気がした。


今までそうしてきたから


「好きにならせてくれてありがとう、さよなら」


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