嘘告が壊したモノ

アスティア

第一章

屋上での出来事

人生は選択肢の連続である。よく聞く言葉だ。

進学や就職、部活動や選択科目といった、多かれ少なかれ自身の人生に影響を与えるものから、今日のメシや放課後の過ごし方みたいに小さなものまで。


これらの選択肢に対して、自分の夢や目標に向かって真っ直ぐ進む人、流されるまま日々を過ごす人、友人との関係を優先する人、迷って失敗する前に家族や教師に相談する人。


それでも全ての事柄に、最善の答えを出し続けられる人はまずいないだろう。

人は大小の失敗を繰り返しながら反省、改善し、経験として成長していくものなんだから。


……とまあ、受け売りの話を長々と語ってしまったが、これにはちょっとした訳がある。

GW明けから梅雨に入る少し前、という中途半端な時期の昼休み。学食から教室へ戻る途中に、とある女生徒に捕まった俺は……


「あのね、あたし……悠也の事が好きなの。だからお願い、あたしと付き合ってくれる?」

「……えっ?」


連行された先の屋上で、やっかいな問題の対応を迫られていた。


少し状況を整理しよう。


俺の名前は小坂悠也こさかゆうや。身長178cmで高校2年の16歳。成績は学年の生徒数約220人中ギリ50位に入るくらいで、まあマシな方と言っていいだろう。部活は中学時代に陸上をやっていたが、ケガでタイムがガタ落ちしてからはほぼ引退状態で、高校からは帰宅部所属だ。


そして入学時からの友人で、クラスメートの大塚慎二おおつかしんじ藤城真雪ふじしろまゆき矢代遥香やしろはるかと俺の4人で陽キャグループの一角を形成している。慎二の「青春を謳歌するぜ!」という謎のノリに、かれこれ一年ちょっと振り回されているが、俺たちは良い友好関係が築けていると思う。


……で、やっかいな問題というのは、今、俺に告白してきたのがよりによって遥香だということだ。


矢代遥香。黒髪にポニーテールの見た目通り、明るく活発なタイプだ。対照的にほんのり茶色がかった肩までのストレートヘアで、少し気が強めな真雪とは小学校からの親友だと聞いている。この2人は学年トップクラスとは言わないが、少なくともクラスでは1、2を争う人気がある。


まあ正直なところ、この4人の中でいずれ好いた惚れたの騒動が起きるだろうなぁとは思っていたが、真っ先に動き出したのは慎二だった。


遥香との仲を取り持ってほしい、と慎二が俺に打ち明けてきたのは去年の冬。そこから幾度となく相談を持ち込まれたが、俺自身も経験が絶対的に不足していたため、ここまで安全策を取らせることしかできずにいた。そして女性陣の方も何やら画策していたようだが、具体的なアクションは今回が初めてだ。


と言うわけで、この告白に対して俺の答えはNO一択ではあるのだが、穏便に事を荒立てずにどう断るのかが問題だ。


「返事、聞かせてくれる?」

「え、えっとだな……」


どうしようか、前述に語った選択と違って、人間関係は考える時間があまり無いことが多い。傷つけてしまうのは確定だが、今後のためにも気まずくなるようなことは言えない。だから俺なりに真剣に向き合って答えれば、理解してもらえると信じるしかない。


「俺、今気になってる子がいてさ……自分ではっきり決着つけるまでは、他の子と付き合うことは考えてないんだ」

「……」


俺の答えに遥香はうつむいたまま、わずかに肩を震わせている。やばい、泣かせてしまったか?しかし今の未熟な俺には、これ以上うまい言葉は思いつかなかった。


「くっ……くくくっ、あはっ……あーっはっはっはぁーー!!」

「!?」


泣いているのかと思った遥香は突然、大きな声で笑い出した。

何故に?ホワイ?えーっと、もしかしてそういう形でフラれたことを吹っ切ろうと思ったとか?

理解が追いつかない俺はただただ困惑するばかりだったが、ひとしきり笑い、目元の涙を拭った遥香がゆっくりと口を開いた。


「はぁー面白かった。ごめんねぇ悠也、思いっきり笑っちゃってさ」

「いやその……説明、してくれるか?」

「最初はちゃんと報告しようと思ってたんだけど、せっかくの記念だからサプライズを兼ねてみようかなって」

「だから記念って何のだよ」


要領を得ない説明に、軽くイラつきを覚えながら続きを求めるが、次の言葉は遥香からではなく、俺の背後から聞こえてきた。


「いやーナイス反応だったぜ、悠也」


そう言ってスマホを構えながら近づいてきたのは、俺があれこれ悩み、気を使ってきた大塚慎二当人だった。

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