ロスト・リストーラー

田中嘉人

序章

 ――時の迷宮の中では、格闘技も剣術も傷の回復もがまま。

   過去の記憶や体験を思い出し、

   未来の自分を空想し、

   すべての時を「今」に引き寄せる。


   そうすれば想像の通りに自由自在に闘える。

   自分の時を自分で掴むのです。


   そして、人々が失った時を取り戻すのです。

   それが、「ロスト・リストーラー」の仕事――


 

  僕は、目の前の上司が言うことを真剣に聞いていた。

 

  想像しただけで体が動かせる

  思った通りに戦える

  武器も自在に扱える


  そんなおとぎ話のようなことを。


  しかし、途方もないことだとは思わなかった。


  現に僕は、ができる場所――「迷宮」に行ってきた。


 

  今日を境に、僕の時の流れは大きく変わったのだ。

 



 社会人になって三年が過ぎても、学生の頃と少しも変わらない毎日。

 時間の流れに身を委ねるだけの一日。


 ただ職場に行き、大して大事とも言えない仕事をして、帰ってきて飯を食って寝る。ただそれだけの毎日。


 時間は僕のために流れてはいない。


 今のこの瞬間が、どこにつながっているんだろう。

 そんなことを僕はよく考える。


 瞬間は次の「瞬間」を生み、それが連なって時間の流れになる。

 僕が何もしなくても、瞬間は勝手につながっていき、時間が形成される。


 世の中には、その瞬間を意味のあるものにできる人がいる。


 何か有用なことを考え、行動を起こし、さらに一歩進んだ思考を巡らす。

 それを繰り返して、自分のため、そして誰かのためになる時間を創っていける人が。


 残念だが、僕はそんな種類の人間ではない。

 僕は自分のために時間をコントロールすることはできない。


 僕は、与えられた時の中で、与えられたことをこなして時間を潰していくことしかできない。

 時間をただ失っていくことしかできない人間。


 ――そう思っていた。



 しかし、僕は、時を取り戻すことができるようになる。


 人が知らず知らずのうちに失った時間を取り戻すすべを得て、時の流れの本当の意味を知ることになる。

 それは、僕にしかできないことだった。

 

 きっかけは、「時の迷宮」と呼ばれるダンジョンに潜ったこと。

 それが全ての始まり。


 これは僕が、僕自身の時間を見つけるまでの冒険の物語。

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