意外な助太刀
「んな!?」
即座に回収しておいた投げナイフでゾンビの脳天を吹き飛ばす。
この程度なら簡単に倒せる。だが今の俺には安堵する余裕はなかった。
「走ったぞ……。こいつ今!」
今までは走らず歩くことしかしなかったゾンビ。
だから俺達は序盤はともかく慣れてしまえば割と余裕を持って逃げることができた。
……だが走るゾンビがこいつだけでなかったら?
前に突如として進化したゾンビ達から考えるに他のゾンビも走れるようになっている可能性が高い。
まずい!!! すぐに皆に報告しないと!
ダァン!!!
俺が後ろを振り返ったその時、聞き覚えのある音が響いた。
銃声だ。音の発生先は俺のすぐそば。誰かが銃を撃ったんだ!
「ユウキ! 逃げましょう!」
「ゾンビ共が走りやがった!」
そのすぐ後に皆が飛び跳ねる勢いでこちらにかけてくる。
そしてその後ろには…。
「「「ア〜〜〜〜〜〜!!!!」」」
ゾンビ。ゾンビ。ゾンビ。
周囲を埋め尽くさんとする程の量でゾンビがこちらに迫ってきている。
当然。全員走って。
あの銃声で誘われたのか…?
いや違う。そうじゃない。流石に銃声一発で百を超えるゾンビが現れるか?
まるでこの場所に人がいるのが分かっているような…。上から感じた視線が関係しているのか?
考えることは多い。だが今は取り敢えず逃げなければ!
「前方の敵は俺が倒す!!!」
「じゃあ俺はその援護だ!」
「ルートは私が案内するわ!」
「後ろの奴らの足止めは俺らがやる!」
俺とボブさんが前衛。リラさんが中衛。そして残りの二人が後衛。
正面から走ってくるゾンビ達を銃で狙い殺し、ただひたすらに走り続ける。
「「「ア〜〜〜〜〜〜!!!!」」」
奴らの声があらゆる方向から迫ってくる。
右も左も前も後ろも。そして上からも。全方位からゾンビ達が走って追いかけてくる。
「死ね! クソどもがあ!!!」
どれだけ銃を撃っても数はまるで減らない。それどころかどんどん増えていく。
リラさんのルート案内のおかげで戦いやすく逃げやすい場所を通っていなければ誰かが犠牲になっていた可能性すらあるだろう。
「こいつら! どれだけ逃げても隠れても追ってきやがる!」
「俺達の居場所が常に知らされているような感じだ…。このままじゃ弾薬が足りない! 遠征用に沢山持ってきてたのに!」
「……全員退避! 鳥の群れが見える!」
なるべく障害物の多い、屋根のあるエリアへと退避する。
その直後。鳥達が自らの命を惜しまず全員で特攻を始めてきた。
壁として使っていた車の窓が割れ、中から鳥達が大量に襲いかかってくる。
近づいてくる鳥達を俺がナイフで斬り殺し、残りの敵はハルスさんと武雄が一斉掃射で消し飛ばしてくれた。
だがまだまだ奴らは増え続ける。その勢いは留まることを知らない。
俺は皆の様子を観察する。目に闘志は宿っている。まだ諦める気は欠片もない目だ。
…だがこの人数なら俺以外が生き残るのは至難の業だ。
俺が囮になるしかない。それ以外に皆が生き残る手段は無い。
「…ユウキ?」
武器を構え、一歩前へと進む。この数相手の足止めの為には手段を選んでいられない。
俺は近くにある車を持ち…
「ユウキ!」
「……なんですか?」
「生き残るなら…全員でよ」
「……分かってます」
リラさんだって分かっている。この数相手に生き残るなんていくら俺でも不可能に近い。
しかもこれからまだまだゾンビは増えていく。……だがやるしかない。
リラさんには悪いがそれしか方法がないんだ。俺は近くにあるバスを蹴りで動かし、ゾンビ達を下敷きにする。
「来いよクソ野郎共! 俺が相手だ!」
手でこっそり逃げるように皆に合図を送り、ゾンビのヘイトを俺へと向ける。
…これで少しは逃げやすくなるはずだ。
「済まない…。必ず助けに戻る!」
「「「ア〜〜〜〜〜!!!!」」」
感動的な別れのシーンだというのに奴らは一切の躊躇いなく迫ってくる。
俺は持っていた銃を構え、一番奴らを殺せる位置に撃とうとした。
「…………ん?」
だが俺は撃たない。ゾンビ達も何かを感じたのかその場で止まる。
地鳴りのような音が聞こえてくる。大地が揺れ、何かがこちらに迫ってくる。
「な、なんだあれは!!!」
ボブさんが何かに気づいた。ボブさんが見ている方向を見ると、ゾンビ達が何かに吹き飛ばされていた。
しかしその何かは見えない。透明な何かに吹き飛ばされ下敷きになり、次々とゾンビが死んでいく。
そしてその何かは…俺達の眼の前で止まった。何もない空間になにやらノイズのようなものがかかる。
そして突如目の前の景色から一人の人間が現れた。
「乗れ! この地区から脱出する!」
「え「速くしなさい!!」わ、分かった!」
現れたのは恰幅の良い聡明そうな人物。間違いない。このフトゥールムの市長だ。
この一連の事件の黒幕の可能性があると睨んでいた人物の登場に皆の間で緊張感が走る。
…がそれも一瞬。謎の圧に負けてしまい俺達は彼の方へと向かう。
するとそこは車の中だった。中は何人もの人間が乗れる大規模なもので、キャンピングカーの中のようだった。
「全員乗ったな! 出発する!」
市長が全員乗ったことを確認した時、車が急速に動き出した。
しかし運転席には誰もいない。自動運転?! しかもここまで高度なものを?!
窓から外の様子を眺めると、何が起こったのか分かっていない様子のゾンビ達が次々と吹き飛び死んでいく。
俺達はその光景をただ呆然と見ていた。
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