傭兵団の半壊


「おい! 大丈夫か!?」


 ザワザワと民衆の生き残りが騒ぐ声が聞こえる。死んだ人間の一人が目を開けたらしい。

 もしかしたら我々の仲間も…。だがその大半が生き埋めになり、燃えている。


 「良かった目が覚めて。……ん? おいどうした? …おい!」


 しかし様子がおかしい。医療の心得がある部下。メリーに様子を確認させようと指示を…。


「ぎゃあああああ!!!!!」


「きゃあああああ!!!!!」


「うわああああ!!!! 喉を噛みちぎりやがったぞこいつううう!!!!」


 亡くなっていた女性が目を覚まし、即座に側に居て声をかけていた男性の首元に噛み付いた。

 我々はすぐに彼女を男性から遠ざけた。しかし時すでに遅し。彼は頸動脈を噛みちぎられたこの世を去った。


「あ〜〜〜〜〜〜〜」


 まるで昔スラムで見たヤク中のように、よだれを垂らし目は虚ろでフラフラしている。

 ただこちらへの敵意はある。我々を襲おうと拘束を解かんともがいている。


「ええい! 正気に戻りなさい!」


「そうだ! あんたを心配してたんだぞ彼は!!! ……ん?……………はぁ!?」


「どうした?! 何があった!」


 彼女を拘束している隊員の一人が、突如何かに気づいたのか大声を出した。




 その答えは我々の予想の遥か上を行くものだった。


「こ、こいつ! 脈がねえ! 体も死んだ人間のように冷たくなってきてやがる!」


「なんですって?! 私も確かめるわ! 誰か拘束を変わってちょうだい!」


「私がやろう。メリー。頼む」


 「まかせて隊長。…………呼吸の有無、瞳孔の反応、対光反射、心音の確認。……どれを取っても完全にこの子は死んでいるわ」


「ゾンビみたいになってるってことか?! 隊長! こいつもう殺し…動けなくしちまいましょう!」


「………やむをえんか。首を折るぞ!」


 こうして、私はゾンビとなった民間人を殺した。



 ……………そう思った。


「………あ〜〜〜〜〜〜」



 声が……聞こえた。間違いなく私は彼女の首をへし折り殺した。

 しかし声が彼女から聞こえる。私は後ろを振り返った。



 そこには首がネジ曲がった状態で口を動かし、近くにいる隊員を噛み殺そうと迫る彼女の姿があった。


「なに!?」


「ウッソだろおい!!!」


 すぐにそばにいた隊員が銃を撃ち、頭を吹き飛ばす。

 そうしてようやくゾンビは沈黙した。


「はあはあ…。驚いたぜ。こいつまさか頭吹き飛ばさないと死なないのか?」


「無事か!?」


「ええ何とか。驚いただけです」




「隊長!!!!! どんどん死んでた人達が立ち上がっていきます!」


「なに! 数は!」


「ざっと十数人! まだ死んでいる人を含むと数百人ほどいます!」


「近づいてくるゾンビの頭を狙え! 発砲を許可する! 民間人を保護しつつ人の居ない場所まで退避!」


 我々の行動は早かった。生き残った数名の民間人を保護。

 ゾンビを倒しながら部下に逃げれるルートを探ってもらう。一人一人は余裕だが弾数が足りないな…。



 部下の一人。タケオ クロガネ


 工作員の一人で特殊なタブレットを所持している。

 このタブレットは我々が入手できる様々な情報が入っており、現在はこの都市の地図を調べ、人のあまり居ないルートを調べてもらっている。


 現状は悪い。無線やスマホのたぐいは使用ができない。



 我々は完全に閉じ込められた。




「隊長! 良いルートを見つけました! 少し遠いですが、人の居ない山岳地帯へと向かえます!」


「良くやったタクオ! 全員撤退! 民間人の皆さんは我々についてきてください!」


「「「サーイエッサー!」」」


「あ、ありがとうございます!」


 それからは多少の敵がいるにはいたが、そこまで苦戦することなく目的地へと向かっていた。

 だがゾンビ達にあまり会わなかったからこそ、ゾンビ達の変化に気付かなかった。










 我々は偶然生存者を追いかけていたゾンビの群れと交戦した。

 そこでようやくその恐るべき変化に気づいた。





 奴らは賢くなっていたのだ。ただ真正面から襲いかかるのではなく、建物の中に入り回り込んでくるゾンビ。



 仲間の一人が不意を突かれた。

 

「な!? うわぁぁ!!!」


 ガラスを突き破り殴りかかってきた。今までのゾンビとはまるで違う挙動に全員の動きが一瞬止まった。

 更に死体だと思っていた人間が、急にこちらに掴みかかってくる。





 我々は何とか勝利した。しかし怪我人が複数人いる。

 そして何よりあのゾンビ達が進化している。その事が皆の恐怖を誘っていた。


「後どれくらいで目的地に着く」


「後一時間程です。だけどそれは何事もなかった場合です。それに負傷している仲間がいる以上二、三時間はかかる可能性が…」


「……そうか」


 仲間達はかなり疲れている。肉体的にはともかく、精神的に。


 我々は確かにこの世界でトップクラスの実力を誇っている傭兵。

 我々を超える存在など今はもう存在しない伝説の特殊部隊。ヘレティックぐらいだ。


 人間でありながら人ならざる強さを誇る異端の存在。

 各国から集められた選りすぐりの部隊。



 昔ボスから聞いたこと事がある。



 彼らはまさしく別格だと。






「ああ……今はそんなこと考えている場合ではない」


 私もどうやら疲れていたようだ。関係ないことをここまで考えてしまうとは。

 今は一刻も速く、この状況をどうすべきか考えなければ。



 紛争地帯を渡り歩いてきた仲間達がそうなるということは、民間人はそれ以上の精神的ストレスを負っているはずだ。


「念の為他に籠城できる所や人が居ない所を探してみてくれ」


「サー! イエッサー!」


「お前ら! 誰かタクオの護衛を!」


「じゃあ俺が。タクオ! 頼んだぜ!」



 ひとまずできることはこれぐらいだな。


 私は再び行動に移そうと、襲撃場所から少し離れた所で休んでいる皆に声を掛ける。

















その時、仲間の誰のものでもない銃声が辺り一帯に響いた。






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