新たな生存者達


 彼は本当に何者なの…?



 それがここにいる者達の総意だった。百を超えるゾンビの群れを撃退し、瓦礫の中に隠れ、銃をしまった隙を突き攻めに来た犬のゾンビ。

 それも恐らく警察犬を近接戦で殺害してみせた。


 ゾンビは単体だと弱い。弱点が分かれば対処は可能。

 私の蹴りを避け、攻撃を与えてきた時は驚いたが慣れてしまえば動きは単調で遅い。

 だがあれほどの数に囲まれたら勝ち目が訪れる訳が無い。更に全てを倒した後に現れたゾンビ犬は別格だった。



 走っていたのだ。あのゾンビ犬は。他のゾンビは歩いている中ゾンビ犬は走り出した。


 まだ生きている犬には勝てないだろうがそれでもかなりの速度。

 しかしそれを容赦なく倒し、最後の一匹に至っては頭を握りつぶした。


 私やボブは警察の特殊部隊に所属している。


 だからこそ分かる。あれはムリだ。あのゾンビの群れに勝つためには特殊部隊が必要。


 数の多さとはそれ程までに厄介なモノ。



「なのに……」


 隣を見るとボブとスコッチさんが口を開け呆然としていた。二人の気持ちはよく分かる。



 目の前にいる彼は果たして人間なのか? もしかしたら人とは別の何かなのかもしれない…。

 未知のものに対する恐怖とそれを超える安堵が私の中を埋める。


「いけない…。急いで合流しないと」


 放心する体を無理やり起こす。ゾンビが来るまでに移動しておかないと…。




「あ…あれ? 門の側に誰か居ません?」


「え……?」


 しまった…。注意が散漫になっていたわ。


 私はスコッチさんの言葉を聞いてすぐに門の方を向く。


「あ、彼はまさか!!」


「クライドの野郎!!! 生きてやがったか!」


「知り合いなんですか? でも何か揉めてますよ? 銃を突きつけて……銃を突きつけてますよ?!!!」


「マズイ! 止めないと!」


「おいリラ!! 俺も行く!」


「ちょちょ! 置いてかないでください!」





















 これは……どうしようか。ぶちのめすわけにはいかないもんなあ…。


「そこを動くなよ。悪いとは思うがあんなモノを見せられた以上、迂闊に対応する訳にはいかないんだ。………お前は何者だ?正直に答えろ」


 目の前には金髪の美青年。見た感じほっそりとしているがかなり筋肉質でかなり強めの訓練を受けた人間。

 特殊部隊上がりだろうか?ショットガンをこちらに突きつけている。


 返り討ちにするのは簡単だ。しかし警察の服を着ている彼に喧嘩を売る気はない。それに…。


「待ちなさいクライド! 彼は味方よ!」


「リラ?! 生きてたのか! ボブも!! ……良かった。お前らも死んじまったのかと思ったぜ! ……こいつは何者なんだ?」


「助けてくれたのよ。信用できるわ」


「俺からも頼む。ひとまず中へ入れてくれ」


「……分かったぜ! 上から縄梯子を下ろす!上がってくれ!」


「…………ほっ」



 良かった。話を聴いてくれた。俺達は縄梯子を登り警察署の中へと入っていく。

 中はそれなりに荒れており、そこら中にゾンビの死体が溢れていた。


「スゴい数だ…。全員頭を吹き飛ばされてる…」


「よくここまで倒すことができたわね」


「いや、俺含めて数名の人間しか生き残ってなかったからずっと籠城してたんだ。そしたら彼らが来てくれてな。お陰で助かったよ」


「彼ら…?」


「おう! お前ら驚くぞぉ! 今は皆フロントにいるんだ。ほら入れ入れ!」


 警察署の内部へと入っていく。ドアを開けるとかなり広い空間が広がっており、真ん中にはデパートとかでよくあるまん丸のカウンターがあった。


 そしてフロントには二、三十名近い人間がいた。

 警官っぽいのが何人か。民間人にそして明らかに武装した人間達もいる。


 警官達はここに来たボブさんやリラさんを見て歓声を上げて近づいてくる。


「リラさん! 生きてて良かった!!」


「ボブ! お前デブなのによく生き残ったなあこの野郎!」


 ボブさんもリラさんも二人共涙を流していた。互いに生きているとは思うことができなかったのだろう。

 スコッチさんは少しチラチラ辺りを見渡していたがすぐに俯き暗い顔をする。


「大丈夫。ここには生き残りがいた。きっと他の場所にも生き残りが居るはずだ」


「勇気くん………………ありがとう。」


 少し笑顔になってくれた。だが笑顔には曇りが見える。家族や友人だろうか?それとも他の……。


「そういえばクライド。残りの人達は?」


「ああ。偶然この警察署に居た民間人達。そして武装した彼らは傭兵だ。SPECのな」


「SPEC……だと!」


「…………へえ」


 SPEC 世界でトップクラスの知名度を誇る民間の傭兵集団。全員の実力。練度。装備。全てが最強。

 彼らが戦争に参加するだけで勝ち負けが決まるとすら言われている。




 そしてそのボスは……俺の親友だ。戦友でもある。



 武装した集団の中から一人がこちらに向かってくる。十数名いる傭兵の中では一番の年寄り。

 白いひげを巧みに生やしていて最低でも五十は超えているであろう男。しかしその動きには隙がなく筋肉もかなりのもの。



 …………強いな。



「始めまして。私はSPEC所属の傭兵。第二分隊の隊長。ハルスだ。君の活躍見ていたよ。まさかあそこまで強い人間がいるとは。よろしく」


「こちらこそよろしく。俺は勇気だ。貴方も中々強いな」


 握力も相当。握手を求められ応えたがまさかここまで強いとは。

 リンゴぐらいなら簡単に割れるんじゃないか?


「君が何者なのか。とても気になるところだが今はこの街の現状を話すことが大事そうだな」


「あ…そういえば何で貴方達が派遣されたんですか? それにヘリやオスプレイが落ちてましたけど」


「おお! あれを見ていたか。それならば話は早い。まずは私達がこの場所に派遣された理由から話していこう」










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