増える絶望


「何で…貴方は死んだはずだ! マーク!!」


「ありえねえ! 俺も確認したんだ…。何が起こってやがる!!!」


「あ………ああ……。」


 マーク。恐らく目の前で立ち上がった警官の名前だろう。

 間違いなく死亡確認したはずなのに立ち上がりこちらにジックリ近づいてくる。


 フラフラと病人のように、だが迷いなく俺達の方にと。


「やめろ! 止まれ! 止まりなさい! マーク!!!」


「お前を撃ちたくねえんだ!!! 止まってくれマーク!!!」


 二人の手が震えている。当然だ。同じ警察の仲間を撃つなんて誰だって嫌なはずだ。相手が最低のクズでもない限り。



「ア〜〜〜〜〜〜〜」


 だが無駄だ。マークは止まらない。気がつけばリラの目と鼻の先まで迫ってきていた。


「ご…ごめんなさい! マーク!」


「リラ!!! マーク!!!」


「ヒイィィィ!!!」



ダン!!!



 一発の銃声が銀行全体に鳴り響く。



 的確に脳天に直撃したその弾丸は彼の脳をグチャグチャにし、向こう側にあったガラスまで突き抜けた。


 ドサリと音を立て、マークは倒れる。その時ちらりと何かが転がった。


 ロケットペンダントだ。落ちた際に壊れたのか蓋が開き、中にある写真が見えた。




写真には安定感のありそうな女性と小さな子供の写真があった。二人共満面の笑顔をしている。

 その姿は太陽のようで彼女達の事を知らない俺にも元気を分けてくれるようだ。


 だがその笑顔を向けている相手はもう二度と現れないだろう。


「………ッ」


 気づけば拳を強く握っていた。何で俺はこんな熱くなってる…。



 もう消えたんだ。消えたはずだ…。こういった感情は。



 昔の戦友が頭に浮かんだ。あいつも家族のことが大好きだった。でも死んじまった…。


 俺達を守る為に囮となって。



 良く見ると警官二人は目を赤くしている。その姿は昔の俺に重なって…。



「ア〜〜〜〜〜〜」


「ヒィ!!! また声が聞こえる!!!」


「「「!?」」」


 スコッチの悲鳴を聞き、即座に後ろを向く。するとそこには悍ましい光景が広がっていた。



「ア〜〜〜〜〜〜」


「嘘だろ…。ありえねえ!!!!」


「……蘇った?」


「まるでゾンビだ…。ゲームの世界じゃないんだぞ…。」



 先程胸を撃たれ倒れた女性。確実に致命傷のハズ。それなのに彼女は立ち上がった。

 低い唸り声を上げてこちらにゆっくりと迫ってくる。

 傷のせいか先程より更にゆっくりと。大量の血が流れているのに一切気にすることなく迫ってくる。


「くたばれクソが!!!」


バンッ!!!


 今度は脳天を直撃。頭が少し欠け、その場に倒れ込む。


「死ね! 死ね! 死ね!」


バンッ!!!バンッ!!!バンッ!!!


 更に三発。頭に当て確実に仕留めていく。


「ボブ! もう止めて! 弾の無駄よ! 早くこの場から離れないと!」


「………ああ。クソッ! 済まねえリラ」


 何発か撃ったことでようやく心が落ち着いてくれたようだ。

 因みに俺とスコッチさんは二人で端っこに縮こまっていた。



「ねえ…勇気くん…。ちょっと思うことがあるんだけど…良いかな?」


「また声が聞こえました?!」


「いや違うんだ…。立ち上がった人達って全員亡くなった人だよね…? じゃあもしかしてここに倒れた全員が…。」


「皆早く逃げよう!!!!」










「……………あ〜〜〜〜〜〜」


 今のは…誰が発した声だ?今度は誰が起き上がったんだ…。


「……ああ神様」


 スコッチさんの絶望した声が聞こえる。


「…………何よ……これ」


「クソッ!!! 一体何が起こってるってんだ!!!」





 一人、また一人と死んだ人間が立ち上がる。


 男も女も。大人も子供も関係ない。ゆらゆらと立ち上がり、こちらを睨みつける。


「……………ア〜〜〜〜」


「……ア〜〜〜〜」


「……………ア〜〜〜」


 誰もがこの光景に呆気にとられた。当然なことだ。死者が動き出すなんてこの世界の常識に真っ向からケンカを売っている。






 だから誰も気づけなかった。



「……………え?」



 スコッチさんの真後ろに立つ人影に。



「スコッチさん逃げて!!!」


 最初に気づいたのはリラさんだった。その後すぐにボブさんが気づき銃を向ける。

 俺はその一瞬後に気づき、すぐにその場から距離を取る。


 だが狙いは定めても撃つことができない。既にスコッチさんのすぐ後ろに来ている。

 撃ったとしても確実にスコッチさんに当たることだろう。

 そしてようやくスコッチさんが状況に気づいたのか逃げようと動く。


 いや、きっと気づいてはいたが恐怖のあまり動くことができなかったのかもしれない。



「うわあああああああ!!!!!!!」


 ゾンビがスコッチさんに覆いかぶさる。


 そしてゾンビから身を守ろうとガードしていた腕に勢いよく噛みついた。




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