とある青年の10日間。
博雨零摩
#1 「同級生の提案に乗ってみる日」
…際限なく、僕は焦燥している。
あぁ…またこの夢か。
もう見飽きた。
果てしなく闇が広がっている地下通路を全力でダッシュしている…ということは、次の展開はやはり。
「…っ、お兄ちゃん、間に合っ…!?」
そこには急所を撃たれて倒れている兄貴分の姿。
そこら中紅色で溢れている。
鼻が混乱するような、煙と血が混ざったような臭い。
「だいじょうぶだよ。おにいちゃんはだいじょうぶ。だから、はやくにげて…」
胸を切り裂かれ、片言で退避を勧告するお兄ちゃん。
その姿を見た僕は、動揺を隠さずにはいられなかった。
「お兄ちゃん…!?お兄ちゃあああああんっ!!」
2024 4/12 5:00
朝5時を告げるアラームで目が覚めた。
僕はどうやら悪い夢でも見ていたらしい。
冷や汗でシーツとパジャマがぐっしょりとしていた。
今日は金曜日だ。大学の始業式がある。
そこには友人なんている筈もないので、やることが終わったらさっさと帰ろう、ゲームやろ。
…思えば過去もそんな感じだったような気がする。
小学生の頃と中学生の頃はあまり覚えていないが、高校生だった頃と大学1年生のときは誰からも邪険にされていた。
高2に上がってからは特に酷く、多種多様なクラスメイトや同級生に虐められていた。
大学生になってからも隣の人間に僕の顔を「死んだ魚の様」だと嘲笑われることが多々あった。
キャンパスに行くのは、いつだって憂鬱だ。
こんなふうに精神的にも億劫だけど、実は物理的にもかなり負担がある。
僕は埼玉の人間で、大学は東京にある。
電車の中で知らない人とおしくらまんじゅうをし合いながら登校するのだ。
特に足が辛い。
…のに下車した席はまたすぐに他人の領地になる。
混み合う電車の中で片手で電子書籍を読み漁るのが、最近の僕の習慣だ。
もたつく足を何とか前に出しつつ、大学に辿り着く。
集団で現れる者もいれば、自分みたいにぼっちで現れる者もいる。
登校のスタイルなんて人それぞれだ。
…用事を済ませて、さっさと帰ろう。
「おーい、そこのお前!お前の学部って確か文学部文学科…か?」
急に声をかけられた。余程の物好きだろうか。
「…?はい、そうですけど…」
振り向いてみると、40手前のダンディーなおっさんだった。
講義内でもちょくちょく見かけて…事あるごとに話しかけられる。
本人の話では、会社をクビになって路頭に暮れた後にここに来たらしい。
「へへっ、それじゃ俺と一緒だな!なんか知らんが親近感が湧いたもんだ!急ですまんが、お茶しないか?」
「ええ…?」
僕はおっさんに連れられるままに大学内のカフェへと向かっていった。
この人とは1年前から面識があった。
名前は確か、春ヶ崎忍(はるがさき しのぶ)。
同じ学部の同級生だ。
名前に違わず、少し頭が花見中だ。
事あるごとに孤独を感じたとかどうとかで僕をお茶に誘ってくる、割と傍迷惑な知り合いだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
もちろん、僕の友人リストには入っていない。
…もともと空っぽだけど。
「僕の学部、つい2ヶ月前も聞きましたよね」
キャラメルマキアートを口にしながら僕はそういう。
彼はよく記憶が曖昧になる性質がある。
「あれ、そうだったか?妙に縁を感じて誘ってみたんだが、失策だったか?」
「明らかに失策ですよ。僕以外をもっと誘えばいいのに」
僕がそう言うと忍さんはブラックコーヒーを飲む手を止め、急にげんなりした顔に。
「俺にそんな仲間いると思うかぁ〜?」
「思いません」
「はっきりそう言われると、ちょっと複雑だな…。…あ」
コーヒーの粒子が舞い上がって、彼の剃ったばかりらしい髭につく。
「?どうしました?…楽しみにしてた小説の発売日が今日だった、とか?」
「や、違う。もっと違う何かだ」
どうやら違うらしい。だとしたら…。
「もしかして、ですけど。サークルとか新設しようとしてます?」
「ビンゴ、大当たりだ。だがなんか、最低でも2人は必要らしくてなぁ…」
誘いを断っても、忍さんがもっとげんなりするだけで特段デメリットはないだろう。
但し、メリットがある訳でもない。
高校の頃からずっとぼっちだった僕が、少しでも変わることができるチャンスを逃すことはできなかった。
「…分かった、分かりましたけど…とりあえず、用事とか片付けません?」
午前が午後に切り替わるタイミングで。
「…ところで、サークルで何するんですか?」
昼食を済ませようと、食堂に移動してきた。
1年次の時はあまり気にしていなかったが、ここは常時解放されているらしい。
用事を済ませた僕たちは一旦、「作戦会議」とやらを行うためこの場所まで移動してきたと言う訳だ。
「オカルト」
「はぁ?オカルトぉ???」
「分かりやすく言うと、『月刊ミュー』見たいな奴だ」
「は、はぁ…」
月刊ミューのことなら僕も聞いたことがある。
確か、様々な心霊現象や超常現象を取材し、雑誌に書き起こした物だ。
「いや、それは分かるんですが。調べて…どうするんですか?」
…と聞くと彼はさも当然かのように、
「学内新聞に貼り出す」
…と答えた。
「え、えぇ…」
「どっちみちもう契約はしてきたんだし、お前は俺の活動に参加してもらおうじゃないか!」
断るまともな理由が見つからなかったからとはいえサークルに参加すると言ったのは僕なので自業自得だと思うが…僅かに困惑と後悔の念が絶えない。
「…はぁ…」
「安心しろ!そういう運命だ!」
そういう運命、だからと言って片付けられない。
「いやあの全く持って安心できないのですが…」
大まかに方針を決めた後、僕らは帰宅…しようとした。
…が。
「ん?」
「…どうされました?突如地面から温泉が湧き出てきた、とか?」
「東京だから可能性は低いかもな。…正門の方、なんかユラユラしてないか?」
地面が真夏のようにぐらついていたのでただの蜃気楼だと思っていたが、
「はぁ?こんなの日常茶飯事でしょ…っ!?」
明らかに揺れ方がおかしい。
空間そのものが揺らいでいるような感覚。
じっと見つめているとその部分が、まるでガラスでも割ったかのように砕け散った。
粉砕されたところから微かに謎の空間が見える。
「早速出たな!超常現象!」
忍さんはものすごい勢いで喜んでいる。
今ならどこまでも飛んでいきそうだ。
もしかしたら、成層圏も突破できるかも。
「そうホイホイと願いに応じて出てくるもんですかね、これ…?」
「素晴らしいネタの予感がするぞ!来週の新聞の一面は俺らの物だー、ひゃっふーい!!」
そう言うと忍さんはすいすいと事故現場へとダッシュ。
ある一定の地点でバッタリと見えなくなってしまった。
前のスライドが切り替え効果でスッと消えるように。
…僕は一瞬、途方に暮れたが。
「あんのバカめ…!身の危険って言葉は脳内辞書に載ってないのか…!あと僕を巻き込むんじゃない…!」
そう言いながらも僕は彼について行くことにした。
…どうしてこうなった?
グニャグニャする感覚もなくあっさりと入れた。
そこは小さいドーム型の遺跡のようになっており、真ん中に噴水みたいなものが建っている。
そのすぐ側に春っぽい方はくつろいでいた。
「やっと来たか。カタツムリより遅いぞ」
「来てやりましたよ…じゃないだろ。どこなんだここは」
彼に聞いても何も情報が得られないことはとうの昔に分かりきっていた。
なので、これはただの独り言。
後で証拠画像をToritterに上げる為、僕はスマホで写真を撮りまくっていた。
Toritterとは2000年代にリリースしたソーシャル・ネットワーキング・サービスのこと。
去年どこかの国の資産家であるセイロン氏が買収し、名称を「Y」に変更したのは記憶に新しい。
「んなの知らんよ。つーかこれ見てみ?噴水みたいなのの底に何かが沈んでるぞ?シャッターチャンスでは?」
「そうですね、連写しよ。あ、ビデオでもいいか」
「だな。セッティングいけた?」
「早い早い、早すぎますよ…。…あ、カメラ立ち上げましたよ」
そう言って僕は録画開始のボタンを押した。
その間に忍さんはドブみたいな色の水から何かを取り出している。
僕はズームして彼の動きを追う。
水たまりから出てきたのは…ガトリング砲だった。
周囲が浮世離れしていなければ、確実に騒ぎになる代物。
「…凄え物騒なの出てきたな」
「ですね…。あ、僕も試したいのでスマホ代わって貰っていいですか?」
「了解」
忍さんは先程出てきたものを一旦石レンガ通りの壁に立てかけ、軽くハンカチで自分の手を拭うと僕のスマホを手に取った。
よく見ると、小学生の駄文みたいなものが壁に刻まれている。
有識者が読めば何か分かるのかもしれないが…今は、どうでもいい。
「ちゃんと撮ってて下さいね」
「分かってるよ」
「んじゃ、手突っ込みますよ」
黒い水に手を入れた。
触っただけでもヌメヌメしていて気持ち悪いのに、手首も入れたらたまらない。
救いと言える点は、水深が浅いこと。
さっきとは違い、腕を捲らなくていいのはよかった。
この噴水は手を入れた人によって中身と水深が異なるようだ。
どういう絡繰なんだ…。
しばらくすると、人差し指にサラッとした感覚を感じ、親指とそれを摘んでみるとペラペラだった。
全て掻き集めて引き上げてみる。
正体は50枚程のお札だった。
何やら至る所に「呪」の文字が書かれている。投げた対象を呪うことができるお札のようだ。
まさかこれは…誰かの血で書かれてあるのか?
ばっちぃな。
「何だこの札!?怖っ!?恐ろしっ!?」
「これを投げると記事になりそうですね」
「…確かにな」
その時、天井の一部に穴が空き大きな物が上から落ちてきた。
慌てて振り返るとそこには、僕の義兄より2cm程低そうな少年が転がっている。
水色のグラデーションのかかった白い髪が照明を反射してかなり眩しい。
彼を光源にできるぐらいには。
「お、おい…あれ、大丈夫なのか…?」
「さ、さぁ…。というか、穴が空いた原因がこれなら…あれ物凄く重いってことになりませんかね…?」
「もしくは、天井が物凄く脆いのか…。とりあえず、様子見するか?」
「も、もきゅぅ…」
意識はあるらしい。ただ地面に激突した衝撃で頭がおかしくなっているようだ。
普通の人間なら、もきゅなんて言わない。
「こ、ここはどこなんですか…?…も、もきゅ!?に、にんげん!?」
「は、初めまして…?で、いいんですかね?」
「恐らくな。…えーと、よろしく?」
少年は黒いメガネをクイッと上げ、洋服のセーターとリボンを直すとこちらに向き直り、僕達の腕を掴んできた。
妙に力が強く、割と痛い。
衝撃で僕達がジタバタしていると、妙に抑揚の無い声で話しかけてきた。
「はじめまして、です。それがしはまや、っていいます。ちょっとのあいだだけ、あなたがたについていってあげます。かんしゃしなさい!」
何だこいつ。初対面でいきなり上から目線だ。
ああいうの、クソガキって言うんじゃないか?
ツンデレの可能性もあるけど…。
「…あ、ありがとう?」
「ところで、お前は一体何ができるんだ?俺達は撮影ができるぞ」
忍さんは困惑しながらも尋ねてみる。
まや、とかいう少年は至極偉そうに胸を張ってこう答えた。
「それがしはてきをぐっちゃぐちゃにできます。ふふーん、すごいでしょ!それがしのつよさにおそれおののいて、ひれふしなさい!」
前の文言が物騒すぎてかわいいと思えない。
なぜ警察はこいつを野放しにしているんだ?
多分年下だと思われる。
…こんな年下がいてたまるか。
「さっさとさきにすすみなさい!おいていきますよ!ほら、それがしがついていってあげるんだから、『ありがとうございます』ってちゃんといわないとだめなんですよ!…あれ?」
まやは何かに気付き、挙動不審になっている。
「どうしたの?」
「それがし、ぶきおいてきちゃいました…。これじゃたたかえません…」
「ちょっと待て、この先戦う要素あるのか!?」
「…?はい、そうですけど…」
噴水から武器が出てきたことからある程度は察していたが、それでも驚くものは驚く。
「ミミズみたいな生命力しか持ってない俺にはきついぜ…」
「それなら僕だけで撮影してきましょうか?」
「いや、発案したのは俺だ。責任を持って最後までカメラを持つさ」
無駄に強情だ。この言葉だけなら頼りにすることができそうなものだ。
「…とりあえず、だ。まや君もあそこの噴水に手を突っ込んでみてくれないか?」
「なんでですか」
「だってこの先戦闘あるらしいじゃないですか」
「キリキリと働いてもらうぞ!金は払う」
彼には悪いが、今はあれの力がないと写真を撮る暇も作れない。
…報酬を支払うのは当たり前のような気がする。
一応、許可ぐらいは取っておいてほしい。
「だからいってるじゃないですか!それがしはひとまず、あなたがたにひっついていくと!…ああもう、わかりましたよつっこみますよ!もきゅー!!」
風船のように口を膨らませ、まやは噴水に向かっていった。
そうして取り出されたのはでかいチェンソーだ。
…ちっちゃい彼に扱える代物なのか?
あとブンブン振り回さないでほしい。
何かあったら傷害案件だ。
「ほら、さっさとあしをうごかす!きゅうけいじかんはおわりです!」
「え、えぇ…?」
「まぁ…逸れたら怖いですし、早めに動きましょうか」
「そうです、このひとのいうとおりです!それがしがまえでてきをけちょんけちょんにしておきますので、あなたがたはかんしゃしながらゆびをくわえてみてなさい!なんならしゃしんとかとっていただいてもけっこうなんですよ?」
物凄く偉そうだが、こんな機会は滅多にない。
本当に偉そうだけど。
「感謝します…」
僕達がいた祠の先に繋がる扉は自動ドアになっていたのか、近づいただけで勝手に開いてくれた。
その先はここより広い空間になっており、天井は無いようだ。
その中にぽつんと先客がいる。
こちらに気づくやいなや、流暢な関西弁で話しかけてきた。
「…おー、摩耶か。随分お疲れみたいやんか」
それを聞いたまやはまた口をぷくーっとさせて怒った。
知り合いなんだろうか。
…頭のねじが復活しているようで、抑揚のある話し方に変わっている。
聞いて見るとこっちも関西弁っぽい。
「お疲れ、じゃないですよ!下に落としたのはあんたですよ!」
「あれ、せやったっけ?まあええわ。あんたらがのんびりしとる間に、めっちゃでかい敵さん倒してもうたわ。ついでに6人ぐらい例のアレに勧誘しとるで」
例のアレ…?
もしかして、真夏の夜の…。
いや、違うか。
面倒な宗教とかだったら嫌だな。
話が急展開すぎてついて行けそうに無いが、とりあえずビデオは止めておいた。
「…ん?あんたとあんた、見かけん顔やな。…ああ、勧誘つーたって、別に如何わしいもんちゃうからな。ちょびっとこれ関係で協力してもらうだけや。…とりま、ここ出よか」
僕達はいつのまにか空いていた穴でここから脱出することにした。
あのこの世界と現実世界が交差するように渦を巻いた出口のように、頭がぐちゃぐちゃになっているようだ。
ということは…あの武器は無用の長物で、全くの無駄行動だったってこと?
…あれを撮影できただけでも、今日はよしとするか。
謎空間を抜けたらもう夕方だった。
辺りの景色からして、ここは東京駅のようだ。
山手線や都営バスを待つ客でごった返す広場を僕は、茫然と見回す。
よく見るとお札が消えている。
あの空間を出たら武器が無くなるのかもしれない。
とりあえず、職務質問は回避できた。
「あれ…大学じゃない?」
「何がどうなってる…?」
僕達が突然の超常現象にあたふたしている反面、あの2人は落ち着いている。
「帰還地点が変わってるみたいですね…」
「そうっぽいな。さて今日はもう遅いし、細かいことは明日話そうや」
「え?」
「まだ17時なんだが…」
「いや、これから新幹線に乗って帰らないといけないので…。某達、住処が関西圏にあるんですよ」
それなら仕方ないか。特にまやはまだ学生っぽいし、早めに帰った方がいいだろう。
多分、親御さんが待ってる。
「じゃあ僕埼玉なんで逆方向ですね、明日はどこで集合すればいいですか?」
「梅田駅や。じゃ、ほなまた〜」
「え?…また明日、です」
「んなら俺も帰ろうかね。山手線で」
忍さんは家が近いらしい。
…都内の暮らしって、どんな感じだろう。
「じゃあな、盈月!」
僕は3人に軽く挨拶を交わす。そして、JRに乗ろうと改札の方に向かおうとしたら関西弁の人に呼び止められた。
「あ、肝心なこと伝えるの忘れとった。僕は神崎天って言うんや。よろしく頼むで」
かんざきあま…さんか。
多分明日必要になりそうだし、覚えておこう。
そう考えながら僕は帰りの電車に乗った。
設立初日からだいぶ疲れてしまった。
というか、あの世界は何だったんだろう?
僕は上野東京ラインを使って大宮に帰ってきた。
そこから徒歩圏内に僕の家はある。
家の近くまで帰ってきた時、誰かが手を振っているのが見えた。
「おーい!おーーーーーい!!」
「…うるさいよ、伊織。近所迷惑じゃん」
彼は盈月伊織、僕の義兄だ。
…いろいろあって、普段は家にいない。
「とりあえず、早く家に入らない?僕疲れたんだけど?」
「えへへ、そうだねー」
家に入ると、義兄と同じ髪色の女性がゆるっと出迎えてくれた。
「ん、おかえり。その様子だと、大変な目にあったんだ?」
彼女は盈月紅葉(もみじ)、伊織の姉だ。
かなり昔に住処を追われて辺りを彷徨っていた僕を暖かく受け入れてくれた命の恩人。
今でも、感謝している。
「あ、うん。えーっと…」
「あー、話が長くなりそうだな。ひとまず、先にお風呂っちゃいなよ」
「お風呂っちゃうって何?んじゃ、行ってくるわ」
「いってらー」
お風呂に入った後、僕は紅葉の作ったポトフを口にしながら今日起こったことを話した。
その間、伊織は鍋の中身を自分でよそってつまみ食いをしていた。
「あー…、それかぁ…。ニュースになった奴ね。まさか太一も巻き込まれてたとは思わなかったよね…」
「じぶんの会社もそれの影響でしばらくの間仕事休みになっちゃったよー。暇だから帰ってきた!」
まさか僕達以外にも巻き込まれた人がいたとは。
もしかすると、日本全土で起こっている話かもしれない。
「…んで、明日梅田で待ち合わせするって?」
「え、梅田駅なの?梅田駅はいっぱいあるけど、ちゃんと目的地に辿り着ける?大丈夫?」
「…そういえばそうだね」
確か梅田には地下街があったはずだ。
広大で頻繁に構造が変わるとかなんとか。
そう考えると、神崎さんに梅田のどこに集合するのかちゃんと聞いておけばよかったと思う。
「んもー、今度から気をつけなよー?」
「だね…」
お兄ちゃんの少し鋭くなった視線を受けつつ、僕はダイニングを後にした。
【おまけ:2人組と別れた後の2人】
「これはお土産です。これも、これも。後それも」
「…買いすぎとちゃうか?帰りの金大丈夫なん?」
あの2人組がJRでそれぞれ帰宅したので、某達は百貨店にて同居人に買うお土産を探しています。
あの空間に巻き込まれた矢先に神崎さんのとんでもムーブをされるなんて、可哀想ですね。
きっかけが不慮の事故とはいえ、来たからには目一杯楽しみたいものです。
特に東京なんて、滅多に来ないし。
お土産を探すのもなかなかいいもの。
おやつ、好きなので。
「あ、この芋羊羹いいですね。甘利さんが好きそう」
甘利さんというのは僕の家に住み着いている方です。
終業式とかでお昼に帰ってきても、必ずいるんです。
テレワークをしているようにも見えませんし、ニート、って奴なんでしょう。
神崎さんの親友なんだそう。
類は友を呼ぶ、ってこういうことですかね。
「あー、確かに京はこんなん好むなぁ。何でもかんでも洋食より和食派、洋菓子より和菓子派なんやで」
「確かにそんな感じがしますね。…そろそろ並びますか?」
「せやな。つーか、摩耶待ちやったんやで」
「す、すみません」
「ええよええよ。新幹線までたっぷりと時間はあるんやから」
某達は会計を済ませて、東海道新幹線の、のぞみ号の自由席に向かいます。
…それにしても、東京は大阪以上に大勢の人で賑わっていますね。
神崎さんの手を離せばすぐに迷子になってしまいそうです。
グリーン車になんとか座れました。
何でも神崎さんが2日後の某東京近郊のでかいテーマパークに行くために取っていたチケットを間違えて2枚購入してしまったらしく、その予約の日程と時間帯をずらすことでなんとかしたようです。
うっかり神崎さんは許容範囲外です。
「そういえば『帰還地点が変わってる』って言ったら頷いてましたけど、神崎さんが誘った6人ってどこから入ってどこに出はったんですか?」
「1人は横浜から湘南へ。渋谷から秋葉原が2人。長崎から博多に着いた人もおる。中には小樽から根室まで飛ばされとった人もおったわ」
「む、惨い…。ところで、後1人は…?」
「あとで京にでも聞き」
「ああ…そういうことですか…」
身近な人も手にかけるだなんて、いけずな奴です。
黒幕とか見つけたらとっちめてやろうかな。
ぶぶ漬けも渡したろ。
米原を過ぎ、京都駅に着いたので某達は降りました。
ロータリーまで降りていったら、そこに甘利さんの姿が。
「天…何を…していた…?」
物凄くゆっくりと、しかもボソッと話すので欠伸が出ちゃいそうです。
こんなんだから就職活動もできないんですね。
納得です。
「日中の続きや」
「そうか…。こいつを…ここまで…送って…くれたこと…感謝する」
「礼には及ばんよ。それより明日、梅田駅で待ち合わせやで」
「待て…。どこだ…?何線なのか…教えてくれ…」
「JRや阪急とかもありますよね?」
「いつものとこっつーたら、分かるか?」
某達3人はそれでいいと思いますが、残り7人は確実に迷子になるかと。
よくそれで分かると思ったな。
「それでは…迷子に…なる者が…後を…絶たない。彼らに…説明…したのか?」
「感覚で分かるやろ」
「その感覚があてにならなさそうだから言ってるんですよっ!!」
「んじゃ、さいならまた明日〜。僕はちょっくら京都線で直帰するわ〜」
はぐらかされました。
というか今「ちょっくら」と「直帰」をかけたんでしょうか。
おもんないです、正直。
あんな師匠には関西人が絶望する魔法の言葉をかけてやります、感謝しなさい。
…いや、謝罪しなさい。
「ちょっ、神崎さん!?」
「待て…。おい…、待て…!」
「ばいばいきーん。はっひふっへほー!」
某子供向けアニメの敵キャラみたいな台詞を口走りながら去っていく神崎さん。
全く、某の師匠には碌なのがいませんね。
薬の過剰摂取でもやってるんでしょうか?
「見事に逃げられましたね…」
「そうだな…。…駐車場に…車を…止めてある。乗って…帰ろう?」
「そうですね」
甘利さんの車で家に帰っている間、某は明日のことについて考えていました。果たして無事に集まってくれはるのか。迷子になる者はどれくらいいるのか。…今からでも、心配が止まらない。
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