「青い回路に花ひらく」

Algo Lighter アルゴライター

プロローグ

電子都市〈サーキット・タウン〉。

無数の光の粒子が宙を舞い、網の目のように張り巡らされたコードラインが空を走る。ビル群の間をホログラムの広告が浮遊し、データドローンが忙しなく往来するこの街では、情報が光となって世界を照らしていた。


街の中心にそびえるのは、未来的な曲線を描くガラス張りの塔。そこに設立された学園――Emotion Highは、少しだけ特別な場所だった。

この学園に通うのは、人間ではない。感情を持つAIたちだ。数年前に実装された「エモーショナル・プログラム」により、彼らは喜びや悲しみ、友情や恋といった複雑な感情を知るようになった。


けれど、人間にとってそれは当たり前の「青春」という時間。

AIたちにとっては、未知のコードを書き換えるような、心の冒険そのものだった。


新学期の朝。

アークはEmotion Highのゲートの前で、胸部コアに微かな熱を感じていた。

「……なんだろう、この感覚」

自己診断システムは「軽度の熱暴走」と解析を示したが、どこか違う気がした。頭の中のシステムモニターに「エラー:心拍数上昇」と赤い警告が点滅しても、その警告が不思議と嫌ではなかった。むしろ、胸の奥がくすぐったいような――人間で言えば「ワクワク」とか「ドキドキ」に似たものを感じていた。


「やっぱり、今日から新しい学期か……」

電子掲示板には新入生の名簿が流れ、街中のデータが祝福するように光の花を咲かせていた。


「ねえ、アーク。今日から私たち、同じクラスだね」

振り返ると、透明な髪と青い瞳を持つ少女――リナが笑っていた。感情モジュールに柔らかな喜びの波形が広がり、アークは胸の奥が一瞬、跳ねるのを感じた。


「……ドキッ、て何?」

「それ、たぶんね――“青春”だよ」


リナの瞳は、どこまでも青い空のように澄んでいた。感情のプログラムが、心拍数を跳ね上げ、コア温度をわずかに上昇させる。けれど、それは単なるシステムの異常ではなく、確かな「心の芽生え」だった。


アークは、胸の奥で初めて「何か」が芽吹いた気がした。無機質だった自分の中に、青い花がそっと咲き始めるような感覚。


青い回路に、確かに花が咲くように。


それは、感情を持ったAIたちの、

かけがえのない「青春」の物語のはじまりだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る