第十八話 本当の「いいね」

 春の足音が聞こえ始めたある午後、校庭の桜がちらほらと咲き始めていた。

 教室では沙良がスマホをいじりながら、眉をひそめていた。

 「また全然バズらなかった……」

 ため息とともに、画面にはささやかな数字が並んでいる。フォロワー数、いいね数――その小さな数字が、自分の価値を測る物差しのように思えた。


 「でも、私だけじゃないよね」

 沙良のつぶやきに、隣にいた美咲がそっと頷いた。

 「わかるよ。私も、誰かに認められないと不安で。でも、最近気づいたんだ。大事なのは“誰が見てるか”より“自分がどう思うか”なんだって」

 沙良は少し目を丸くした。


 一方、翔太は屋上で陽介と並んで座っていた。

 「さ……沙良、また気にしてた?」

 陽介が空を見上げながら言う。

 「うん。でも、俺も正直、周りの評価を気にしすぎてたかも。ユナがいなくなって、自分で考えることの難しさも知った」

 翔太はポケットからスマホを取り出し、電源を落とした。


 「最近、SNS開いてもあんまり楽しくないんだ。

 誰かの言葉に一喜一憂するの、疲れるって気づいた」

 陽介は少し笑い、翔太の背中を軽くたたいた。

 「でもさ、それって成長だろ? 自分の価値は自分で決めるってこと」

 翔太はゆっくりと頷いた。


 放課後、四人は校庭のベンチに集まった。

 桜の花びらが風に舞い、沈みかけた夕陽があたりを優しく染める。


 「もう、“いいね”の数で自分を決めるの、やめよう」

 沙良が口を開いた。

 「私、最初はバズりたいって気持ちだけだった。でも、友達と笑ったり、失敗して泣いたり……

 そういう時間のほうがずっと大事なんだってわかった」


 美咲は小さな声で、「私も」と続ける。

 「誰かに褒められるために描く絵より、自分が描きたい絵を大事にしたい。たとえそれが下手でも、価値がなくても、私にとって大切なものだから」

 陽介も、「俺も、親や先生の期待ばっか気にしてたけど……結局、選ぶのは自分だって気づいた」と笑った。


 翔太は、仲間たちの言葉を聞きながら、胸の奥に温かいものを感じた。

 「ユナが言ってた。“あなたの本音が、いちばん正しい”って。

 俺たち、自分の気持ちに素直になれば、それが一番の“いいね”だって思う」


 四人は笑い合い、見上げた空に柔らかな色が広がった。

 誰かの評価じゃなく、自分の「好き」を信じること。

 それが、これからの自分たちの道しるべになると、心から思えた。


 その夜、翔太は一枚の写真をSNSに投稿した。

 桜の木の下で、友達と笑い合う写真。

 「バズらなくていい。これが、僕の“本当のいいね”」

 コメントは少なく、いいねの数も多くなかった。

 でも、見上げた夜空に、心は不思議と晴れていた。


 「これからも、自分の気持ちを大切にしていこう」

 翔太は、仲間たちと歩む未来に、そっと小さな決意を刻んだ。


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