元A級ランクのおっさんエルフの少女を拾う。

ケンケン太

第1話

「おい。 おっさん。 今日であんたはこのパーティー[餓狼の牙]を抜けて貰う。 今日中に荷物をまとめて出ていってくれ」


 朝食を食べ終わったタイミングで唐突にリーダーのガストンからパーティーを解雇宣告されたのは、しがないおっさんの俺、ハイケルだ。

 確かに36歳の俺が18歳の駆け出し冒険者の頃からガストンには指南役として入れて貰っていたが、役に立てるようには努力はしていた。それなのに


「おい。 待ってくれ。 まだお前達はD級で教えれてない事も山程あるんだぞ。 それにマロンにシリカは同意してるのか?」


「勿論、同意してますわ」

「私も賛成してる」

「ほらな。 あんた以外、全員一致してるんだよ。だからもうアンタはいらねぇ。 俺達は強くなったし、これからは別の剣士を雇う。報酬とは別に指南料をアンタに払うのはもう割に合わないからな」


 その言葉を聞いて小さな溜息をつき、静かに俺は席を立つ。

 言いたい事は沢山あるが、これ以上言っても何も変わらないだろう。なんせ3人が同意してるんだからな。一応全員には冒険や戦闘の基礎は教えた。これから先はガストン達次第だろう。


「分かった。 3人には今まで世話になったな。 頑張って上を目指してくれ。 じゃあな」


「言われなくても目指すっつーの」

「さようならですわ」

「ばいばーい」


 労いの言葉もないか。まぁ仕方ない。

 自分の荷物をまとめパーティーで借りていた宿を出るが名残惜しくもある思い入れの宿


「……もうここの宿にも泊まることはないか」


 年期の入った宿だったが、安い割に料理も美味く、周りには不評だったが女将のダイアナさんも面白い人だった。俺は気に入っていたのだが残念だ。


 そのままギルドに向かい受付嬢のロシアナさんに声をかける。 俺が駆け出しの冒険者の頃から同じ新人として入ってきてからずっと世話になってきた人だ。

 ロシアナさんは気さくで優しくて誰にでも好かれるようなギルドでも人気の女性だ。


「おはようロシアナさん」


「ハイケルさん。おはようございます。 今日も餓狼の牙の皆さんとクエストですね。 頼みたいクエストがあったので……って、あれ? 他の皆さんはどうしたんですか?」


「ああ。 実は今日[餓狼の牙]を解雇されてね。 1人になったんだ」


「えっ、え〜〜〜っ!! ハイケルさんを解雇したんですか? あの馬鹿ガストンは何を考えてるんですかっ! 私からガツンと言ってあげますよ!! 」


「いやいや、ロシアナさんが言わなくてもいいですよ。 それに丁度あいつらも一人立ちする頃合いだったかもしれないしな」


「ハイケルさんは優し過ぎますよ。 ハイケルさんがいなかったら餓狼の牙なんてとうに壊滅してますよ。 だってあなたは当時17歳で史上最年少で、しかもソロでA級に昇格した天才剣士ハイケルさんなんですからっ!」


「まぁ、確かに当時は自分でも言うのもあれですが、勢いには乗ってましたけどね。 それで調子にのりすぎたとこもありましたけど、ほんとにそれは黒歴史ですよ」


「大丈夫ですよハイケルさん。 そんなの些細な事です。 私はハイケルさんを認めてますから」


 当時、俺は痛いほど調子に乗ってしまっていた。

 周りが騒ぐようなどんな強敵な魔物でも弱いと感じるほど、何でも上手くいく。思い通りに話が進む。しまいには王国の命令にも背き、ライセンスプレート失効と5年間の冒険者登録を禁止されてしまった。

 今は時効になり冒険者として復帰しているのだが

 その当時も、蓄えた金で生活が出来ると思っていたが、そこでも商人の少しの甘い囁きに騙され全ての財産まで失った。


 とんだ大馬鹿ヤロウだよ俺は。

 猛反省して人生やり直すつもりだったが、他の職に就いて何度もやってみたが全く上手くいかなかった。いい経験にはなったが、路頭に迷っていた時に街で声をかけてくれたのがロシアナさんだった。


「もしハイケルさんがよかったら、新人冒険者の指南役をやって貰えないですか?」


 あの言葉がなかったら俺はまた冒険者に復帰する気は起きなかった。

 だからロシアナさんには感謝してもしきれないほど恩を感じている。


 今は細々と冒険者をやっていてDランクだが


「何か適当に出来るクエストってないかな?」


「うーん。 これならどうですか? ちょっとあれですが西地区のビッグマウスの討伐」


「西地区か……いいよ。今日はそれを受ける事にするよ」


「ありがとございます。 あんまり西地区はクエストを皆さん受注してくれなくて困っていたんです」


「さっそく行ってくるよ。 ありがとうロシアナさん」


 俺は西地区に向かったが、ここは王都でもかなりすたびれた所だ。金のない人達が集まり貧困に苦しんでいる。


「久々に歩いたが、こんなにも……」


 王都はこんなところを未だに何もせず放置しているのか。俺が駆け出しの冒険者になってから何一つ変わっていない。やり切れない思いを胸に、さっさとクエストを終わらせる為ビッグマウスを討伐することにした。


「ふぅ。 まさか下水道に20匹以上いるとは…、身体も……うっ、くさっ! これは早く返って風呂にでも入ろう」


 外に出る頃にはすっかり日も落ちている。

 今にも崩れそうな家を横目に俺は通り過ぎていると一人の女の子が家にも帰らず座っている。

 何ともいえない悲しそうな顔。痩せこけた身体。まともに御飯すら食べていない事が直ぐに見て取れる。何故少女がこんな時間に1人で?帰りたくない理由でもあるのだろうか。

 普通に考えたらおかしい。家でも食べるものがないか、何もできずにここにずっといるかだろう。


 だったら俺に何か出来るのだろうか。

 いや、何もできないし、ここには困っている人達が沢山いる。

 俺が一つ手持ちのパンを分け与えたところでこの子の運命は何一つ変わらない。

 偽善行為にもほどがあることは自分でも分かっている。分かってはいるのだが、この少女を見てしまったら動かずにはいられない。そんな気がした。


「このパン食べるか?」


「おじさん食べないの?」


「余ってしまったからな。 よかったら食べて欲しいんだ」


「いいの……?」


「いいぞ。 食べな」


「ありがとう」


 なりふり構わずガツガツとパンに食いつく女の子は相当お腹が空いていたのだろう。


「お家には帰らないのか? お母さんも心配してるだろ?」


「お母さんも、お父さんもいない。 私一人だけ」


「えっ………」


 こんな女の子が今までここで一人で生き抜いてきた?あり得るのかそんな事が。

 頭にそうよぎったが、今はそれよりもこの子をどうするかだ。


 身寄りもなければ、生きる力もない。ここで生活するには少なからず周りからの助けがないと無理だろう。だが子供にそんな事は出来る筈もない。


 偽善かもしれない。これはただのおっさんの気まぐれだ。これがこの子にとって本当に正しい事かも分からない。だが他ってはおけない。俺は優しく手を差し伸べた


「俺はハイケルだ。 よかったらおじさんと一緒についてくるか?」


「……うん。 リーファ。 私の名前」


「そうか。 宜しくなリーファ」


 こうして俺は貧困街で女の子を拾った。

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