《繁栄の継承》
「でも俺は霧美になにかを託された。平和を繋ぐ象徴としてさ、なにかを俺にくれたのはわかるんだよ。なんとなくだけどね」
そんな言葉を紡いでいく乱麻に影写は息を吐き出した。それからこんな話をしだす。
「……霧美姫の消息が辿れない。霧斗殿もそうだが。まるで霧のようだ」
「本当の霧美は霧の能力者だったんだだろ? だったら――」
そこで乱麻は止まった。外は霧雨が発生している。乱麻は頭を抱えて呻いた。
「大丈夫かっ、小僧?」
影写が心配するが右手を制止させて平気だというようなポーズをする。乱麻は瞳を閉じた。ゆっくりと息を吸い、吐き出して見えるのは――霧美であった。
「やぁ霧美。俺にまだ肝心なことを教えてくれないのか?」
『……あなたが本当に平和を望んでいるのなら、考えてもいいわ』
霧美がやけに悪戯に笑んで乱麻へ微笑みかけた。霧美とどうして対話ができるのかが不明だが、そんなことよりも自分にどんな術を掛けたかどうかだ。乱麻はそれが一番知りたかった。
「なぁ霧美。色々知りたいことがたくさんあるけど、霧美は俺になんの術を掛けたんだ? それを掛けたから俺はこうして生きているんだろう?」
すると霧美は少し真剣そうな顔をしてこんな話をしだす。
『私の本来の能力の……すべてよ。霧もなにもかも、すべて』
「それってまさか――!?」
霧雨が止む頃に乱麻は両目を見開いた。気づけば影写に担がれて医務室まで連れてきてもらったようだ。薬品のかぐわしい香りがする。
「起きたかこの野郎。ったく、手間かけさせやがって……」
「ごめん。ちょっと夢見てた。いや、……霧美と会ってきた」
影写の目が丸くなる。それから目を伏せた。
「霧美姫はなんと言っていたか?」
すると乱麻は確信を得ているかわからないが不明な様子で首を傾げた。それから紡ぐように語っていく。
「霧美は俺にすべてをあげたと言っていた。霧の能力もすべて。っていうことはだ」
「……おい、もしかして繁栄の能力は、――お前の中か?」
乱麻はさらに首を傾げた。それから腕を組んで話していく。
「俺が繫栄の能力を持ったということが本当であったら、まぁ話は早いな。霧美が死ぬ前に頑丈な俺に二つの能力を授けた。それから俺自身に繁栄の能力を使用して俺は生き延びた……っていうのが、俺の推測だ」
「まぁ、多少強引だが辻褄は合うな。でもそれが本当ならお前は責任重大だぞ?」
「そうだな。だから繁栄の能力が使えるってことは内密にしておこう。それなら大事にはならないしな」
そんな話をしていると医務室から内線が走った。影写は内線を取る。しかしその顔はかなり訝しんでいた。
「……霧斗殿からか? 俺に繋いでくれ」
なんと消息不明の霧斗からであったのだ。緊張感が走る室内ではあるが、影写はスピーカーにした状態で内線を繫いだ。繋がったのは間延びした声をした――
『やっほ~、元気かな? 影写に乱麻。俺が今どこにいるかわかる?』
「霧斗殿……。あなた様は今、どこにおられるのですか?」
内線越しではあるが霧斗はひどく笑った。それからこんな話をしだした。
『世界を変えようと思ってね。今、戦艦の里に居るんだ』
「えっ……?」
影写も乱麻も絶句していた。
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