第2話
朝から般若を召喚してしまったが、あの手この手で宥めて小鬼までランクダウンさせることには成功したようだ。
役に立ったね、怒った取引先を何とか宥めて上手い感じに着地させる営業スキル。
「もう、失礼しちゃうわ……私は今でも若いわよ。馬鹿なこと言ってないで早くご飯食べちゃいなさい、最初から遅刻なんてしたら恥ずかしいじゃない」
まあ、流石に鎮火させるまでは無理だけど。いやでも仕方ないじゃん10年前の母親見たら、誰でも同じような感想を持つはずだ。
そんなことを考えながら、コーヒーを一口飲む。
「それにしてもいきなりコーヒーを飲みたいって言いだすなんて……新しい学校で張り切ってるの?」
と揶揄うような笑みを向ける母さん。今の俺からしたら、これが日常なのだが母さんは知る由もないので、
「まあ、ちょっと昨日楽しみで寝れなかったから眠気覚ましで」
と適当に話を合わせた。これも営業スキルだね、何となく話を合わせる。
そう言うと母さんはそれ以上追求せず新聞に再び目を落とし、自分はパンを口に入れた。そういえば朝ご飯でパン食べるのは久しぶりだなとか、今見ているテレビに出ているお笑い芸人懐かしいなとか思いながら。
ところで、ここまでずっとスルーしてきたが。俺はこれまで転校なんかしたことない。
ややこしいが、正史?の俺は小学校6年は同じ公立の小学校、中高6年は私立の一貫校だったので転校というイベントは、これまでの人生で縁のなかったものだ。
部屋は昔と全く一緒なのに、その部分で齟齬が発生している。やはり夢なのかと思うが、今咀嚼しているパンとマーガリンの味はやけにリアルに感じられる。
正直不安でしかない。これが夢だとしたら覚めるのか、そうでないとしたら一体何が起きているのか。
とはいえ手がかりも全くない状況なので、今は時が過ぎるのを待つしかない。
そう自分を無理やり納得させながら、再びテレビに目を戻した。
大げさな笑い声がやけに耳に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます