7節.輝かしい栄華を誇る領庁
鬱蒼とした森を抜け、多くの人馬で踏み固めたであろう凍った道を行く。
道中、遠目に炎を纏った醜い顔の小人がいた。洞穴の中からこちらを覗いていたが、襲ってはこなかった。あれが魔物だったのだろうか。
アンカラが1時間ほど馬に鞭を入れていると、見えてきたのは白亜の巨大な城壁だった。
雪原の丘に聳える威風堂々とした城塞都市といった風格。
敵に攻められる想定でもしているのか、壁の周りは深い堀となっており、入るには巨大な橋を渡る必要があった。
堀の中には落ちた者を串刺しにする杭が打ち付けられている。
城壁の上には弓兵が数名見張りとして配置されていた。
銀に輝く大きな門扉が近づいてきた。
門番が4名、通行人の検査を行っている。
兵士は皆黒の軍服を着ており、上にコートを羽織って、武器は槍を装備していた。
アンカラが馬上に俺を残し、手綱をひいて歩き始めた。
外套のボタンを外して、魔剣を鞘のまま門番に掲げて見せた。
紫色の光が少し強く輝く。
門番はそれを見ただけで、敬礼し俺達を通した。
そして、見えてきたのは、煌びやかに雪の白銀を着飾った中世の欧風建築の街並み。
レイズブルク領———領庁アカルガである。
木と石が混ざった家が多く、一階がレンガ、二階が木製で、尖がった屋根になっている。
魔力で暖を取っているからか、どこの家も煙突は存在しなかった。
目を引いたのは各家庭の玄関の扉に埋め込まれた六角の水晶。美しい紫色の魔力光を放っている。
街の中、開けた空き地のようになった場所に厩舎があり、俺は強制的に下馬させられた。
父が50ナラを払い、太ったおっさんが馬を連れていく。
ここから徒歩で城に向かうのだ。
正門を過ぎ、しばらく歩くと、なぜか巨大な角を持ったトナカイが多数歩いていた。レイズブルク中央公園と書かれた看板があり、代々ここの領主はトナカイが大好きで、この公園で保護されているらしい。
公園の中には高い尖塔を持った荘厳な教会が存在しており、公園の真ん中には初代レイズブルク領主の銅像が台座付きで設置されていた。
公園の間を抜けて、しばらく歩くと、尖ったクリスマスツリーのような街路樹が整然と並んだ奇麗に舗装された道が現れた。
左右は雪解け水を溜めた湖のようになっており、白鳥が羽を休めて浮かんでいた。
そして何回めか分からないが、また巨大な門を通っていく。
すると、巨大な白亜の城が見えてきた。
「おお!?」
「ほう。やっぱり君でもこのレイズブルク城には驚くんだね。いやー、いつ見てもこの白銀に光る城は見ごたえがあるよね」
「いえ、城も凄いんですが、僕が驚いたのはその隣の……」
俺の目には城の隣。
現代日本の工業地帯さながらの、連なった大きな工場建屋のような建造物だった。
シャッターのような扉から少し中が見える。
黒々とした機器が紫色に光りながらピストンを繰り返し、ガシャンガシャンと音をたてて、ヘリのプロペラのようなタービンを高速回転させている。
中世かと思ったら、妙に現代的なものもあって、頭がこんがらがりそうだった。
明らかにここだけオーバーテクノロジーだろう。
「ああ、魔力精製工場だよ。国の施設で、国家技術者しか入れない決まりなんだ。詳しい工程は僕も知らないんだけど、領民が払った魔力税が一旦ここにプールされ、機械に通して純粋なエネルギーとして抽出されるらしい」
魔法関係施設だったのか。
やたら兵が多い。鋭い目つきの軍服のおっさんがこちらを睨みつけてきた。
どうりで警戒が強いはずだ。
「ここで精製された魔力のうち半分を国に、残り半分をレイズブルク領で使用するんでしたよね」
「君は本当に頭がいいね。そうだよ。莫大な魔力がここに集積されているんだ。僕も徴税吏員として毎年5月末の出納閉鎖までにこの工場に徴収した魔力を持って来なくちゃいけないんだ」
「出納閉鎖?」
「えーっと、説明が難しいな。お役所の会計の出入りを閉めるって感じかな。民間では大体決算を3月末に行うけど、公的機関は5月末に行うんだ。その年度の会計予算の出入を確定させて、決算書を作成して領主様に報告しないといけない。そのためのお仕事かな。まぁ騎士である僕には関係ない業務なんだけどね」
「へー。魔力の確定申告もこの工場でやるんですか?」
「まさか。そんなことあるわけないだろう。騎士の確定申告は領主様立ち合いのもと、お城の中で行われることになっている。さあ、こんな所で油を売ってないで行くよ。お城には君の他にも確定申告に来た令息令嬢が大勢いるはずだ。友達が出来るといいね」
そう言って、アンカラは俺の手を引いて歩き始めた。
俺はもうちょっと詳しく工場を見学したかったが、諦めて父についていく。
みっちりと詰まった工場群を抜けて、城の門へと歩みを進める。
魔力の確定申告。
俺の魔力の最大値と、回復速度を測定するらしい。
どんな検査をされるのかドキドキしてきた。
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