第84話 強襲
――ここ最近の日課として、僕は『お人形さん』化している利恵さんを通して、姉さんを眺めている。自分から選択をしたとはいえ、これを一日に数回は行わないと、特殊な栄養素が不足してしまい、僕の精神的健康に著しく悪影響が出てくる。
だから、この日課は決して我欲に塗れたものではない。
今日も今日とて、眠る前に姉さんの寝息をBGM代わりにしようと思っていたのだが、姉さんの契約妖精――名前はセラフィックだったけ?――の独り言を聞いてしまった。
妖精や悪魔側の事情はほぼ把握しているし、『お人形さん』の素体を生み出すシステム作りをしてくれる彼らは、僕にとってちょっとした同業者の認識だ。何なら、感謝している部分もある。
しかし、姉さんを玩具のように扱うというのであれば話は別だ。
姉さんが魔法少女になった時点で、ある程度は許容するつもりではあったけど、あんなにも堂々と僕に喧嘩を売ってくるなんて。
え? 盗み聞きをしている僕の存在を、あっちは考慮していないって? そんなことは分かっている。だけど、大事な
「――あの妖精は、ボロ雑巾のように処理して上げないと」
自分でも驚く程に冷たい声が漏れる。それに対して、ビックと反応する一体の『お人形さん』。しまったと思いつつも、取り繕うように甘い声を出す。
「怖がらせちゃって、ごめんね。『双子』の魔女。君が姉さんに手を出したことはもう許しているんだから、そんなに怯えなくて良いんだよ。君はきちんと『お仕置き』も受けて、反省したんだから。今怒っているのは、妖精に対してだよ」
そう安心させるように言っても、中々『双子』の魔女は落ち着いてくれそうにない。はあ……仕方ない。僕の方で、『死体再生』を発動させよう。『
『双子』の魔女には、明日大きな『仕事』を任せているからね。
「――頼んだよ、僕の可愛い『お人形さん』」
■
――ピピッ。
目覚まし代わりの携帯のアラーム音で、意識がゆっくりと浮上していき、そのままアラームを解除する。その一連の動作をし終わる頃には、意識はほぼ完全に覚醒していた。
「んーー」
ベッドの上で、大きく伸びをする。固くなっていた体が解れていくのが実感できる。そんな風にしている私に、声をかけられる。
「おはよう、優衣」
「おはよう、セラフィック」
私の契約妖精のセラフィックだ。昨晩も彼女との会話で、ここしばらくずっと心の底に溜まっていた不安が、ほぼ解消される程に頼れる相棒である。
セラフィックとテレパシーでどうでも良さそうな会話をしつつ、身だしなみを整えて制服に着替える。そのまま一階に降りて、朝食の準備を手伝い、少し遅れてやって来た父親も交えて食事を楽しむ。
一人分欠けたのは変わっていないが、それでも昨日の一件が切っ掛けになったのか、久々に明るい団らんの時間を過ごすことができた気がした。
「今日も手伝えそうになくてごめんなさい、お母さん」
「もう、気にしなくても良いのに。気をつけていってらっしゃい」
「うん、いってきます」
片づけに関しては時間の都合上できそうにないのだが、ついつい申し訳なくなって謝ってしまう。そんな私の謝罪に対しても、母親は何でもないといった調子で返してくれる。
いつも通りのやり取りだった。
父親は一足先に出かけていて、私も家を出発しようとして玄関を出た先には見知った顔の少女がいた。
「お、おはようございます! お姉さん!」
「美代ちゃん?」
操のお友達である美代ちゃんだ。操が魔女に攫われているという事実は知らなくても、体調不良であるからしばらくは会うのは控えてほしいとは伝えたのだが。
美代ちゃん本人もそれは分かっているようで、気不味そうな表情でうつむき気味であった。
「……ごめんなさい、お姉さん。どうしても操ちゃんに会いたくなっちゃって。悪いことだとは分かっているんですが……」
消え入りそうな声で、うつむきながら話す美代ちゃんに私はどんな風に声をかけるか迷っていた。平日の朝は、学生や社会人にとって忙しい時間帯。あまり時間をかけてしまったら、私もそうだが美代ちゃんも学校に遅れてしまうかもしれない。
そう考えていた時。私の感知範囲ギリギリの所で、強大な魔力反応を検知。その主は、凄まじい速度で私達の方に接近してきて、この場で一番の弱者――美代ちゃんの背後に現れた。
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