俺は従魔達と共に異世界で文化的な生活をしたいだけなのに! ~わけがわからないうちに勇者召喚の儀式に巻き込まれ、エルフになっちゃって、従魔とか引き連れて平穏に生きていこうとしていたんです~

チシャってレタス 通称チャテス

第一章 異世界転移したらしいが素寒貧スタート

第1話 なんか急に来た件


 仕事、自分の時間、寝る時に至るまで俺は機械に囲まれている。それ自体は構わないし楽しいことだと思う。


 ただ、どうしてもたまに自然の中に包まれたくなる日というのはどうしてもあるもので……「今日は家に帰って休め」と真面目なトーンで上司に言われたのが昨日の朝9時のことだった。


 発端は、男三十歳いい加減結婚しろと言われたことだ。そうして婚活を始めたのが三ヶ月前。なんか知らんが割とすぐ話がまとまり、出会った女性と意気投合した。


 27歳なのに黒髪清楚系な女に不信感はあったがあんまり気にはしなかった、控えめに言って浮かれていたのだ。そしたら先週なんか知らんがNTRビデオレター風の動画がスマホのチャットツールに送られてきた。


 内容を端的に説明すれば。本命のカレぴに寝取らせ命令されたんでやった。今までの交際内容は面白おかしく茶化してSNSに上げてネタにしている。やっぱりカレのほうが良いの!と情事を見せられながら説明された。




 控えめ言って俺はキレた。




 寝取らせ男の顔が隠されていないのを良いことに、一週間かけてNTRビデオレタースタイルはそのままネットでおもちゃにされているホモビデオとの雑コラをして、寝取らせ男をちょっとホモにしてやった。


 その後がっつり様々な動画サイトやSNSにちょっとホモになったNTRビデオレターを投稿してやったのが一昨日のこと。


 そうしたら、寝取らせ好きな男がブチギレて俺の職場に襲来したのが昨日の朝9時過ぎのことである。俺は悪くねえ!!!と上司には目一杯抗弁したが今週いっぱい休みなさいと有無を言わさぬ勢いで帰らされた。


 だから、嫌なこと全てを忘れるために渓流釣りの出来るキャンプ場へやってきてぼーっと釣り竿を川に流している。クソが、川でコケたし釣り竿が遠くへ行く。あ、釣り竿は下流の人が回収してくれた。ありがとうございます。




「あぁー……今週はもうダメな週だ……」




 あるよね、そういう週。服はビショビショ、体中に濡れた砂がほんのりついている。こういうとき防水スマホなのは良かったと思う。ついでだからちょっとホモになった寝取らせ男の再生数も確認しといたろ。


 そうだ、上司にもちょっとホモなやつの動画のURL教えといたろかー……スマホ明るいな?いや、なんか周囲が光ってる。



「ハァッ!?なんだこ──」



 ▽▽▽



 「れは眩しっ!!」



 なんだか奇妙な浮遊感があって尻もちをついてしまった。というか今誰かの声が聞こえたな。で、目を開けてみたんだが。


 なんかぼんやり薄暗いところに居た。



「いや、ここどこ?あ!誰か居るんですか?」



 誰か別の人が居るかと思ったらなんか変な声が自分から聞こえる。そうはならんやろ。三十歳の男の萎びた声が活力あふれる若者じみた声になってますが?



「そうはならんやろ」



 なってる。ちょっと意味がわからない。あと樹木が整然と立ち並び渓流が流れているキャンプ場特有の清々しい香りが一切しない、すっごいカビ臭くなってる。


 よく周囲を見渡せばレンガのような手のひらに余る大きさ石を積み重ねた暗い壁が前右左に見え、後ろはその石材?が崩れて埋まっていた。さらに俺はなんらかの模様が描かれた一枚板の上に座り込んでいる。


 立ち上がり、パッと尻の辺りを反射的にはらうと俺が普段履いている作業着のズボンが──自宅でカーゴパンツとして使ってるが便利なんだ──なんか妙にシンプルかつザラついたズボンに変わっている。パンツはゴム紐のトランクスからかぼちゃパンツのようなものになっており腰の辺りで紐を結んでいた。股間もついている。


 そういえば、上半身は速乾肌着の上に長袖のポロシャツを着ていたはずがざらついた丸襟の半袖シャツになっている。靴に至っては素足にサンダルが靴下とシンプルな布の靴になっている。


 さらに大問題が起きている。最近生え際を気にし始めた髪の毛が長いのだ。前髪は額が隠れる程度だが後ろ髪は肩につく程度に。それに立ったときの視界もなんか高い気がする。


 一つ、思い浮かぶ言葉は異世界転移という非常に現実味の無い言葉。まるでわけがわからない。しかし、俺は山の中から建物の中に移動しているということは確かだ。で、あるならば。


「誰かー!!どなたか居ませんかー!!HELLOOOO!!!ANYONE THERE!!!」


 エニワンゼアー……エニワンゼアー……という声だけが響く。川でいきなり気絶して、着替えさせられ、古臭い潰れかけた病院の霊安室にでも放置されたというパターンは無くなったと見ていいだろうか。


 しかし、静かすぎる。誰かが来る気配がまったく無いのはあまり良い兆候とは思えない。豪華絢爛キラキラした服を着た脂ぎって厭味ったらしいおっさんに、お前みたいな無能はいらない、と言われて追放されるほうがまだマシだ。


 ひとまずは周囲を調べるべきであろう。カビ臭くて湿った空気。部屋自体は……学校の教室ぐらいの大きさはあるだろうか。明かりは無いが青みがかってぼんやりと周りが見えるのが不思議だ。


 よく見れば俺は部屋の中央と思われる場所に居るのだろう。ひとまず後ろの崩れている壁を調べてみるが……多分これ上り階段じゃなーい?かび臭くて湿っぽいって地下の気配がするんだけど??


 とりあえず石材を一つ手に取ってみるがぬるりとする。うーんこれ武器になるかなぁ……。とりあえずこいつを持って、周囲の崩れていない壁をコンコンしていこう。


 左右の壁を力いっぱいゴンゴンしてみるが、中身が奥までたっぷりつまっているような音しかしない。嫌な予感がしつつ前方の壁をゴンゴンしていくと軽い音と共に壁がずるりと崩れた。いやなんだこの崩れ方はよ。


 崩れた壁の向こうには人がすれ違うのも難しそうな通路がまっすぐと伸びているのが青く薄ぼんやりと、しかし明確に見えていた。ゴンゴンブロックは置いてこ、狭いから邪魔だわ。


「光源が無いのにしっかり見えるってのもわからん感覚だな……しかしこの見え方、視界が青いしまるでゲームのナイトビジョンをつけているような……いや、待てよ?」


 俺はオタクである。ゲーマーともいうが、それでも異世界転移・転生モノというのを嗜んでいる。こういうパターンでは召喚時の際に何かしらの能力が付与されているというのが基本だ。そうなれば藁にも縋る思いである。



「ステータスオープン!くそっ!!メニュー!ステェェェェタス!ウッキー!!!オラッ!俺の手を鑑定!!」



 なーんも出ない。とりあえず俺の姿みたいから鏡欲しいわ。自分の声に慣れないんだよ。そういやスマホ持ってたよな……見当たらねえや。



────

初日なので3話同時投稿です

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