🌟第1話「自由選びチャレンジ」🌟
朝、山本悠斗は、いつものように目を覚ました。
ベッドのそばでは、担当AIのミアが、やさしい声で「おはよう」と挨拶してくれる。
「今日はお天気もいいですよ、悠斗くん。おすすめの朝ごはんは、トーストにスクランブルエッグ、フルーツサラダです!」
ミアの言葉に従えば、何も考えなくても、完璧な朝食が用意される。
けれど、その日は少し様子が違った。
ミアが、いつものように提案を始めたものの、途中で声を止めたのだ。
「えっと……あれ?悠斗くん、今日の“おすすめプラン”が……ありません。」
「え?どういうこと?」悠斗は目をぱちぱちさせた。
「どうやら、ミネルヴァのシステムが、今日は“推奨アルゴリズム停止モード”を試しているようです。」
「推奨アルゴリズム……停止?」悠斗は首をかしげた。
ミネルヴァとは、この街全体を管理する巨大AIだ。
誰もが自分の願いを伝えると、そのために最適な道を提案してくれる。学校のスケジュールから、部活の練習メニュー、食事の献立まで、何もかもがミネルヴァの「おすすめ」によって決まるのだ。
でも今日は、その「おすすめ」が、なぜか全部ストップしているらしい。
「つまり……今日は全部、自分で決めなきゃいけないってこと?」悠斗は、ぽかんとした顔でつぶやいた。
「そのようですね。朝ごはんも、登校ルートも、授業の選択も……ぜんぶ悠斗くんの自由です!」
ミアはちょっと困ったように笑いながら、でも少し楽しそうに言った。
悠斗は、急に目の前が広がったような気がした。
「自分で、決める……」
最初はワクワクしたけれど、いざ朝ごはんを選ぼうと思うと、何を食べればいいのか分からない。
パン?ごはん?オムレツ?サラダ?それともラーメン?
「うわー、どれにしよう……」悠斗は冷蔵庫の前でうなった。
結局、迷いに迷って、あり合わせの食パンにハチミツを塗り、牛乳を飲んで済ませた。
「まあ、こんなのもたまにはアリだよね」悠斗は苦笑いした。
学校に向かう道も、普段ならミアが「混雑が少なくて、信号待ちが少ないコースです」と案内してくれる。
でも今日はそれもナシ。地図を見ながら、普段通らない細い路地を通ってみることにした。
すると、知らなかった小さな公園を見つけたり、かわいい猫に出会ったり、友達とばったり会ったりして、なんだか楽しかった。
学校に着くと、クラスメートたちも「どうしよう!」とバタバタしていた。
「今日の授業、どの教室に行けばいいの?」
「お弁当、何を持ってきたらよかったのかな?」
「帰りの時間も、ミネルヴァの通知がこないよ!」
悠斗は、ふと思いついた。
「そうだ、せっかくだから、みんなで“自分たちで決める日”にしよう!」
友達を集めて、誰かが「今日は体育館でみんなでドッジボールやらない?」と提案。
別の子は「図書室で、好きな本を一緒に読もう!」と声をあげた。
みんなで話し合って、授業の合間に“自分たちで決めた時間”を作ることにした。
ドッジボール大会は、盛り上がって大笑い。図書室では、普段読まない絵本や冒険物語をみんなで楽しんだ。
「ねえ、なんだか、こういうのって楽しいね」友達の光が言った。
「うん、AIに頼らなくても、自分たちで楽しいことを見つけられるんだね」悠斗も笑った。
帰り道、ミアが「お疲れさまでした、悠斗くん」と話しかけてきた。
「今日は、たくさん自分で選んで、いっぱい楽しめましたね」
「そうだね。正直、最初は戸惑ったけど……自分で決めたから、すごく楽しかった」悠斗は心から笑った。
「これからも、少しずつでも、自分で決めることを大切にしたいな」
夕暮れの空の下、悠斗は、なんだか胸がポカポカしていた。
「よし、明日はどんなことを自分で決めようかな」
そして、その日の夜、ミネルヴァから街全体にメッセージが流れた。
「本日の“推奨アルゴリズム停止モード”は終了しました。皆さま、お疲れさまでした」
でも、悠斗の心の中には、新しい気持ちの種が残っていた。
「AIに頼るだけじゃなく、自分の力で動くって、なんだかすごくワクワクするな」
それは、ほんの小さな一歩。けれど、悠斗にとっては大きな冒険の始まりだった。
──次の日も、その次の日も、悠斗は“ちょっとだけ自分で決める”ことを心がけるようになった。
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