第5話

「なんだったのかしら? 今のニュース?」 

「さあ? あ、ぼくも前にやったことあるよ。幸多田インダストリー社のOUTLINEってゲーム。なんかクリックすると頭に勝手にダウンロードされてる気がして、身体が少し重くなる感じがしたんだよ。そうかあ、頭に直接ダウンロードされていたんだ……どうりで……」

「え? それでゲーム自体はどうなの? 身体を動かしてゲームで遊ぶの?」

「いや、なんだったかなあ? もう、忘れたよ」

  

 喫茶店のオーナーもこちらを見ていた。


 気づけば赤煉瓦の喫茶店へ避難した男や女も皆、こちらを見ている。


「OUTLINE……ゲーム……」

「ゲーム……」

「あ、昔一瞬だけ流行った」

「確か死者がでたって……」


 さっきのニュースのためか、OUTLINEというゲームには、あまり良い印象を持てなかった私の気持ちは、極度の胸騒ぎへと変わる。

 

 椅子から立ち上がり、赤煉瓦の階段へと走る一人の青年がいた。


 私を止めてくれた男も、今度は何故か青年を止めなかった。


 青年はそのまま階段を登って、外へと出てしまった。


「私も出てみたい。外がどうなっているのか知りたい」

「じゃあ、ぼくも一緒に行くよ。なんか不思議な気分になってきたからさ」


 赤煉瓦の階段から、外へでてみると、男の言う通りだった。


 蜂やカラス。蝿が空を埋め尽くしている。そして、新宿のスクランブル信号機は、見る影もなかった。倒壊したビルディングに、ペシャンコになった自動車が、信号機を交差する道路に鉄屑やガラスを散りばめている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る