本当にバカだよなぁ……

「うわぁ…… 話って不倫の話だったのかよ……」


 そうなんだよ、しかもパートで働いているスーパーの店長とだぞ? 

 まあ、旦那に内緒で二人きりで食事をしたのと、車でキスされてちょっと身体を触られたぐらいとは言っていたけど……


「未遂ではあるけど、立派な裏切りだからな…… でもそれをモモちゃんに相談しようだなんて…… 相当焦っていたんだろうな」


 自分で撒いた種なんだから自分で解決しろよ、とは思うけど…… 旦那さんに見られたんじゃ混乱しちゃうよな…… 


「そこだよなぁ、一番罪深いのは…… 直接見たならきっとショックが大きいよ、可哀想に……」


 本当にバカだよなぁ…… 

 もしもあたしが何かの間違いで男の人に、家族に内緒で二人きりで、って食事に誘われても、パパと子供達の顔が浮かんで行こうとは思わないぞ? 


 もし子供がいなかったとしても…… あたしが不倫なんてしたら、パパは泣きべそかいて大変だろうし…… 


「ああ、もしもカスミに不倫されたら、俺は泣く自信があるぞ、泣いて泣いて…… 最後にカスミを○して俺も○ぬ」


 こ、怖いこと言うなよ…… 


 まっ、パパにいっぱい愛してもらってるし、子供達はあたし達の事を大好きだし、あたしもパパと子供達も愛してるから、不倫なんてしようだなんて思いすらしないけどな!


 それが普通だと思っていたんだけど、身近でこんな事が起きると不安になるよな……

 おい、もし不倫なんてしたら…… ボコボコにして、チ○チ○もぎ取るからな! 覚えとけよ!


「カ、カスミの方がある意味怖いぞ…… まっ、カスミと子供達のおかげでこんなに幸せなのに、自ら幸せを手離すような事はしたくない…… それに、只でさえ普段から、もぎ取られるんじゃないかってくらいカスミに搾り取られているのに、更に他で使おうだなんていう気は全く起きる訳ないだろ? あははっ!」


 し、失礼な奴だな! 可愛い奥様とのスキンシップを何だと思ってるんだ! まったく…… なら本当にもぎ取るぞ!?


「おわっ、い、いきなり…… ちょっとストップ! ストップ!」


 おらっ! おらっ! へへへっ、これが好きなんだろ? パパの好きな所は全て知り尽くしているんだぞ……  んひっ!!


「こっちだってカスミの弱い所を全て知り尽くしているんだぞ?」


 あぁっ…… そ、そこはっ! やぁん! ダメぇぇ……



 …………


 …………


 

 やっぱりコミュニケーションが足りなくなると…… 寂しく感じるのかなぁ?


「うーん…… そうなんだろうな…… でも、だからといって不倫に走ろうとは思わないけどな」


 だよなぁ…… でもこんな事になって、あの夫婦はどうするんだろうな?


「さあな…… でもあまり首を突っ込んだら面倒な事になるから止めておけよ?」


 うん…… そうする。


 よっ、と…… パパとので今日もいっぱい幸せをチャージしたし…… そろそろカンナとワタルの部屋に戻るかな。


「えぇー…… もう今日はこのまま一緒に寝ようぜ?」


 バーカ…… あたしがベッドからいなくなってるのに子供達が気付いたら可哀想だろ? パパは我慢。


「分かったよ…… おやすみ、カスミ…… 愛してるよ」


 うん、あたしも愛してる、パパ…… 

 んっ…… そんなにねちっこくキスをするな、戻りづらくなるだろ? ふふっ。




 …………

 …………




「それじゃあ行ってくるよ」


「ママ、いってきまーす」


 二人ともいってらっしゃい!

 ほら、ワタルも保育園に行くぞ!


 …………


「ママー! ばいばーい!」


 ちゃんと先生の言うこと聞いて、いい子にしてるんだぞー


 ふぅー、忙しい朝の時間が終わった…… さて、帰って掃除と洗濯をぱぱっと終わらせて、そして昼過ぎにスーパーに買い物に行くか…… って、モモじゃないか、おはよう!


「あっ、カスミちゃんおはよう、この間はごめんね…… カスミちゃんがいてくれて助かったよ」


 何度も謝らなくていいから、もう気にするなって。


「うん…… それでね、あの後帰ってからうちのパパにも話を聞いてもらったんだけど…… 旦那さんに見られたんじゃ再構築は厳しいんじゃないかって言ってたの……」


 まあ…… そうだよな……


「それに一度裏切られたら、一生心のどこかで疑いながら生きなきゃいけないし、旦那さんも耐えられないんじゃないかって…… 私、何だか過去の自分の事を言われているようで、少し落ち込んじゃった」


 あたしもバカだった過去の自分を思い出して少ししょんぼりしちゃったよ、だからその日の夜はパパに……


「そしたらうちのパパがね? 『僕が不倫しようだなんて頭に浮かばないくらいママを愛すから大丈夫』って…… あの日の夜はパパにたっぷり慰めてもらったの……」


 お前もか! あたし達は似たような事を考えているな! ったく…… 


 モモの旦那は、モモが過去に何をやらかしたのかを知ってるし、モモがどれだけ後悔して反省してきたのかも知っている。

 それでもモモと一緒に幸せになりたいと結婚してるんだから…… 大丈夫だろう。


 モモも一生一人で生きていく覚悟までしていたくらいだから…… もう同じ過ちは繰り返さないはずだ。


 あたしもずっと反省していたモモを見てきたから…… 大丈夫だと信じている。


「それでなんだけど…… カスミちゃん、今日予定ある? お詫びにイチゴタルトが美味しいっていうお店を見つけたんだけど、ごちそうするから一緒に行かない?」


 何ぃ!? イチゴタルトだと! 行く! 

 昼過ぎから買い物に行こうと思っていたから、その後でいいか?


「ふふっ、じゃあお昼過ぎに迎えに行くね」


 おう! じゃあまた後でなー!


 へへへっ、イチゴタルトかぁ…… 

 だけどみんなに内緒で食べるのは申し訳ないからお土産に買って帰ろう!

 もちろん家族みんなで仲良く食べるためにあたしの分も買うけどな!


 

 …………



 ふぃー、最近は何もかも高くて、買い物も選ぶのに一苦労だ。


「そうだねぇ、でもやっぱりこの辺で比較的安いスーパーっていったら……」


 ああ…… 『コマンダー常磐』なんだよなぁ……


 モモはパートで働いているから良いかもしれないが、あたしは初対面なのにあんな好き勝手言っちゃったから、もし見かけたら気まずい。


「タマコさんはあの後すぐパートを辞めたからもういないよ…… 店長さんは勤務中だと思うけど……」


 うへぇっ、じゃあさっさと買い物をして店を出ないとな……



「俺の妻と不倫してたのはアンタだろ!?」


 んっ!? 向こうからデカい声がするんだけど…… しかも『俺の妻と不倫』って聞こえたような……


「お、お客さん、一体何の話を……」


「知らないフリしても無駄だからな! 写真も撮っているんだ!」


 おいおい…… あれ、ヤバくないか?


「あ、あの人…… タマコさんの旦那さんじゃないかな?」


 な、何だと!? じゃあ怒鳴り付けられてアタフタしているあのデブ親父が……


「うん…… 店長の『ヤベノ』さんだよ」


 マジか…… あの男がタマコさんに不倫しようとアプローチしていたのか……  旦那さんはイケメンなのに…… ま、まあ、人それぞれ好みがあるし? 顔だけじゃないからな、容姿の話は止めておこう。


 それよりも客やら店員が二人の周囲に集まってきたぞ!? 大丈夫か?


「お前のせいで俺の家庭はめちゃくちゃになったんだ! 絶対に許さないぞ、このクズ!!」


「ちょ、ちょっと…… あまり大きな声を出さないで……」


「既婚者を二人きりで食事に誘って、しかもキスをして、それから妻の身体を……」


「ちょ、ちょっと! お客さんもいるんですから、ここでは……」


「その話、詳しく聞かせてもらえないかしら?」


 んっ? スーツを着たおば様が二人の間に割って入ったけど…… 勇気あるなぁ。


「わわっ、あれ…… 店長の奥さんだよ」


 えっ!? マ、マジか…… これは修羅場になる予感がする。 

 おいモモ、買い物は中止にして店を出るぞ!


「えっ? あっ、カスミちゃん…… 待ってよぉ!」


 このままあの修羅場を見ていたら関係のないあたし達まで気分が悪くなりそうだ。


 只でさえ聞きたくもなかった不倫話を聞かされてイライラしていたのを、パパに癒してもらってやっと落ち着いたのに…… またイライラしちゃうだろ!!


 あたし達にはもう関係のない話。

 モモの時はまだ学生だったし、周囲にイライラして首を突っ込んじゃったけど、あたしはもう大人で、妻で母親なんだ…… 


 だから他人の家庭の問題なんかどうでもよくて、あたし達は自分達の家族の幸せだけを考えていればいいんだ…… 


 それでいいんだよ……

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