ニノハラ怪奇録 ~夏幻のようじょ:ダムに沈んだとーふ~

 ボクはニノハラ。趣味で小説を書いて投稿サイトに投げてるいたって普通の一般人だ。

 これはそんなボクが体験した、ある夏の不思議な話。


 それはなんてことのない夏の日だった。

 自作を書き進めるのに詰まってきて……と言うのを言い訳についっつーを開いて眺めていた時だ。

 ついっつーは、世に溢れるSNSと同じように、色んな人と繋がったり短い文章や画像などを投げたりできる場所だ。

 ついっつーには同じ創作を趣味としてる人たちとたくさん繋がっていて、みんな個性的で楽しい人たちばかりだ。

 みんなが色んな創作の話をしてるのを読んだり、ボクと同じように行き詰まってストレス解消している様子を眺めたりするのが大半なんだけど……。

 時々ちょっと面白いイベントが立ち上がるんだ。

 例えば匿名で小説の書き出しを競う企画や、同じく匿名で同じテーマを書いて競う企画とか。

 企画に参加すると、ボク自身知らなかった視点を感想で貰ったり、他の人の文章を読んで勉強したりできるから、企画の文字を見るとついワクワクしちゃうんだよね。

 企画を頻繁に立てる人とかもいて……。


「あ、とーふさんがまた何か思いついたみたい」


 案の定というかなんというか。

 ボクのついふぉろさんで、よく企画を立ててる人が何事か呟いていた。


=====

《とーふ》

企画って面白そうだね!

私もやってみようかな!

ある街を舞台にしたホラー企画。どうどう?

面白そうじゃない?


《???》

やってみようかなって、今までも散々やってましたけど

もしかして【記憶喪失】


《???》

蛮族の中では、一桁はやってないっていう判定なんでしょ


=====

 

 他のついふぉろさんも言ってるけど、最近意欲的に企画を立ててるとーふさんにしては変な発言だな?

 頭の中にハテナマークを飛ばしながらボクも返信する。


=====

 

《ニノハラ》

これが蛮族……!:(;゙゚'ω゚'):


=====

 

 ちなみに蛮族って言うのはもりもり創作する人のことらしい。


=====

 

《とーふ》

じゃあ、じゃあ企画のページできたから!

いっぱいお話作ってね!

待ってるよ!


《???》

相変わらず動きが早くて草


《とーふ》

おー!

早速1話貰ったよ! 花浅葱さんから!

怖い話だねー!


=====


 ふむ。ついふぉろの花浅葱さんがもう出したみたいだ。

 ……ボクも負けずに書いてみようかな。

 だけど……とーふさんってこんなノリだったっけ?

 ボクは不思議に思いながらもホラー小話をとーふさんに投げるべく、パソコンと向き合った。

 

=====

 

《とーふ》

今日はーニノハラさんから貰ったよー!

今日もこわーい話だねー!

みんなすごーい! もっと! もっと持ってきてね!


《花浅葱》

>ニノハラさん作

質問なんですけど、これって未成年が読んで大丈夫なやつですか?


《とーふ》

>花浅葱

大丈夫だよー! 読めたよー!


《ニノハラ》

>花浅葱、とーふ

ホラーだよ?(੭ ᐕ))

書いてある部分はホラーだよん()

 

=====


 全く二人とも、ボクが普段R18小説をメインに書いてるからって……。

 まぁつい筆が滑るとえっちなシーン書きがちだけどさぁ。

 その後は別の企画の話とかしながら、いつも通りだった……はずなんだけど……。


=====


《とーふ》

今日は街の絵を描いてきたよー!

見てみて! 上手でしょー!


《ニノハラ》

おお!地図だ!これ、上が北?

そしたら、北東(鬼門)にお墓か神社?

南西(裏鬼門)にある1番新しいトンネルが、1番やべぇみたいな展開もおいしい。


《とーふ》

チガウヨ。丑寅の方角はダムのところ〓よ。

鬼門にダムを作るから……あんな繧瑚。〓縺倥


=====


 あれ? とーふさんの文字が……。


=====


《ニノハラ》

ん? とーふさんなんか文字化けしてる?


《とーふ》

そう?


《ニノハラ》

気のせいか。ホラー企画やってるから幽霊が混線してきたのかもねー


《とーふ》

そうだね!

きっと一緒に企画を楽しんでるよ!


=====


 とーふさんの言葉に少しだけ首を傾げる。

 とーふさんて、心霊現象肯定派だったっけ?

 どちらかと言うと……。

 そこまで考えた瞬間、何故かぞわりと背筋に怖気が走り、ボクは慌てて別の話に切り替えようとした。


=====


《ニノハラ》

それにしてもスゴい詳細な地図だねぇ!

まるで本当にある町みたい(*´艸`)


=====


 話の切り替えヘタクソかっ!

 全然切り替わってねえなっ!

 ボクの心の中でお笑い芸人がツッコミを入れてるけど、投げちゃったモノは仕方がない。


=====


《とーふ》

アるよ……。

みんな、もっと小説書いてくれ〓いかな!?

いっぱい! いっぱいお話が欲しいな!

怖いお話! いっぱい! いっぱい欲しほしア縺輔〓窶ヲががガ


《ニノハラ》

とーふさん環境大丈夫? 文字化け凄いけど


《とーふ》

ここは暗いけど、大丈夫

変じゃないよ。だってここは私のお家だもん


《ニノハラ》

(੭ ᐕ)) ?


《???》

まぁとーふさんの家の回線雑魚って前に言ってたし


《???》

遂に文字化けするレベルに……


《とーふ》

とにかく!!

みんなお話! 書いてよ!!

お話読みたいの!! ね!!


《???》

ま、まぁ、別に良いですけれども


=====


 ……やっぱり、何かが変だ。

 確かにとーふさんは企画を頻繁に立てるタイプだけど、運営する時はもっとこう……理性的なやり取りをするタイプだ。

 普段の企画とは違うとはいえ、こんな玩具おもちゃを強請る幼女みたいな態度を取るなんて、ちょっと考えにくいんだけど……。

 ボクはなんとなく、そうなんとなく怖くなって、この企画はそっと見守ることにした。


 それから数日後。


「あれ? とーふさん今日もいない?」


 いつも何かしら発信してるとーふさんの姿が、ここ最近見当たらない。

 ついっつーのバグかな? と思って直接とーふさんのページに飛んでみると、ここ何日か何も発信していないみたいだ。


「……どうしたんだろ?」


 なんとなく、そうなんとなく気になって、今度は最後にとーふさんが発言を残してたホラー企画のページへと飛んでみた。


「……な、に、これ……」


 そこに残されていたのは、半分近く文字化けしてる花浅葱さんの小話と、1/3文字化けしてるボクの小話だった。

 そして……それと相反するように、エクセルで作られたシンプルな図だったはずの地図の半分が、まるで本物の地図みたいに緻密にえがかれていた。


「え……? どいうこと……?」


 百歩譲って地図はまだいい。

 なんとなく凝りたくなって、地図が描けるサイトとかを駆使して描いたのかもしれないし。

 だけど小話の方は……。あのとーふさんが他の人から預かった物を勝手にぐちゃぐちゃにするとは思えない。

 こちらの文字化けも疑って、スマホだけじゃなくパソコンで見てみたり、文字コードを弄ってみたりしたけど良くならない。

 それどころか……色々試してる間にも文字化けが進んでいるように見える。

 それはまるで誰かが小話を侵食していってるみたいで……。

 ぞわぞわと背筋が冷える。

 キィンと鼓膜を揺らす金属音まで聞こえてきて、ボクは金縛りにあったかのように動けないでいた。


 ピロン


「ひっ!」


 軽快な通知音が鳴った瞬間、ボクは解放されたかのように椅子から転がり落ちた。

 強かに打ちつけた尻を撫でつつ、タイミングよく通知音を鳴らしてくれた相手に感謝する。

 だって……。

 この音が鳴らなければ、ボクはこのまま……。


 そんなバカなとかぶりを振りつつ、胃の奥に冷たい氷がわだかまっているようで、どこか不安で不穏だ。

 無意識にその部分を撫でながら、通知音の出所を確認する。

 それはついっつーの個別メッセージだった。

 送ってきた相手は……。


「カナタさん……?」


 カナタさんはとーふさんの相方さんなんだけど、ボクと直接やり取りする機会はあまりない。

 あまりに存在感がないことから、他のついふぉろさんたちは、実は二重人格だったとーふさんの別人格じゃないかと疑われてるくらいだ。

 そんなカナタさんから直接のメッセージ。

 さっきかぶりを振って追い払ったはずの恐怖が、再び這いずって近づいてきたような気がした。

 恐る恐るメッセージを開いてみると、追いついてきた何かに足首を掴まれたような恐怖を感じてしまった。


 そこに書かれていたのは……。

 

『突然のメッセージ失礼します。実はとーふの事で相談がありまして。

 とーふの行き先に何か心当たりはありませんか?』


 ごくりと唾液を嚥下する音が静まり返った部屋に響く。

 しばらく茫然とメッセージを眺めているだけだったが、慌てて返信をする。

 いったいどういうことだと。


 そんなボクの問いにカナタさんから返ってきたのは、衝撃的な内容だった。

 どうやらとーふさんは数日前から行方不明になっていたらしい。

 ある街に行くと言って出て行ってから帰ってこないそうだ。

 カナタさんが、残されたとーふさんの痕跡から探し当てた行き先らしい住所を送ってくれた。

 地図アプリに住所をコピペして、表示された地図を見た途端、ボクは震えが止まらなくなっていた。

 

「……この街って」


 そこは、ホラー企画で舞台としている街と完全に一致していた。

 慌ててホラー企画のサイトを開く。そこに残されていたのは最早文字化けしきって読めなくなった二つの小話の残骸と……。

 まだ不完全とはいえ、地図アプリと全く同じ場所の描かれた地図だった。


「え、えぇ……? これは、ネタなの? もしくは本当に?」


 ボクは震える指先をなんとか動かして、カナタさんにホラー企画のサイトのURLと、経緯を説明する。

 カナタさんからの返事は……ますますボクを混乱に陥れた。


『タイムスタンプを見る限り、この企画が立ち上がった頃には、すでにとーふは行方がわからなくなってました』


「じゃあ……誰がこの企画を立てたっていうのさ」


 口ではそう言いつつも、なんとなく腑に落ちるものはある。

 いつもとどこか様子の違ったとーふさん。

 アレは誰かにアカウントを乗っ取られていたから?

 だとしても、普通アカウントを乗っ取る人間は企画を立てたりしない。

 アカウント乗っ取り犯のやる事といえば、変なアフィリエイトに誘導したり、さらなるアカウント乗っ取りの為に情報を抜いたりとか、とにかく悪どいことに使うのが常なのだ。

 決して、ホラー企画を立てて物語を求めたりしない。


 この奇妙な状況に、ボクはぞわぞわしつつも、妙な高揚感に襲われ始めていた。

 いや、とーふさんが行方不明になってる以上、事件か事故か、とりあえずシロウトには手に負えないことが起きていることは明白なんだけど。

 だけど、何故犯人はホラー企画を立てたのか? という疑問に非常に興味をそそられるのだ。


 ふむ。と一つ思案して、スケジュールアプリを開く。

 地図の場所まで行けそうな日をいくつかピックアップして、カナタさんへメッセージを送る。


 もちろん、その目的を書くことも忘れない。


「えっと、とーふさんを探しにこの地図の場所まで行ってみませんか? っと」


 メッセージが確かに送信されたことを確認して、ボクはころりとベッドに寝転がった。

 視線の先には見慣れた天井。

 ホラーにお約束の謎の影が映ってたり、長い黒髪が垂れ下がったりしてるはずは、もちろんない。


 だけど確実に。

 あの地図の場所にはナニカがるのだろう。


「さって、鬼が出るか蛇が出るか……」


 ボクはそっと目を閉じながら、カナタさんからの返事を待っていた。

 きっとカナタさんは、ボクと一緒にあの場所へ行ってくれるだろうと、妙な確信を持ちながら……。



 


 ……カナくん……ニノハラさん……どこ……? ここ?

 水の音しか……聞こえない……。

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