第19話『刻まれた絆──ルナとシィ、そして“弟”という存在』

リィカ村を包んでいた炎は消え、夜の帳が静かに降りる。

風が、焦げた木々の匂いを運ぶ中――生き残った村人たちが、再び焚き火を囲んでいた。


「……終わったのか?」

ゼルガが虚空を見つめながら言った。


「いや、始まったばかりだよ」

ノクスはそう答えると、手にした“破られた聖騎士団の魔術書”を開いた。


その最終ページに記されていたのは――たった一行の名前だった。


No.28 - ラキ=ブラッドフォックス(現在、教団の手にあり)


 


――実験体28号。ルナの“弟”


「……ラキ」

その名を見た瞬間、ルナの瞳が大きく揺れた。

無表情だった彼女の頬に、かすかな色が差す。


「……まさか、生きてたなんて……」


「知ってるのか?」ノクスが問う。


「私と同じ、獣人の子。施設で唯一、私が“守ろうとした存在”だった」


「弟、なの?」


「血は繋がっていない。ただ、あの場所で唯一、

 私が“名前”で呼んだ相手だ」


 


――シィとの時間


その夜、村の仮設テントで、ルナは珍しく誰にも命じられずに休んでいた。

そこにそっと入ってきたのは――シィだった。


「……ルナさん、大丈夫?」


「問題ない。心配して損をするぞ」

そう言って背を向けるが、シィは構わず傍に座った。


「わたしね、ルナさんのこと……ずっと冷たいと思ってた。

 でも今日、戦ってる姿、なんだか……涙が出そうだった」


「……ふん。そう言われても困る」


「弟くん、探しに行こうよ。一緒に、ノクスさんと」


ルナは黙っていたが、手を小さく握りしめた。


「ありがとう。シィ……お前は、よく喋るな」


「うん。うるさいってよく言われるけど、だって仲間だもん。

 辛い時は、いっぱい喋ったら、少し楽になるよ」


「……ああ。そうかもしれんな」


その時、ルナはほんのわずかに、口元をゆるめた。

それは、“信頼”という名の微笑だった。


 


――次の目的地へ


翌朝、ノクスたちはリィカ村の再建を村人に託し、再び旅立つことを決めた。


「目指すは北西。旧神殿跡地に、教団の影がある」


「弟くん、そこにいるのかな?」とシィが問えば、


「……あいつは、きっと私を待っている」

ルナが強くそう言いきった。


その瞳は、もはや過去に囚われた実験体のものではなかった。

冷静な参謀の中に灯った、“姉”としての温かな決意。


「必ず、取り戻す。今度は、誰にも傷つけさせない」

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