第5話 『嘘で塗り固められた正義──次なる復讐は“教育”の名を借りた裏切り者』



王都に向かう途中、俺たちは小さな街“グランベル”に立ち寄っていた。

ここは、かつて王立学院の出張分校があった町だ。

そして、そこにいたのが──


安藤 教師(あんどう きょうし)

俺たちを異世界に連れてきた張本人であり、そして最初に俺を「無能」と断定し、王族に「使えない」と進言した男。


(あの男がいなければ、俺は捨てられなかった……)


記憶が鮮明によみがえる。

能力鑑定の初日、教師の顔は冷笑に満ちていた。


「“鑑定士”? そんな地味職、パーティに必要ないな。お前は補欠だ、藤堂」


そして、補欠という名の「追放」が決定された。


(……この手で、責任を取らせてやる)



グランベルの街の掲示板に、気になる依頼が貼られていた。


【盗賊団“黒牙”討伐 報酬:500金貨/Sランク】

※目撃情報:獣人奴隷の逃亡事件と関係あり


(獣人奴隷……)


その文字に、美琴とリュミエルが同時に俺を見た。


「藤堂さん、この依頼、妙ですね。盗賊討伐にしては条件が曖昧すぎます」


『それに、“獣人”って、魔族と違って根っから悪じゃない。逃げたってことは……何か裏があるかも』


俺は、即決した。


「……この依頼、引き受けるぞ」



夜。森の奥。

盗賊団のアジトを見つけた俺たちは、静かに潜入する。


……だが、驚いた。


そこにいたのは、盗賊などではなく、獣人の子どもたちと、それを守る数人の戦士たちだったのだ。


「な……これは……?」


その中心にいたのが、銀の毛並みと金色の瞳を持つ少女。


「……ここは、“逃げた者たち”の隠れ里。侵入者には容赦しないわよ」


鋭い視線と、体からあふれる野生の気配。

ただの娘ではない。

彼女は、獣人族の長の血を引く――


ルナ=ウル=ファング

かつて王都で奴隷として捕らえられ、虐待を受け、逃亡した“王族級”の獣人少女。


「……落ち着け。俺たちは討伐に来たんじゃない。お前たちを狩らせようとした奴の正体を探りに来ただけだ」


「信じられる理由は?」


俺は、ゆっくりと背中のグラムを抜いた。


「この剣が嘘を嫌うからだ。あと……俺も“捨てられた側”だからな」


沈黙の後、ルナはグラムを見つめ、小さく笑った。


「……いいわ。信じてあげる。ただし、私が役に立つと思ったら、ね」



その夜、ルナは俺にある情報を教えてくれた。


「……人間の教師が、王都に『使えない子供や奴隷を山に捨てろ』って命令してる。あんたの言ってた教師と、同一人物かもしれない」


(……やっぱり、あのクズ教師だ)


ルナの証言と、俺の記憶が一致する。


「協力してくれるか、ルナ。あの男に“教育の代償”を払わせるために」


「……ふふ。借りは嫌いだけど、貸しを作るのは好きよ。私を使いなさい、“人間”」


こうして、俺の仲間にもう一人──


野性と知性を併せ持つ獣人の少女が加わった。

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