18. Rhythm 0.93
体育館の床は、朝の陽射しに磨かれてキラキラと光っていた。
土曜の午後、部活動もないはずのこの場所に、
今日は全校生徒が大集合している。
「ペアリズム大会、いよいよ決勝戦です!」
AI司会の元気な声が響きわたる。
今年から導入された“Rhythm 0.93”――
AIがリアルタイムで二人の動きや鼓動を解析し、最適なリズムをアシストしてくれる新競技。
リズム感と信頼、ペアの息がぴったり合わなければ、絶対に勝ち上がれない。
僕――慧は、手のひらが汗ばむのを感じていた。
目の前にいるのは、幼なじみの莉緒。
小学校のときからずっと隣にいるのに、ペアで何かに挑戦するのはこれが初めてだった。
「大丈夫、慧。AIがついてるから!」
莉緒が少し緊張した笑顔で僕にウインクする。
僕も笑い返す――けれど、内心は心臓が暴れそうだった。
AIからイヤホンを通じてカウントダウンが始まる。
「3、2、1――スタート!」
体育館に流れるビートに合わせて、ペア競技が始まった。
AIは莉緒と僕、それぞれの心拍やステップ、微妙な呼吸のズレまで測定し、
「右、もう一歩。左、少し早く」
と、まるで見えない指揮者のようにリズムを導いてくれる。
僕たちは呼吸を合わせ、手を取り合ってステップを踏んだ。
誰よりも慎重に、けれど、思い切り楽しんで――。
周りのペアが次々と脱落していく中、
僕たちの動きはどんどんシンクロしていった。
莉緒の手のぬくもり、ほんのり香る汗、
そして、AIが「Perfect!」と褒めてくれる小さな音。
最後の難関。
「ペアリズム・フィニッシュ!」
AIが特別なビートを流し始める。
僕と莉緒はアイコンタクトでうなずき、最後のステップを息をぴったりに踏み切った。
――見事、ゴール。
体育館に歓声が沸き起こる。
AIのディスプレイが虹色に輝き、
「ベストペア賞、おめでとうございます!」
のメッセージが天井いっぱいに映し出された。
全員が拍手を送るなか、AIがふたりの真上にスポットライトを当てる。
周囲の音が少しだけ静まる。
「慧、あのさ……」
莉緒が、照れくさそうに小さな声で切り出す。
その横顔が、ライトに照らされてきらきらと輝いて見えた。
「私……慧とこうやってリズムを合わせてると、
なんだかずっと前から“ふたりだけの世界”にいる気がしてたんだ」
スポットライトの中、莉緒の声だけがはっきりと響く。
僕は心臓が跳ねるのを感じながら、勇気を出して答えた。
「僕も……。
ずっと、莉緒のことが好きだった。
今日、ペアになれて本当に嬉しかった」
莉緒が小さく息を呑み、それから柔らかく微笑んだ。
「じゃあ、これからもずっと、隣でリズムを合わせてくれる?」
AIが、ふたりのステップをセンサーで記録し、
「Congratulations!」のBGMがゆっくり流れ始めた。
僕たちは、自然に手を重ねて、笑い合った。
体育館の天井には虹色の光が踊っている。
リズムとリズム、鼓動と鼓動、
“息を合わせる”という奇跡が、
この日、ふたりの恋のはじまりに変わった。
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