物語の結末編

第23話 かなりまずい状況

 場面は少し昔にさかのぼる。


「オリオ!オリオ!起きろ!オリオ!」

「んぁん!?」


 叫ぶようなその声に驚いて目を開ける。移動する部屋……僕は寝ている間に馬車に乗せられていた。もちろん頭には疑問が浮かぶ。どうして別れの挨拶もなしに、両親は僕を馬車へ乗せたのか。


「気づいたか?オリオ。」


 聞きなじみが全くない、男にしては高めの声が横からしたので、そこを見ると赤毛の少年が座っていた。相手は僕のことを知っているらしいが、僕は全く分からない。


「ごめん、誰か分からないんだけど…どなたです?」

「おう、俺はあんたの親に依頼されて今馬車を操縦している者、カラスだ。」


 カラスという少年は、僕に明るく笑いかけた。まるで太陽のようだと、直感で感じた。しかし、そんなことより、彼には気になることがあった。


「なんで僕の名前を…?」


 と聞くと、彼は人差し指で僕の横を指さした。そこには大量の荷物が置いてあり、その全てに僕の名前が張り付けられていた。


「過保護な親もいたもんだな。そういうメーカーの商品かと思ったぜ、”オリオ商会”とか。なんかありそうな感じもするからな。」


 彼は耳障りなほどにうるさく笑った。今この馬車が走っている林道に(谷でもない、周囲には木しか生えていないはずなのに)恐ろしく響き渡った。


 僕は耳をふさぎながら、もう一つ気になること聞いた。


「今…この馬車を運転してるのは?僕達以外誰もいないですよね?」


 彼は僕の隣で足を組んで座っているのみで、馬の手綱を握っていなかったのだ。加えて、ちらりと運転席の方を見ても、誰もいる様子がなかった。


 僕の問いかけに彼は「あぁ、そうだね。田舎育ちだと初めて見るもんね。」と、いらない言葉を吐いてから言った。


「魔法さ。馬を操縦する魔法。使役テイムのが近しいけども、細かいところはあんま気にしなくていいのさ。」


「それを言うなら魔法じゃなくて魔術でしょ?そんな誰かのおさがりみたいな服を着てるあんたでも扱えるんだから、誰かが定式化してるはずだよ。」


「一言多いし初対面の人に対して失礼すぎやしないか?なんでそんなひどいことを言えるんだ?」


「あんたも言ったからに決まってるだろ。」


 彼の言ったことに何度も食って掛かると、彼は僕の肩にポンと手を置いた。


「まあまあ、わかった。俺が悪かった。俺が悪かったよ。はい、これで会話おしまいな。」


 思い切り負けた気がする。多分気のせいだろう。


 会話も落ち着いたところで、突然馬車が停車した。割と早く走っていたので、体が馬車の進行方向に引っ張られた。積み上げられた荷物のいくらかが倒れてしまった。


「え、何があった?」


 馬車の正面を見ているカラスに声をかけた。彼は目を見開き、視線も変えぬまま呟いた。


「…盗賊団だ……この馬車、盗賊団に完全に包囲されてる……。」


 彼の顔は、まるで狼の群れの前に放り出された小鹿のように、絶望の色に染まっていた。



×××



 「旅は道連れ世は情け」とは言うが、まさかこんな道連れは予想していなかった。いや、僕の親が御者―――カラスという男に依頼して今に至るのだから、どっちかというと僕が彼を巻き込んだ形になりそうだ。


 カラスは腰に掛けていた剣を抜いた。刀身がギラりと光を反射した。


「さて………」


 彼は大きめの袋を取り出し、僕に渡してきた。


「これに身を隠せ。荷物の振りをしててくれ。」

「カラス…?カラスはどうするんだ?」


 彼は馬車の外に視線をうつした。そして、一度抜いた刃を鞘に納めた。


「…交渉してくる。運が良ければ積み荷の半分を取られるだけで済むかもしれんからな。…ほら、早く袋に身を隠して積み荷に寄り添っとけ。」


 催促されるがままに、僕は頭から袋をかぶった。大きさは少し大きめで、うっすらと外の光を通していた。カラスの足音が遠ざかる。


(……てか、積み荷の半分を取られるって時に僕が荷物の振りをしてたら…もしかしたら……)


 最悪の場合を考えても意味はない。僕は心の中に落ち着きを取り戻そうと深呼吸した。


 盗賊は馬車を襲って積み荷を奪い、独自のルートで売り飛ばすと本で読んだことがある。人が売り物になるかは分からないが、僕が売られるとして、そんなに価値は出ないだろう。だからきっと、僕は見逃される。多分。おそらく。


(いやでも、一応積み荷として降ろされたら魔法で抵抗しよう。うん、そうしよう。まさかよりにもよって僕が降ろされるとは思えないけれどね。)


「うぉ!すげぇな!こんだけあんのか!」


 馬車の後ろから声がした。声で、こいつはカラスじゃないという事だけは分かった。交渉は果たして成功したのだろうか。


「お前ら!早く持ち出せ!とっととずらかるぞ!」


 馬車の中に大人数の足音が響く。次々に荷物が降ろされていってるのを感じる。絶対に交渉は失敗している。半分以上、というか大半が降ろされてしまったからだ。


 そして、僕の番も来た。急に地面が横になり、僕の頭には絶望の二文字がよぎった。


「よし、この麻袋は?中身はなんだ?」


 おそらくカラスに聞いているのだろう。外の様子が分からないのは不便で仕方ない。早いところ外に出たいと強く思う。


「人です。男の子です。」


(窮屈だし、肌触りがザラザラで不快なので、早いところ出て………ん?)


「ほう、男児は労働力としても、変態貴族の愛玩用としても需要があるからな、高く売れるぞ。」


(一旦待ってほしい。今、僕のことを売ってなかったか?いや、そりゃ脅されてる状況なら仕方はない……だろう。とりあえず、この麻袋から早いところでないと…)


 僕は袋の天辺を広げようとした。しかし、少しも開かない。固い紐で縛られているようで、びくともしない。


(…これ…ひょっとするとかなりまずい状況…!?)

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