神様の不手際

暇野無学

第1話 嘲笑

 神父様に名前を呼ばれて、授けの儀に望む顔見知りや見知らぬ子供達。

 毎月15日、10才前後で生活魔法が発現した者だけが、授けの儀に臨むために教会に集まって来る。

 皆それぞれ、親の励ましを受けて祭壇に向かっている。


 結果は悲喜こもごもで、魔法を授かって喜ぶ者もいればがっかりした顔の者。

 望む魔法を授かっても、魔力が足りなくて泣き出す者もいる。

 スキルに至ってはがっかり度も大きく、望むスキルは神様次第ってところかな。


 「エイリーン、今日の良き日を迎えたことに感謝の祈りを」


 神父様に呼ばれて祭壇の前で跪く少女。

 その姿が淡い光りに包まれたのを見て、魔法かスキルを授かった事が判った。

 嬉しそうな少女が、神父様に導かれて魔法陣の描かれた魔力測定板に向かう。


 「エイリーン、水魔法、風魔法、工作スキル、裁縫スキル、魔力は53である。ランジュエール様に感謝の祈りを」


 神父様が魔力測定板から読み取った魔法とスキルを告げられて、泣きそうな顔の女の子が祭壇の女神像に感謝の祈りを捧げている。

 見るからにがっかり顔での祈り方だ。


 次々と名前を呼ばれて祭壇の前に進んでいるが、授けの儀に参加できる者は限られている。


 それは生活魔法が余裕で使える者にしか、魔法やスキルは授からないからだ。

 一般に言われているのは、魔力5以下で病弱な者は100人中1、2人。

 魔力5~8程度で、何とか生活魔法が使える者は100人中10~15人。

 生活魔法が余裕で使える者は魔力8~15で、ここまでが授けの日迄の魔力高だと言われているが、正確には測れないらしい。


 授けの儀は、生活魔法が余裕で使える者が参加するが、何とか生活魔法が使える者が無理に参加しても魔法を授かった例は無いそうだ。

 その為に、授けの儀に参加するのは余裕で生活魔法が使える者だけだ。

 今日この場に臨む者は七人、俺も漸くこの日を迎えた。


 此処からはガチャポンの世界で、スキルのみを授かる者が30%。

 魔法のみを授かる者が20%で、魔法とスキルを授かる者が10%となる。

 ガチャポンの本領は此処からで、スキルを授かった者は僅かしか魔力は増えない。

 魔法を授かれば魔力は増えるが此もピンキリとなる。

 最高魔力100から、生活魔法より少しマシな魔力まで様々である。


 魔力が35~55の者は殆ど魔法が使えないか、数度の魔法で魔力不足で使えなくなるが、無理をすれば魔力切れ寸前で動けなくなる。

 魔法を使って魔力切れで死ぬことはないが、動けなくなって死ぬことは結構あるらしい。

 魔力が55以上となれば、此も人によるとしか言いようがないようで、魔法巧者と言われる者でも魔力が55~70程度の者も結構いるらしい。

 が、魔法を使い熟せるのは100人中4、5人程度だと言われているので、優秀な魔法使いになるのは中々狭き門だ。


 真剣な顔で祭壇に向かう糞ガキは、同じ教区の教会で基礎教育を受けたクラウドで、騎士か冒険者希望の奴だ。


 「クラウド、は火魔法、雷撃魔法、結界魔法、躁剣スキル、気配察知スキル、魔力は68である。ランジュエール様に感謝の祈りを」


 奴が授かったものは、火魔法、雷撃魔法、結界魔法、躁剣スキル、気配察知スキル、魔力は68で、奴の望みは叶いそうだ。

 俺は最後に呼ばれて神父様の前に立った。


 「ライアン、創造神ランジュエール様に祈りを」


 ランジュエール神像、力作ではあるが傑作とは言い難い女神像の前で、真剣に祈りを捧げる。


 (ランジュエール様、我が身を守り安心安全な生活を送る為の、魔法やスキルをお授け下さい)


 糞ガキの様に、騎士や冒険者になるつもりなど欠片もない。

 無病息災家内安全が、元日本人の心意気・・・小市民だった俺の願いだ。

 頭の中に光が溢れる感覚があり魔法かスキルを授かった事が判った。


 「あんな貧乏人でも魔法を授かるのか」


 糞ガキの声が教会内に響き渡り、こんな時でも人を馬鹿にしなきゃ気が済まないようだな。

 神父様に示された魔力測定板に掌を乗せると、真剣な顔で覗き込む神父様。


 「ライアンの授かった魔法は、治癒魔法、収納魔法、結界魔法、転移魔法に・・・スキル・・・魔力は25だな」


 魔法名を読み上げると響めきと歓声が上がり騒つく教会内だが、俺の魔力が25と伝わると、歓声は嘲笑へと変わっていった。


 「あの野郎、折角最高の魔法を授かりながら魔力が25だと。その魔法を俺に寄越せ!」


 糞ガキの悔しそうな声が聞こえて、思わず笑いそうになってしまった。

 魔力が25なら先ず魔法は使えないとみて間違いないだろうが、スキルは何だろう?


 「神父様、スキルは何でしょうか?」


 「それがだな、スキルとしか判らないのだ。時々現れる神様の不手際と呼ばれる現象だ。授けの日はランジュエール様も忙しいので、たまには手違いも起きる。だがスキルが無い訳ではないので、探せば見つかるであろう」


 ちょ、神父様それはないよ。

 希望にそった魔法を授けてくれたのに、魔力25は計算違いだ。

 だがスキルも安心安全、生活に必要なスキルを授けけてくれている筈だ、と思いたい。


 がっかりしながら教会を出ると、外では俺の授かった魔法と魔力の事が伝わったのか嘲笑と蔑みの声が聞こえてくる。


 「ちょっと待て、坊主」


 「何でしょうか」


 「魔力が少なくて残念だが、ひょっとしたら収納魔法が使えるかもしれないぞ」


 「えっ・・・魔法が使えるんですか?」


 「それは私にも判らないが、魔力が32で収納魔法が使える者を知っている。まぁ大して収納出来る訳ではないが、それでもエールの大樽を四本はいけるな」


 「俺って魔力が25ですよ。その話からすると、使えてもその半分が良い所でしょう」


 「そうかもな。だがそれだけでも使い道は有るので、もし使えたら仕事を世話するので尋ねてきなさい」


 おっさんはそう言って紙切れを俺の手に押し付けてきたが、仕事を斡旋する口入れ屋のようだ。

 一応礼を言って紙を受け取り、教会の裏に在る孤児院に戻った。


 * * * * * * *


 「どうだった?」


 「魔力25」


 「あー、それは残念だな」

 「だけど魔力25でも魔法を授かったんでしょう?」

 「授かった魔法とスキルは何だい?」


 「治癒魔法と収納魔法に結界魔法、それに転移魔法だ」


 誰かが口笛を吹いているが「魔力が25かぁー」って声が聞こえてくる。


 「魔力が25なんて、魔法が使えても魔力切れで死んじゃうじゃない」

 「それは魔法の初心者が思いっきり魔力を使って魔法を使うからだって聞いたぞ」

 「どの道、魔力25じゃ、初心者も糞もないさ」

 「だな、魔法の練習が出来たとしても、一回二回の魔法であの世行きだって聴いたぞ」

 「魔力の少ない者は、魔法の練習をするなって言われているらしいな」


 「で、あんたスキルは?」


 「授かったよ、スキルを」


 「だから、何のスキルよ?」


 「だから、スキルだってよ。神父様曰く、神様も忙しいので時々何のスキルか忘れるってさ。神父様が、神様の不手際だと教えてくれた」


 「なんだ、そりゃー」

 「神様の不手際って・・・」

 「あんたも運がない子ね」


 「ん、まぁ最近不運続きだけど、俺より酷いのは沢山いるじゃない。スキルは探せば何のスキルか判るってさ。後一年あるので、どんなスキルか探すよ」


 「どうやって?」


 「さぁ、それが判れば苦労はないよ。アンジュは後一年か」


 「生きて行くのに必要なスキルを授かれば良いんだけど、此ばっかりは神様に頼るしかないわね」


 「毎晩しっかりお祈りをしろよ」


 「あんたは碌にお祈りもしなかったので、魔力が25なんて罰を受けたのよ」


 確かになぁ、でも神様の存在は信じているぞ。

 日本人の性で敬えど頼らずだから、お祈りは適当で良いのさ。


 * * * * * * *


 周りが寝静まった部屋で、汚い天井を見ながら考える。

 罰か、俺は病死なんだけどなぁ。

 前世の事は覚えているが、親兄弟の名前なんかはすっぽりと抜け落ちている。

 移動するための馬のいない箱とか、料理を作ってくれる箱なんかは覚えているがどうやって動くのなんてさっぱり判らない。

 ただ今の生活とは全然違う生活だったってのは判るが、余り実感がない。


 思い出すのは名前も思い出せない友達と遊んだことや、アニメやラノベの事が多い。

 ただ食事や今は食べられなくなってしまった菓子の味を鮮明に覚えていて、此方の食事は此じゃないって感が半端ない。


 アニメやラノベの記憶があるので、最高の魔法を授かったのに魔力が25と聞いても、さして落ち込んでいないのはその為かも。

 巣立ちの日まで一年、アニメやラノベの知識を利用すればなんとかなるだろう。

 先ずやるべき事は魔力溜りを探す事だが、それは親父やお袋の話から有るのは判っている。

 へその奥の少し上にモヤモヤしたものがあり、それが魔力だと聞いていたので、ラノベと同じだと思いそれを探す。


 * * * * * * *


 両親が亡くなって半年、高い熱に魘される俺のために、冒険者だった二人は解熱の薬草を探しに行き、野獣に襲われて死んだ。

 と、尋ねて来た知り合いの冒険者が教えてくれた。

 熱のために意識がもうろうとした状態でそれを聞いていたが、あの時の大家の婆さんの顔は今でも覚えている。


 あの時、高熱で魘されながら変な夢を見ていた、高い家や四角い箱が走り変な服を着た人々の事。

 両親の亡くなった俺のために、婆さんは食事を作って届けてくれたりと親切だったが、元気になったとたん貯まっている家賃の不払いを理由に部屋を追い出された。

 室内を掻き回して袋に俺の着替えを詰め込むと「貯まっている家賃を貰えないので、あんたは孤児院に行ってもらうよ。残った物を売って家賃の足しにするので、諦めな」と冷たく言ってくれた。

 あの時は高熱の為か覚醒した前世の意識と、両親の死でぼんやりしている間に全てが終わってしまった。


 俺の名は・・・咳が止まらず高熱で動けなくなり、親兄弟が側に居て泣いていたのを覚えているが、それだけ。

 あれこそ夢だったんだと思おうとしたが、名前を思い出せないが沢山の人々と遊んだこと。

 小さな板に向かって喋ったり、動く絵を真剣に見ていた事を夢だと思えなかった。


 孤児院に来て落ち着いてから色々と考えて、あの夢は俺が生まれる前の日本っていう世界の事だと思った。

 夢の中に出て来る色々な事や神々の話と、混濁する俺の意識がこの身体の事も判るからだ。

 それが証拠に目覚めてからのライアンの記憶が無く、高熱を発する以前の事しか思い出せないからだ。

 輪廻転生と魔法の世界の事、夢の中では魔法は無いが魔法以上の不思議な世界で、それの使い方なども判っていた。


 判った所で俺は孤児院に居てどうにもならないし、これからどうやって生きて行こうかと真剣に考えたが、授けの日に俺の生き方が決まると覚悟を決めた。

 その為に必要な知識は余りないが、日本での知識が役に立ちそうだった。


 まぁ結果は惨敗だが、以前の知識で敗者復活を期待することにした。

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