第23話 今回も今回で推しが救えたのでよしとしましょうか

 アルミア魔法学園襲撃事件から数時間。

 襲ってきていた集団はララやアベル、シグナ、セリムも戦っていたこともあって殆どの奴らが捕縛された。

 ユーリだけを狙ったそれは全校生徒はほぼ無傷、最初の風で掠り傷を作った人とか転けた人ぐらいのもの。

 ただやはり面と向かって戦っていたシグナはそれなりに怪我を作っていたけど。

 そして校舎にも何の問題もなかった。

 セリムが焼き付くした薔薇園を除いては。

「いや、それにしてもすごいな、あの広大な薔薇園ごと燃やしつくしてしまうなんて、流石我が家の期待のホープだ、父様を越える日も近いのではないかな」

 シグナの傷の治療とユーリの目覚めを待って病院の一室に集まったいつもの五人プラス二人のなかから先陣を切ったララがそう言って笑う。

「いや、やり過ぎって少し注意受けましたけどね、それに旦那様には到底叶いませんって」

 そんなララにセリムは苦笑する。

 ユーリを助けたことからまぁ、そこまで咎められることはなかったけどやはり生徒だけで動いたことは窘められたしセリムは少しだけ注意もされていた。

 何がすごいってララのこの言葉選びには特に悪意がないというところだろうか。

 存外天然な人だからおそらく本気で褒めてるつもり。

「でもセリムのお陰で助けられたわ、ララお姉さまとアニ……様とアベルのお陰でもあるけど」

 私はセリムに助け船を出すために会話に加わる。

「……アニでいいよ、ハイネ、ボクもそう呼ぶし、ま、でも全く本当だよねー、近くにいたからって付き合わされたボクの身にもなってよね」

 アニはムスッとした顔で呼び名を改めた後にわざとらしくため息を吐きながらそのきゅるきゅるした瞳であざとく頬を膨らませたけど、まぁ、無視しとこ。

 アニのお陰で大変助かりはしたけどあくまで敵、あくまでライバルである。

 馴れ合いはごめんだ。

 助かったけど。

「私は一人でもユーリのために動いたけど、ハイネの的確な指示があったから助けられたようなものだね、だから今回は譲るよ」

 そんななかあくまで自分が一番ユーリを想っているというスタンスは崩すことなく、それでいて珍しく譲ってくるから

「……じゃあ代わりにあんたがまた王子がピンチってやつ使ったから大変なことになったのは目を瞑ってあげるわ」

 王子が拐われそうって言って異常な数の警備どころか国の兵まで呼び出してしまったことには今回は目を瞑ってあげよう。

 軽く注意されたのそのせいもあるけど。

「ありがとう、ま、何してでもって言ったのは君のほうだけどね」

 せっかくそう思ってあげたのにこの王子どこまでヤバい方面に突き進んでいくつもりなのか。

 まぁ、あの時同様そう言ったのは私だし、後で報告受けた時は内心笑ったのも事実ではあるが。

「それに比べて私は……何も、出来ず……」

 そこまで空気だったシグナがしょげた声でそうぼやくから

「……シグナ、あなたがあそこまで薔薇園で堪えてくれたから助けられたのよ? 自信持ちなさいよ……」

 励まそうと声をかける。

 実際にシグナがあそこまで持ってくれたから助けられたのも事実。

 つまりは皆がいたから助けられた。

 誰一人欠けてはいけなかったのだ。

「……ハイネに励まされるなんて、屈辱だ」

「……いいわ、あんたはずっとそうしてなさい」

 せっかく励ましてあげたのに本当にかわいくないやつだ。

 決めた、しばらくはこれで弄る。

 なんならショゲナって呼んでやろうか。

「ふふっ……」

「あ、ユーリ! 起きた? 体調は、大丈夫?」

 そんな私達のやり取りに堪えきれないといった様子でユーリが吹き出すから勿論ベットの一番近くを陣取っていた私はユーリの顔を覗き込む。

「ごめん、本当は少し前に起きてたんだけど、入っていくタイミングがなくて……」

 困ったように笑いながらユーリが身体を起こす。

「また迷惑かけてごめんね」 

「そんなこと、気にする必要ないわよ、誰も迷惑なんて思ってないわ」

 そしてそんなことを口にするから私はそれを否定する。

 周りのみんなの顔を見ればそれは一目瞭然だろう。

「でも……また助けられちゃったね、ありがとうハイネ、それから……皆も」

「っ……」

 ハイネがお礼を言いながらニコッとはにかんで見せるから、私は慌てて口を手で覆う。

 至近距離での推しの笑顔は無理、耐えられない。

「……ハイネ様が考えてること当てて差し上げましょうか?」

「大丈夫だよセリム、きっと皆同じこと考えてる」

「セリム、口調戻ってるわね、あと王子は黙ってなさい」

 そんな私を弄ってくるセリムとアベルに私は苦言を呈しておく。

 一応。

「ははっ、君たちはいつもこんな感じなのかい?」

 そんなやり取りを見ていたララは楽しそうに笑いながらそう問いかけてくる。

「え、まぁ、大体は」

 よくよく考えないでもおそらくこの七年間このノリでやったきたようなものだと思う。

「……へぇ、それならこのまま頬っておいたほうが面白いかも」

 それを聞いていたアニは誰に言うでもなくそう呟く。

 これはラッキーかもしれない。

 魔法祭はなあなあで、結果としては中止という形になってしまったけれどこれでユーリを寄越せとか言わなくなるのであればその点は大変ありがたい。

 でもからかう対象が私達になるのだとしたらアンラッキーだ。

「……とりあえず! ユーリが無事で本当によかったわ!」

 何故あのタイミングであのイベントが起きたのか、あの機械は何だったのか。

 残している謎ははっきり言って多い。

 だけどなんだかんだいってユーリが救えたのはひとつの大きな事実であり、それを今はただ祝福したい。

 だけど、まさかこの後

 あんなことになるなんて、きっとこの場にいた誰も予想はしていなかっただろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る