第39話 神社にて
二人でそこらへんに腰掛け、甘酒をすすった。夏にカキ氷を食べた塀が見える。
あの時がもう随分昔に思えた。
甘酒が喉を通ると、体が芯から暖まるのを感じた。
思わず頬がゆるむ。目だけ和泉さんに向ける。今度は視線が合うことも無く、彼女はコップを口につけているところだった。
頬がほんのり赤く染まっている。コップの温かさを確かめるように両手で抱えるようにしてちびちび甘酒をすすっている。
ほう、と吐き出した白い息を見て、ぼくは文化祭の、あの時の事を思い出す。
彼女の閉じた眼。
赤い頬。
震えていた唇。
心臓がバクン、となって慌てて顔を背けた。
喉の辺りで脈打つ鼓動を感じる。
ドクン、ドクン。
息が苦しい。
吐きそうなくらい息苦しい。
目をぎゅうっとつぶると、あの夕暮れ時がフラッシュバックする。
慌てて目を開ける。
顔が熱いのをごまかすように、甘酒をぐいっと飲み干した。
「あっち!」
紙コップを取り落とす。口を押さえてもだえるぼくはなんともみっともなかった。
「だ、だいじょうぶ?」
和泉さんが心配そうに覗き込む。
「ら、らいじょぶ」
口を押さえたまま、答えて無理矢理に笑顔をつくろうとした。
そのぼくの目に飛び込んできたのはきょとんと口を開けた和泉さんの顔だった。
大きな彼女の眼が皿のように見開いている。その視線はぼくの背後に向けられていた。
まるで「うしろにおばけいるよ」と言われているみたいでぼくはこわごわと振り向く。
いつのまにか、いくつかの松明に火が灯りぼんやりとした影を作り出している。
松明に照らされた石畳の先に、大きな赤い鳥居がある。さっきぼくと和泉さんでくぐりぬけた鳥居だ。その鳥居を何人もの家族連れやカップルが通っていた。
そのなかで、たった一人できょろきょろと足早に通り過ぎる小さな影がある。人ごみをぎこちなく縫うように歩いている。
それが誰だか気づいたとき、ぼくは思わず和泉さんを見た。
彼女もぼくを見た。多分ふたりは鏡のように同じ顔をしていたんだろうと思う。
ぽかんと口を開けて、目を丸くして。
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