第37話 ふゆやすみは短すぎマフラーは長すぎる
冬休み
文化祭の片付けの時も、そのあとも、和泉さんとは話ができずにいた。
和泉さんはぼくの顔を見ると石像のように固まってしまうし、ぼくのほうもまともに彼女を見ることはおろか遠くからも見れずにいた。
佐々山さんからはなにやら冷たい視線は浴びるし、高橋はそんな佐々山さんがイイ!と言い出してうるさいし、テストの結果は最悪だし、ぼくの残りの二学期はさんざんだった。
終業式の日。
どんよりと曇って、薄寒かった。窓際は冬はつらい。
ぼくは肩をすくめる。
窓越しに和泉さんが見えた。佐々山さんとなにやら談笑している。遠くなったもんだ、とぼくは冷たい窓にため息を吹きかけた。
「さあーエビワン。お待ちかねの通知表だあ!」
木田が気持ち悪いハイテンションでにこにこと叫ぶと、ぎゃあ、とか、おお、とか嬌声があがった。
これからはじまる冬休みに淡い期待で胸いっぱいなのかこちらもテンションが高い。
クリスマスがなにさ。
ぼくは拗ねた気持ちで机にうつ伏した。
予想通り、クリスマスは何事もなく過ごした。
イブの夜、ぼくはサンタじゃなくて和泉さんから連絡がないかと待っていた。親が買っておいたコンビニのクリスマスケーキをあかりと半分こして食べる頃には勿論あきらめていたけど。
約束もしてないのに期待するほうが馬鹿だ。
ぼくは苦い気持ちで甘いケーキを頬張った。
あかりは
「圭ちゃん鼻にクリームついてるー」
とケラケラ笑っていた。
そういうあかりの口にもクリームがついていて可笑しくてぼくも笑った。
二人して何が面白いのか笑いあったら妙にテンションがあがってクリスマスソングを歌い出す。知っている曲をかたっぱしから歌っていたら、こんなクリスマスも悪くないなという気持ちになり、子供の頃サンタを心待ちにしていた自分を思い出したりした。
師走はつむじ風のように過ぎ去って、今日は大晦日だ。
大晦日にふさわしく、からりとした冬空が広がっている。
母親が大掃除でぴりぴりして
「ちょっと圭!ぼうっとしてんなら自分の部屋を片付けなさい!」
と階段の下から怒鳴った。
うへえ、とぼくは眉をしかめて上着を着る。 掃除機をガーガーかけているのを横目で見ながらこっそりと家を抜け出した。
太陽は出ているけど、風は冷たくてぼくは肩をすくめた。
隣を通る時にちょっとあかりの部屋を見上げた。カーテンがしまっている。
門松こそ出ていないけれど、玄関は綺麗に掃き清められている。この頃あかりの母さんは夜勤を減らして家にいることが多いらしい。
チャイムを鳴らす。
返事はない。
ドアノブを回すと開いたので、おじゃましまーすと形だけの挨拶をして二階にあがった。
あかりはベッドで寝ていた。
「うおい」
ベッドに腰かけた。あかりは掛け布団に頭からもぐりこんでいる。
「外、行こうよ。おれんち、大掃除中でさ」
「ぬーん?そとぉ?」
「どっかで時間つぶしてさ、あ、神社とか行く?今日大晦日だし、夜店でるかもよ。あかり、夏いけなかったじゃん」
「あーよみせ…うーむ」
「あかり?」
「むーむむ……すぅすぅ」
駄目だ。起きそうにない。ぼくは諦めて、一人外に出た。
マフラーを巻きなおす。
さて、どこに行こうかな。夕方までの身の振り方を考えながらぼくは歩き出した。
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