コラム【心霊スポットの実態】
(前略)
オカルト動画を観ていると、よく『曰く付きの場所』が出てくる。やれ『◯人事件があった』だの、やれ『自◯した女の霊が』だのと、どれもこれも似たような話ばかりである。
しかもこういった曰くの殆どは全くの作り話である。意地の悪い筆者は、オカルト動画を観ていて演者(ここでは敢えて『演者』と呼ばせていただこう)が曰くを語り始めるやいなや即座に動画を一時停止し、その場所で過去に事件や事故があったかどうかを調べる。そうすると殆どの場合、いくら調べても演者が語ったような事件・事故のニュースは見つからない。
しかし、大抵の視聴者はそこまで調べることはせずに『はあナルホドここはそんな曰く付きの場所なんだナ』なんて鵜呑みにしてしまう。知人に聞いて回った限り、心霊動画を観ていて曰くが語られた際に、本当にそこでそんな事件や事故があったのかどうか調べたことがある、と答えた人間はゼロであった。
何故だ。何故に一般大衆は、筆者のように『えぇ〜? ホントにぃ?』と疑ってかからないのだろうか?
友人の一人が言うには、それは『あくまでエンタメの中でのフレーバーテキストとしか思っていないから』とのことだ。なるほど、そうか。筆者は『皆は自分と違って、オカルトと真剣に向き合っていないからだ』と思っていたが、それは間違いだったようだ。一般大衆の方がエンタメをエンタメと割り切り、その『作品』に対して真剣に向き合っているのかも知れない。
(中略)
ただ、ひとつ言わせて欲しい。
よく廃虚などに行って『女の叫び声が聞こえる』だの『足音が聞こえる』だの言うが、何故幽霊の前に野生動物を疑わないのだろうか。
そんな風に言うと『野生動物と人間の声じゃ間違うはずがない』とか『動物の足音にしては重すぎる』とか反論してくる人がいるが、申し訳ないが無知としか言えない。
まず『女の叫び声』だが、あなたは野生の鹿の鳴き声を聞いたことがあるだろうか。田舎育ちの筆者には馴染みある鳴き声なのだが、ない、という方はぜひ検索してみていただきたい。キャーと甲高い、まるで『女の叫び声』の様ではないだろうか。しかも鹿は夜行性で、夜の山ではこの『叫び声』がけっこうよく聞こえてくる。全ての叫び声が鹿だとは言わないが、それ以外にも猿の鳴き声や遠くで聞こえる電車の警笛など『(人間の)叫び声』と間違える可能性がある音はいくつも存在する。
次に『足音』だ。『動物の足音にしては重た過ぎるんじゃないか?』と反論したあなた、ハクビシンやアライグマの足音で検索してみて下さい。ハクビシンの成体は4kg程度、アライグマの成体は大きくて9kg程度と重さに差はあるが、どちらも屋根裏を駆け回ると物凄く重たい音がする。もちろん大人の足音よりは軽いが『子供の足音』と錯覚するには十分な重さだろう。
心霊スポットとなる廃虚は山の中など、自然の近くにある場合が多い。で、あれば、やはり野生動物を疑わないわけにはいかないだろう。
では、そうでない場合。比較的町中にある心霊スポットの場合はどうだろうか。その場合、野生動物が原因とは言えないのではないか。いや、そんなことはない。近年は多摩地区から活動範囲を広げたアライグマやハクビシンが23区内にも住み着く事例があり、都会には野生動物がいないと断じるのは早計である。
また生活音は都会の方が雑多で、車のクラクションや何かの宣伝の音楽などが遠くから響いて叫び声に聞こえてしまうこともあるだろう。
これは山の中でも都会でも変わらないが、風の音がまるで人間の声のように聞こえることもある。廃虚ではガラス窓が割れていたり、壁や天井の一部が破損していてたりと隙間風が通る余地が多分に存在する。よく演者が『風なんか吹いていないのに』などど状況説明することがあるが、肌で感じられなくとも、壁や構造体の内側を細く抜けていく空気の流れは音を立てるには十分だ。特に『心霊スポット』という緊張感溢れるシチュエーションにおいて、ストレスからそれを『人の声』と誤認することは致し方ないのではないだろうか。
(中略)
ご存知とは思うが、筆者はオカルトが好きだ。
ここまで色々と書いてきたが、筆者はオカルトや心霊番組が大好きで、ある程度は『演出』と割り切って、無邪気に作品を楽しんでいる。
しかし、どうしても許せない時もある。
先日YouTubeで観た映像はひどかった。チャンネル名は伏せるが『HOTELフェアリー』という心霊スポットへ男3人(4人?)で侵入し、始終ギャーギャーと叫んでいる、見るに堪えない『オカルト風コメディ』であった。
『HOTELフェアリー』というのは■■県にある、そこそこ有名な心霊スポットで筆者も名前は知っていたのだが……。
断言するが『HOTELフェアリー』に噂となっているような事件や事故は全くない。母方の実家があの近辺にあるため、親戚へ聞いて回ったりもしてみたのだが、皆が口を揃えて『あのホテルで事故や事件が起きたなんて話は知らない』と答えた。浮遊霊などが住み着いている可能性までは否定できないが、少なくとも地縛霊はいないだろう。
筆者もホラー好きの一人として罪悪感を覚える。ホラー好きは廃虚などを見るとすぐに『曰く』がないか期待してしまう。世界中で、その瞬間瞬間に誰かが亡くなっている。曰く付きの場所は至る所に存在する。しかし、その『曰く付きの場所』が、ホラー好きが期待するような見た目に恐ろしい場所とは限らない。逆に、見た目に恐ろしく『心霊スポット然』としている場所に何の曰くもないことだって多い。むしろその方が多いと言える。
実際に何か事件や事故が起こった場所に噂が残るのは仕方が無いが、何の曰くも無い場所に勝手に『それらしい曰く』を作ってしまうのは、その建物や土地の所有者に多大なる迷惑をかけることになる。
ホラーが好きだからこそ、我々はフィクションとノンフィクションを混同せず、現実を生きる人々に迷惑をかけないよう自重しなくてはいけないのだ。
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