白昼夢の城

紅粉 藍

第1篇




「うち、シングルママ? って話したじゃん。最近オレんにもパパが来てくれるようになってさ、んで、パパがうちで晩飯食う日は唐揚になるんだあ」

 学校机を挟んで向こう、笹川鈴太ささかわ りょうたは嬉しそうに歯を見せた。まだ大人の歯も生えそろっていない、無邪気な子供の顔。少し興奮しているのか、頬が紅い。

「昨日は、パパからキラカードもらった。超レアなやつ! すぐ帰っちゃったけどな」

 そのカード、僕がお父さんに流行ってるって教えたやつだね。

 すぐにいなくなっちゃう、パパ・・のその行先も知ってる。

「服も、新しいの買ってもらったんだ。ボタンがいっぱいの」

 そうだね、最近君はぶかぶかの服を着なくなった。

 今までは誰かのおさがりの、よれよれのトレーナーなんかを着ていたよね。

「オレが弟とケンカしてるとさ、かあちゃんは怒って外にしめ出すんだけど……でも、パパが来るようになってから、かあちゃん優しくなったし」

 我が家では、お父さんが家に寄り付かなくなってから、お母さんは僕を家に縛り付けるようになったよ。

「オレ……本当にパパが俺のパパになってくれたらいいなあって、思ったりするんだ」

 まだ答えを書ききっていない国語の小テストの上に頬杖をついて、笹川鈴太は幸せそうに窓に向かって微笑んだ。

 ずっと同じクラスだった笹川鈴太は、そんな笑い方をしなかった。

 その幸せもこの子の笑顔も、僕のものだった。

「今度テーマパークつれてってくれるって約束したんだよ、めっちゃ楽しみ!」

 得意げに笑うので、小テスト終了までの時間がわずかだと、僕は教室の時計を指して示した。少しいじわるだっただろうか。

 でも、僕はその男性・・とテーマパークになんて行ったことはなかったのだ。


 知らないだろう、笹川鈴太。

 僕のお父さんは不倫してるんだ。

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