第13話 バンドをつくる。
それから、集合できる日は何度も集まって練習を重ねた。もちろん個人練習も欠かさない。と同時に、澪の提案で「宿題もみんなで片付けておこう」という話になり、練習と宿題の両立が続いた。この夏に、いろいろなものをつくるためだ。
何度か通し練習を重ね、ようやく形になってきた、ある昼下がり。軽く宿題を終えたあと、彩夏がパッと手を叩き、笑顔を見せた。「よし!オリーブ入りのピザ作ろっか! ピザの情熱を忘れないために!」「ピザの情熱って何だよ……」と思わず俺がツッコミを入れると、彩夏はけろっと笑う。「だってさ、あのときの楽しさとか美味しさ、そういうの忘れたくないじゃん?」「……ピザの時間って、ちょっと特別だよね」と美咲が小さく笑い、「なるほど」と澪が短く頷く。
全員で近くのスーパーに買い出しに向かうと、もう手慣れたものだ。「ドライイーストは前回の残りがあるし、モッツァレラとブラックオリーブとバジル、あとトマトソースだけ買えばOKだな」と俺が確認し、「家にあったと思うけど、トマトも一応買っておくか」と自然に言葉が出るあたり、自分でもちょっと笑えた。「よし、買ったらさくっと帰って作ろう!」と彩夏が元気よくまとめ、「オリーブ……多めに……」と美咲が小声でリクエストし、「そんなに主役感ある食材じゃないからな?」と俺が笑うと、澪も少しだけ口元を緩めた。
こうして、みんなでオリーブ入りのマルゲリータピザを作ることになった。生地をこねて、ソースを塗り、モッツァレラとオリーブを散らして……「彩夏ちゃん、オリーブは多めでいい?」と美咲が聞けば、「もちろん!前回入れられなかった分もいれよう!」と彩夏が冗談を言う。
香ばしい匂いが立ち込め、みんなでわくわくとオーブンを見つめた。
「これで、もうひと頑張りできそうだな」と俺がぼそっと言うと、「絶対成功させようね!」と彩夏が拳を握り、澪も「ここまでやった。完成させる」と真剣な目を向け、美咲も「がんばろう!」と笑顔を見せた。
食べ終えた後、彩夏がパッと顔を上げ、笑顔で言った。
「よし、じゃあ……スタジオを借りて、録音しよう!」
スタジオ探しは意外とスムーズだった。近所にある個人向けの小規模スタジオは、ネット予約で空き状況が確認でき、3時間で約5000円ほど。お金はみんなで出し合い、予約を入れ、確認メールを全員に共有し、当日の流れや必要な持ち物も澪がリスト化してまとめてくれた。場所は駅から徒歩10分の雑居ビルの一角で、初めて借りるにはちょっとドキドキする雰囲気だったが、それもまた楽しかった。
数日後、全員が集まったスタジオ前。
「緊張するけど……頑張ろう!」と美咲がきゅっと拳を握り、みんなで笑顔を交わして中へ入った。
スタジオの中では、彩夏が大きなバッグを開け、「うちからマイクと三脚持ってきたよー!」と元気に笑う。澪は余計な感想を挟まず、手際よく荷物の中身を確認していた。俺は笑って、「……なんかスタジオってだけで急にプロっぽいな」と軽口を叩き、みんなで準備を進めていった。
中では、持ち込んだ機材のセッティングが進んでいた。彩夏は家から持ってきた簡易マイクをスタジオのケーブルにつなごうとし、「ちょっと待ってね、一応聞いてきたから」と言って、スマホを軽く見ながら手を動かしている。三脚にスマホをセットし、チューナーやピック、コード譜、歌詞メモを広げる動きは慣れたもので、順調に準備が整っていった。
「録画回したよー!」と彩夏が元気に声を上げ、全員で簡単な音合わせと録音テストを行う。アンプやミキサー、スピーカーはスタジオ備え付けのものを借りた。
そしていよいよ、全員が楽器を持ち立ち位置につく。息を呑むような一瞬の静寂。
「よし、いこう」と俺が軽く息を吐き、みんながそれぞれのポジションに集中する。
息を合わせ、録音がスタートした。
録音は簡単じゃなかった。最初は緊張でリズムがずれ、声が裏返り、ミスが続出する。「もう一回!」「今の惜しかった!」とみんなが声を掛け合い、笑ったり頭を抱えたりしながらも、何度も何度も繰り返した。澪は歌の入り方を細かく調整し、彩夏はギターの音量と強弱を意識し直し、美咲はベースの指使いに集中し、俺はひたすらカホンのリズムを叩き込んだ。
気づけば、残り時間はあとわずか。全員が額に汗をにじませ、「次で決める!」と声をそろえる。
最後のテイク、緊張の中で音が重なり、歌が乗り、心地よいグルーブが生まれた。
録音が終わった瞬間、全員が息を吐き、顔を見合わせた。「……これ、納得できるやつだよな?」と俺が尋ねると、澪が静かに「うん」と頷き、彩夏が「よっしゃあああ!!」と叫び、美咲が笑顔で「やった……!」と手を叩いた。
時間ぎりぎりだったけど、俺たちはついにやり遂げたのだった。
録音が終わった後、澪がノートPCでデータを確認し、全員で録音内容をそっと聞き返した。少しの緊張と、達成感の入り混じった空気。彩夏が「……ちゃんと録れてる!」と目を輝かせ、俺たちはほっと息を吐くと、急いで機材を片付け始めた。
マイクを外し、ケーブルを巻き、スマホを三脚から外してカバンにしまい、スタジオの中は慌ただしくも笑顔に満ちていた。「よし、忘れ物なし!」と澪が小さく確認し、俺たちは荷物を抱えてスタジオを後にした。
外の空気は午後の日差しに少し熱気が残っていたが、風が心地よかった。みんなで並んで駅まで歩きながら、自然と感想が口をついて出る。
「本当に録音できちゃったね……夢みたい」と美咲がぽつりと言うと、彩夏が「夢じゃないよ、現実だよ!しかもすっごい楽しかったじゃん!」と笑顔を弾けさせた。
「……ちゃんと作れた。よかった」と澪が小さく微笑み、俺は胸の中に、じんわりと熱いものが広がるのを感じた。
「俺たち、やったな……」とつぶやくと、彩夏が「うん、最高の夏だね!」と力強く頷く。
午後、まだ暑さの残る道を、俺たちは笑い合い、少し誇らしげに歩いていった。
ふと、そのとき。
「――あ! バンド名、決めてないじゃん!」と彩夏が突然立ち止まった。
「えっ!?」とみんなが一斉に振り返り、思わず笑い声がこぼれる。
「せっかく録音したのに、無名バンドじゃ締まらないでしょ!」と笑う彩夏に、俺もつい吹き出してしまった。
そして俺たちは再び歩き出し、笑い声を響かせながら、この瞬間の余韻を楽しんでいた。
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