第52話
「……そ、そんなの詭弁だッ!! 屁理屈だッ!! 手札の中に同色同数のカードがある時点で並び順に矛盾が生じているじゃないかッ!!」
わたしは花屋の主張に対して、猛抗議する。
幾ら❻と❾を都合のいい解釈で使ってよくても、同じ❻を手札の中で二枚にするなんてことが認められていい筈がない。
――そんなの、絶対に納得できない。
「いいえ、僕の手はあくまでルールの範疇です。❻と❾のカードの向きが決まっていない以上はね」
わたしと花屋は両者一歩も退かずに自分の主張を繰り返す。
「……ふーむ、これは困ったな」
すると生徒会の躑躅森が、何故か嬉しそうにニヤニヤ笑いながらわたしと花屋の顔を交互に見ていた。
「貴様らの言い分には双方に頷ける部分がある。これでは容易には勝敗を決めることはできんな」
「……なーにを悠長なことを言ってるっすかッ!! 元はと言えば躑躅森先輩が6と9のカードの向きをちゃんと決めておかないのが悪いんすよッ!?」
馬酔木が詰るように躑躅森に言う。
「まァそう言うな、馬酔木。勝敗を決められないのなら、無理にどちらかの勝利を決める必要もない。よってこのギャンブル対決、両者痛み分けとするッ!!」
「……痛み分け」
わたしは張り詰めていた緊張から解き放たれ、イスの背もたれに寄りかかり、両手をダラリと下に降ろした。
「……うーん、これだけ長々と戦っておいて引き分けですかァ。不完全燃焼というか、何というか」
花屋はそう言ってつまらなそうに口を尖らせていた。
「何だ、花屋。貴様、僕の裁量に不満があるのか?」
「……いいえ。事実、僕の言い分に
そこで一瞬、躑躅森の口元が少しだけ緩んだのをわたしは見逃さなかった。
「ふッ、誰が対決の結果を無効にするなどと言った?」
「……いやいや、だってこのギャンブル対決は引き分けにするって」
「引き分けではない。僕はこの勝負の結果を痛み分けとすると言ったのだ。勝負に賭けたものはお互いに相手と交換される。つまり、1000万円の賭け金はお互いがお互いに支払うということだ」
「……それならやっぱり無効と同じ意味じゃないですか」
「いいや、全く違う。花屋、まさかとは思うが貴様、自分が賭けたものを忘れたわけではないだろうな?」
「…………ッ!?」
そこで花屋はハッと息を飲む。
わたしは生徒会の躑躅森からの依頼を受けて、花屋と1000万円を賭けたギャンブル対決に挑んだ。しかし、賭け金の1000万円が生徒会が出した金と知るや、花屋はわたしにも何かを賭けることを要求した。
そこでわたしは躑躅森から借金した200万円を賭け、花屋はわたしに一発殴られることを賭けた。
「……えーっと、ということは、僕は吉高さんから200万円を受け取ることと引き換えに、一発殴られる?」
「大正解だ」
躑躅森は野球のピッチャーのように足を高く上げると、拳を大きく振りかぶって、そのまま勢いに任せて花屋の胸の辺りにめり込ませた。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーッ!?」
……花屋はイスに座ったまま吹っ飛び、そのまま窓ガラス突き破って、三階の高さから落ちていった。
「………………あ、あの、どうして躑躅森さんが花屋君を殴っちゃうんですか?」
わたしは躑躅森にそう問いながら、おそるおそる窓の下の様子を覗き込む。
「細かいことは気にするな。何か無性にアイツを殴りたくなってしまってな。僕が200万円で貴様から花屋を殴る権利を買ったということにでもすればいいだろう」
「……そんな無茶苦茶な」
窓の下には、腕が有り得ない方向に曲がった花屋がピクピクと痙攣しているのが見えた。
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