第11話

 ――そして放課後。職員室前。


「松戸、ウチの『Witch2ウィッチツー』を返して貰おうかッ!!」


 芽衣の視線の先には、ダークスーツを着た恰幅のいい男性教師が立っていた。年齢は40歳くらい。黒縁眼鏡の奥の大きな目玉がギョロリとこちらを向いていた。


「……彩名か。ゲーム機なら返してやるよ。ただし、一週間後にな。それまでは俺が大事に預かっておいてやる」


「寝ぼけんな。今返せッ!!」


「彩名、俺はお前の為を思って言っているんだ。学校に勉強に不要な物を持ってきてはならない。そのことを充分に反省した後でならきちんと返してやると言っている」


「……けッ。そんなこと言って、本当はテメェが『Witch2』で遊びたいだけだってことはわかってんだよ。松戸、ウチと勝負しろ。もしもウチが勝負に負けたなら、そのときは二週間『Witch2』はお前に預けてやるよ。それならそっちにとっても悪くない条件だろ?」


 松戸はやれやれというように小さく肩を竦める。


「仕方がない。その勝負、受けてやる。……ところでお前の後ろにいるその二人は何なんだ?」


 そこで松戸はようやくわたしと花屋の存在に気が付いたようだった。


「紹介すんよ。こっちは吉高。勝負を公正に取り仕切る為の立会人。そしてこっちは花屋。ウチの代わりにアンタと勝負する代打ちだよ」


「……代打ち?」


 松戸がギョロギョロと動く二つの眼球で、花屋をしげしげと観察している。


「どうして部外者のお前が俺と勝負する?」


「……いえ、僕って何か人より大分運がいいらしくて、おみくじを引いたら何時も大吉が出るんです。そのことを彩名さんに話したら、わけもわからないままここに連れて来られてしまいましてね。いやー、参ったなァ」


 すると松戸がポケットから鍵を取り出して、芽衣に手渡した。


「……先に進路指導室で待っていろ。俺もすぐに行く」


 どうやら勝負にこぎ着けるところまでは上手くいったようだった。


「ところで、何で花屋は運がいいだなんて言ったんだ?」


「そうとでも言っておかないと、警戒される可能性がありますからね。あくまでこちらは松戸先生がイカサマをしていることを知らないという体でなければ、最悪勝負を受けて貰えない可能性があるので」


「なるほど」


 ――進路指導室で待つこと十五分。


「待たせたな」


 松戸が『Witch2』本体と、封が切られていない新品のトランプの箱を持って現れる。


「トランプを調べて、異常がなければAエースだけを四枚抜き出してくれ」


「わかりました」


 花屋が机の上に各種Aを、スペードハートクラブダイヤ、の順にカードを並べていく。


「俺はお前たちと違ってこれで結構忙しい。勝負は一回限りだ。四枚のトランプを裏返しにしたら、よく切ってから一枚引いてくれ。カードを確認したら俺に見えないように戻して、再びよく切ってくれ。俺が四枚の中からお前の引いたカードを当てることができれば、『Witch2』は暫く俺が預かる」


「外れたときは、可及的かきゅうてきすみやかにゲーム機を彩名さんに返却してくださいね」


 花屋と松戸、両者が激しく睨み合う。


 ――遂に決戦の火蓋は切って落とされた。

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