第6話

「思えばこの『下克上制度』のルール、勝負の途中で大差がついても逆転が狙えるように設定されているようでいて、真の目的はその真逆。『裏駒』のイカサマで下克上を返り討ちにして、さらにその差を広げる為に設定されていたわけですよね? 体験入部で遊びに来た僕たちのようなカモから賭け金を巻き上げる為に」


 花屋が少しもズレ落ちていない眼鏡を押さえながら、雉野に言う。


「……だとしたら、何だと言いたいんだね?」


「僕たちからできるだけ多くの金を搾り取りたいのでしたら、賭け金のレートを上げてもそちらは何も困らないのではありませんか?」


「…………」


 雉野は一瞬何かを思案するように、元から糸のように細い目を更に細める。


「……花屋君、君が何を企んでいるのかは知らないが、そればっかりは認められないね。僕と犬飼だけなら兎も角、このゲームには部外者の鬼塚君も参加している。ゲームの途中で急激にレートを変えることなどできない。だがしかし、ルールを一部追加する形でなら認めてやらないでもないがね」


「……ルールの追加ですか。それはどんなルールなのでしょう?」


「振り駒を将棋盤から漏らすと賭け金のレートが倍になる、というのはどうかな?」


「……なッ!?」


 雉野がとんでもない提案をしてきた。

 振り駒を将棋盤から漏らすということは、そのターンの振り駒は無効になるということだ。


 花屋はどういうわけか今のレートを吊り上げたいようだが、その為に振り駒を盤の外に漏らせば、当然、自分の駒を前に進めることはできない。前に進めなければ勝負に勝つことなどできる筈もない。その状況でレートだけを吊り上げていったら、花屋を待ち受ける運命は破滅である。


「いいですね。面白そうだ」


「ちょっと花屋君、君は一体何を考えているのッ!?」


 わたしは思わずそう叫ばずにはいられなかった。


「吉高さん、今は僕を信じて黙って見ていてくれませんか?」


「…………」


 花屋にそう言われてしまうと、わたしとしては言葉を飲み込む他ない。


「それじゃあこのルールを追加するということで決まりでいいのかな?」


「はい。僕はそれで構いません」


「ふふふ。花屋君、後で泣き言を言っても知らないよ」


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ、雉野先輩」


 花屋はそう言うと、やはり不敵に笑うのだった。


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