トモダチAI ~僕らは手を繋いで未来へ~

みすたぁ・ゆー

第一階層:トモダチAI(1)

 

陽元ひもと友和ゆうわです。よろしくお願いします」


 街中を彩るソメイヨシノの花々はほとんど散り、通学路にはピンク色の絨毯じゅうたんが広がっている。そんな四月の始業式の日、僕は城東じょうとう区立希望ケ原きぼうがはら中学校の二年一組に転入した。


 今、最初のホームルームを迎え、黒板の前に立ってクラスメイトたちに自己紹介を終えたところだ。ただ、あまりの緊張で精神は限界ギリギリ。ほんの数秒前のことなのに、どんな表情をして何をしゃべったのか覚えていない。


 席に戻ってからも未だ頭が少し混乱しているし、顔全体もなんだか熱い。


 依然として周囲からは多くの視線を感じる。きっとホームルームが終わり次第、みんなが僕のところへ集まってきて、色々なことを根掘り葉掘りいてくるんだろうな。除け者にされたり、スルーされたりするよりはいいかもしれないけど……。


 そんな感じで僕はちょっと憂鬱ゆううつを感じつつ心の中でため息をついていると、担任の千堂せんどう先生が教卓の上に一台のタブレット端末を置いて何かを話そうとする。


 千堂せんどう先生は一年前にこの中学校へ赴任ふにんしたきた(と、僕は聞いている)男性教諭で、年齢は二十代後半くらい。清潔感のあるグレーのスーツ姿で、せ形の体格にさわやかイケメンという感じのルックス。担当教科は数学だ。


「さて、実はこのクラスに転入するのは陽元ひもとくんだけじゃないんだ。みんな、このタブレットに注目!」


 千堂せんどう先生はそう言うと、端末を指で操作した。


 するとその直後、ディスプレイに表示されたのは僕たちと同じ紺色のブレザーの制服を着た女子のCGイラスト。外見はロングの黒髪をストレートに伸ばし、顔立ちは端正で可愛らしい。瞳は人懐っこそうな感じをしている。


 今は肩から上だけが映っているけど、設定を変えれば全身も見られるのかもしれない。


 それと現在のAI技術ならもっと実写に近い姿を描き出すことも出来るだろうけど、どちらかというとゲームやアニメ、バーチャル動画配信者などに近いデザインになっている。


「――初めまして。私は文部科学省を中心とする官民共同プロジェクトで試験的に制作された『トモダチAI』のミキです。『AIは人間の友達になり得るのか?』というテーマを研究するために開発されました。皆さん、よろしくお願いします」


 透き通ったような高音の声でそう言うと、ミキさんは屈託くったくのない笑みを浮かべながら僕たちに向かってペコッと頭を下げた。もちろん、ディスプレイの中での話だから、こちらの世界に飛び出してくるわけじゃないけど。



「おぉおおおおおおぉーっ!」



 直後、教室内のあちこちからクラスメイトたちの驚嘆きょうたんと興奮に満ちた歓声が上がった。それは僕が自己紹介をした時よりも大きかったような気がする。


 まぁ、僕自身もすごいなぁって思ってるワケだし、くやしくは……ないけど……。


 彼女の見た目に関しては、一般的なゲームなどのキャラクターと変わらない。これに関してはリアルすぎない方が緊張せず、親しみが持ちやすいということであえてそうしているのだと思う。


 もちろん、表情が豊かで適切な間や余韻よいんがあるのは特筆すべき点ではあるけど、それよりも僕が最も感心したのはその自然なしゃべり方だ。


 市販されているボイスロイドなどではどうしても単語と単語の間に違和感があったり、アクセントがおかしいように感じたりする部分が多少なりともあるものだ。でもミキさんの場合、そうした違和感が全くない。


 自己紹介というありふれたシチュエーションでのことだから、予め収録されたものを出力しているだけという可能性もあるけど、それならそれで別の驚きが出てくる。


 それは『自己紹介をする』という判断をミキさん自身が選択し、それを出力したということ。だって千堂せんどう先生は今、ミキさんに対して『自己紹介をしてください』という指示を出していなかった。


 つまり彼女は場の状況や雰囲気などから自分が何をすべきか判断し、結果として『自己紹介をする』という判断に至ったということになる。


 コンピュータやプログラムは命令や指示に従って結果を出力する。ただ、はそうした単純なことは得意でも、雰囲気や表情、文脈といった曖昧あいまいかつ少ないデータを複合し、そこから最適な結果を導き出すのは苦手だ。


 つまりそのためには気の遠くなるような大量のデータを事前に蓄積しておくか、少ない情報を元に莫大ばくだいな量の演算をするしかない。それこそスーパーコンピュータや量子コンピュータくらいの規模でないと難しいと思う。


 まぁ、人間の脳はあの小さな体積でそれを遙かに上回る量の情報を高速で処理しているんだから、それはそれで神秘的ですごいけどね……。


 いずれにしてもミキさんはそうしたことをすんなりとやったから、僕は興奮せざるを得なかったわけだ。頭も思わず熱くなる。


 ――そっか、ミキさんはどこかに設置されているサーバーにネットを介して常時接続していて、あのタブレットは入力や出力をしているだけという形なのかも。クラウドシステムというヤツだね。


 それならあの小さなタブレットで複雑な処理が出来ていることなど色々と納得がいく。もちろん、基本的な処理や各種プログラムの実行はタブレット内でもおこなっているはずだけど。


 人間でいえば、脳と肉体が別々の場所に存在しつつも常に情報のやり取りをしているかのような感じ。



 …………。


 ……まさか人間の脳も別次元のどこかにあるサーバーみたいなものに未知の電波で接続して、情報を処理しているってことはないよね? 都市伝説界隈ではそういうような話も出ていると、何かで見聞きしたような気がするけど……。


 僕はそんなことを考えながら、ミキさんと千堂せんどう先生のやり取りを眺めるのだった。



(つづく……)

 

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