テイマー人形師のダンジョン攻略
かさかさ
第1章
プロローグ
それは、13年かけて作り上げた“命”だった。
獅子王 誠(ししおう まこと)は、かつて大企業の会社員だった。
一流大学を出て大企業に就職し、順風満帆だった彼の人生だが通勤電車での“冤罪”によってすべてを失った。
真実と名誉のために戦った裁判には勝利することができたが、その頃には戻ってくるものはなかった。
世間は冷たく、将来を誓いあった最愛の恋人も「距離を置きたい……」という置き手紙を残して誠のもとを去り、弟すら信じてはくれなかった。
「オレはやってない」と言った彼に、父と母だけは最後まで味方でいてくれた。
正義感が強く厳格な父、いつも背中を押してくれた優しい母。
……だが、涙を流して無罪を喜んでくれた二人は、病によりこの世を去った。
《もう誰も信じられない。自分を信じてくれる人はどこにもいない。》
その喪失感を胸に抱えながら、誠は“ダンジョン探索者”として生きる道を選んだ。
十五年前、突然世界に現れた“ダンジョン”。
未知の魔力が世界中に広がり、一部の人間にだけ“ジョブ”と呼ばれる能力が発現するようになった。
誠も失意のなか、突然ジョブを得たひとりだったため、国によって新設された【ダンジョン探索庁(通称「探索庁」)】に登録した。
【ドールマスター】
自作のドールに魂を宿せる、という謎めいたジョブが誠が得たジョブ。最初こそ使役系のレアジョブとして国や探索庁の期待を集めたが、戦闘にも回復にもあまり役立たないことが分かると、すぐに“ハズレ”の烙印を押され、探索庁の職員ですら陰で“オタク趣味ジョブ”と嘲笑った。
誰にも注目されず、派手なスキルもなく、ハズレジョブの烙印を押されたため、ギルドやパーティーにも入れてもらえず、ただ一人でダンジョンに潜り続ける日々。
それでも誠は諦めなかった。
人知れず素材を集めては、何度となく失敗しながらただ一つの“存在”を完成させるために没頭し、気がつけば13年という年月が経ち、誠は四十歳になっていた。
そして、そんなある日。
攻略され尽くした馴染みの古代遺跡ダンジョンの中層で、誠は偶然、隠された小部屋を発見した。
部屋のなかには、崩れかけた祭壇があり、その上にはひび割れた壊れかけの《魔魂核のオーブ》。
誠はトラップに注意しながら、オーブにゆっくり手をかけると
「…こわ…い……だれか……たす…けて……」
その声は、最初、風の音かと思った。
次に、幻聴かとも思った。
けれど、それは確かに誠の耳、いやココロに届いた。まるで壊れかけたオルゴールのように、震えていて、苦しげで、それでもどこか懐かしく愛らしい声だった。
また、誠はそれが13年間追い求めた最後のパーツであることを直感的に理解した。
素材はすべて揃った。魔術回路も、魔魂核も、魔繊維も、言語アルゴリズムも。
13年の努力の結晶が、すべてそこに集まった。
そして《ドールマスター》のジョブスキルが発動したそのとき
◇第一創造体 構築開始
◇魔魂核とドール、人格データ、#&@#%#、再%w…#°、&_構#@⁉︎築…、……統合中……完了
◇起動個体名:《リリエル》
◇認識対象:マスター ── 獅子王 誠
◇友好度:忠誠
工房中に光が爆ぜ、魔力が空間を満たす。
「……あなた……あなたがマスターですか?」
光の中から響いたその声は、ただ美しいだけではなかった。透き通るようでいて、どこか懐かしく、心の奥にひっそりと沈んだ感情を静かに撫でていく。
光が徐々におさまり、目の前に現れた声の主の姿に、誠は言葉を失った。
人外な美しい顔立ちとプロポーション。その肌は白磁のように滑らかで、微かな紅が頬に差している。
長い白銀の髪。意志を感じる深青の眼差し。人間と見まごうほど精巧な指先。
だが何より静かに立ち上がるその姿は、機械ではない。
彼女は、まるで“生きた人”だった。
誠は気づく。
自分が作り上げたのは、ただの人形ではない。
命を持ち、心を持ち、彼をマスターと呼ぶ“誰か”だと。
それが、この物語の始まりだった。
中年男が、冤罪の過去を背負いながら、13年の孤独の果てに《本当に信じられるもの》を手に入れる物語。
そしてそれは、やがて
仲間とともに歩むことで再び愛を知り“人ではない”ものと“人間”の間に橋をかける
小さな奇跡の物語へと続いていく。
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