第9話「家庭学習をAIが応援」

 放課後の静かな部屋に、やわらかな光が差し込んでいる。

窓の外では、黄昏が世界の色をゆっくりとオレンジから群青へと染め替えていく。

悠斗はリビングの大きなテーブルにノートやタブレット、教科書を並べ、深呼吸をひとつ。

今日は、AIと一緒に家庭学習の日だ。


 壁掛け型のAIラーニング・サポーター「アーク」は、やさしい声と未来的なシルエットで家族の学びを見守ってくれる存在だ。

ディスプレイの中心には、流れるような色彩のグラデーションと、詩的なインターフェイス。

「こんばんは、悠斗さん。今日はどんなことを学びたいですか?」

アークが微笑むように問いかけてくる。


「うーん……明日の英語の予習と、数学の宿題。それから現代文の読解もお願い」

「かしこまりました。まずは、あなたの“やる気詩”で学習モードを始動してください」


 詩で始まる家庭学習――それは、AI時代の子どもたちにとって、ごく自然な儀式になっていた。

悠斗は少し考え、AIと自分だけの“開幕のことば”を紡ぐ。


「夜のページ 未来のドアを ノックする

 知の光よ 僕を照らして 進む道」


 アークのディスプレイがゆっくり輝き、

『素晴らしい詩ですね。やる気スイッチ、フルパワーでONです』

学習プランがホログラムでテーブルの上に浮かび上がる。英語の単語カードが空中に舞い、数学の問題は立体グラフとして回転し、現代文の本文が淡く重なり合う。


「まずは英語からいきましょう。リズムに合わせて単語を覚えませんか?」

アークが優しく提案する。

ビートに合わせて、単語がリリックのように現れる。


「Challenge, create, believe, and shine

 Step by step, your dream is mine」


 AIと一緒に声に出して繰り返す。

覚えるだけでなく、詩として“感じる”ことで、言葉が心に深く残る気がした。


 次は数学。AIが手元のタブレットと連携し、問題ごとにわかりやすい図やアニメーションを生成してくれる。

つまずいたときには、「ヒント詩」を頼めるのが未来流だ。


「分からない夜も 焦らず一歩 解けるまで

 数字の森に 希望の光 きみと歩む」


 不思議と肩の力が抜け、焦りも少しずつ消えていく。

正解すると、AIがささやかな祝福の詩をくれる。


「小さな解答 積み上げていく 夢の橋」


 現代文の読解では、AIが一緒に物語を読み、疑問点や登場人物の心情を一つずつ丁寧に解説してくれる。

「この主人公は、なぜこの場面で立ち止まったのでしょう?」

問いかけに、悠斗は自分の気持ちを言葉にしてみる。

アークはそれを静かに受け止め、必要なときはそっと詩を添えてくれる。


「迷う心に 優しい声を かける夜

 自分の言葉 未来へ繋ぐ きみに拍手」


 気づけば、2時間があっという間に過ぎていた。

勉強の合間にはAIがリラックスのBGMを流し、休憩中には軽いストレッチの提案や、今日の学びを振り返るショートポエムを届けてくれる。


「今日もたくさん学びましたね。明日も“詩の力”で、あなたを応援します」


 窓の外では、夜のとばりが静かに降りていく。

机に並んだノートと、AIアークのやさしい光。

未来の学びは、孤独じゃない。

言葉とAIが寄り添うことで、

“家庭学習”さえも新しい物語になる――

そんな幸福な夜だった。

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