第21話「青空の向こうへ」

季節は、知らぬ間に巡っていた。


メガシティの空は、相変わらず均質に澄みわたる青さを保っていた。だが、その空の下で、アカリたちの心には、もうかつての「退屈な青」がそのまま映ることはなかった。


「明日から、私たち……大人なんだって。」

ユキがつぶやいた。彼女の声は少しだけ震えていた。


「大人、か……」レンが、ポケットに手を突っ込みながら、わずかに笑った。

「でも、もう『社会的役割』なんて意味を持たないだろ?ガイアが全部最適化してくれるから。大人になったって、別に何も変わらない。」


アカリは二人を見つめ、そしてそっと言った。

「変わるよ。私たちは、自分で意味をつくる道を選ぶから。」


三人は、秘密のクラブの場所――旧区画の地下室に集まっていた。小さな明かりと、誰かの描いた壁画、ほつれたスカーフ、手書きの詩の断片、古びたギター。それらは、誰かに認められるためのものではなく、自分たちのためだけに「在る」ものだった。


「AIが全部やってくれる世界で、私たちは何をしたらいいんだろう?」ユキがぽつりと問いかけた。

「たぶん、何をしたっていいんだよ。」アカリが答えた。「でも、その『何をしたっていい』っていう自由が、一番怖いんだよね。だから、私は……これからも自分の歌を作りたい。意味なんてなくても、誰かに届かなくても。」


レンが笑った。

「俺も、ヘタクソでも、絵を描き続けるさ。誰に頼まれたわけでもない、自分の絵を。」


ユキはしばらく黙っていたが、やがて静かに微笑んだ。

「私も、やってみようかな……自分だけの何か。」


誰もが「大人」になるその瞬間を、完璧なシステムの中で迎えた。けれど、アカリたちはガイアが用意した「大人」という意味には乗らなかった。社会的な役割を与えられ、最適な幸福を割り当てられる未来を、ただ受け入れることはしなかった。


地下室から外に出ると、空は薄暮に染まり、雲がゆっくりと流れていた。街の光が滲み、ビルの隙間から見える空は、完璧な青ではなく、少しだけ茜色を帯びていた。


「見て……空、綺麗だね。」ユキが呟いた。


「うん。」アカリも頷いた。「でも、あの空は、私たちのものじゃない。だから……これからも、自分たちの空を探し続けよう。」


レンが小さく笑い、三人の肩が自然に寄り添った。彼らの背後では、都市の均一な光が青白く瞬いていた。けれど、その光に照らされる彼らの影は、どこか柔らかで、不揃いで、でも確かな輪郭を持っていた。


「私たちの青春は、終わらない。」アカリは心の中で、静かに言った。

「ガイアの最適な未来の中で、私はこれからも、自分の手で意味をつくる。痛みも、迷いも、全部受け止めて、青空の向こうへ。」


空は、静かに色を変えながら、彼らの上に広がっていた。


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