第9話 紫色の接触と予期せぬ共鳴

葵が仲間に加わったことで、悠斗たちの秘密組織は四人となった。暦の未来跳躍、瑠璃の予知、葵の未来視。それぞれの能力はまだ発展途上だが、協力することで、政府の影に対抗できる可能性がわずかに見えてきた。


残るは、図書館で見かけた紫色の瞳の少女と、まだ見ぬ三人。彼女たちの居場所と能力を突き止めることが、今の彼らにとって最も重要な課題だった。


悠斗は、図書館での記憶を頼りに、再び紫色の瞳の少女を探し始めた。彼女がいたのは、普段あまり人が立ち入らない、古い文献が集められた一角だった。今回も、同じような場所に彼女がいるのではないかと当たりをつけたのだ。


数日後、悠斗はついにその少女を見つけた。以前と同じように、一人静かに本を読んでいる。淡い紫色の瞳は、相変わらず神秘的な輝きを放っていた。


意を決して、悠斗は彼女に近づき、声をかけた。「あの……もしかして、以前、ここで会いましたよね?」


少女は顔を上げ、悠斗をじっと見つめた。その瞳には、警戒の色は見られなかったが、特に 親しみ のような感情も読み取れなかった。


「……はい」


彼女の声は、見た目通り、静かで落ち着いていた。


「あの時、僕が探していた本を、わざわざ置いてくださったのは、あなたですよね?」


悠斗がそう尋ねると、少女はわずかに頷いた。


「ありがとうございました。本当に助かりました」


悠斗が感謝を述べると、少女は小さく首を横に振った。「あなたが、それを必要としていたからです」


彼女の言葉は、どこか含みがあるように聞こえた。まるで、悠斗の探していた本が、単なる偶然ではないことを示唆しているかのようだ。


「あの……もし差し支えなければ、あなたの名前を教えていただけませんか?」


悠斗がそうお願いすると、少女は少し考えてから、静かに答えた。「私の名前は、藤宮 紫苑(ふじみや しおん)です」


「藤宮さん、ありがとうございます。僕は雨宮悠斗と言います」


悠斗が自己紹介をすると、紫苑は特に反応を示すこともなく、ただじっと悠斗を見つめていた。その瞳は、まるで悠斗の心の奥底を見透かそうとしているかのようだった。


「藤宮さんは、どうして僕があの本を探しているって分かったんですか?」


悠斗が疑問をぶつけると、紫苑は静かに言った。「私は、少しだけ未来を見ることができるからです」


その言葉に、悠斗は息を呑んだ。また一人、未来に関わる力を持つ者が現れた。しかも、彼女は自分の探していた本を知っていただけでなく、それを必要としていることまで見抜いていた。


「あなたも、未来が見えるんですか?」と悠斗が尋ねると、紫苑は小さく頷いた。「でも、暦さんや葵さんとは少し違うかもしれません。私が見るのは、もっと断片的で、象徴的な映像が多いです」


彼女の話によると、紫苑の未来視は、具体的な出来事というよりも、感情や 象徴として現れることが多いらしい。そのため、解釈が難しいこともあるが、重要なメッセージが含まれていることが多いという。


悠斗は、自分の未来跳躍、暦の跳躍、瑠璃の予知、葵の未来視、そして紫苑の象徴的な未来視。それぞれの能力は異なる形をしているが、確かに未来に関わっているという共通点があった。


「藤宮さんも、政府機関の人から接触を受けたことはありますか?」と、悠斗は警戒しながら尋ねた。


紫苑は少し首を傾げた。「いいえ、まだありません。でも、あなたたちは、もう会っているのですね?」


悠斗は、神崎凛との接触について、簡単に紫苑に説明した。紫苑はそれを静かに聞き終えると、憂いを帯びた表情で言った。「彼らは、私たちの存在を利用しようとするでしょう。暦さんの見た黒い服の人たち……私も、何度か夢の中で見ました」


やはり、暦が見たのは単なる夢ではなかったようだ。政府は、すでに能力者たちの捕獲を始めているのかもしれない。


「藤宮さんも、もしよかったら、僕たちと一緒に……」と悠斗が再び提案しようとすると、紫苑はそれを遮るように言った。「ええ、喜んで。私も、皆さんと力を合わせたいと思っていました」


彼女の言葉は端的だったが、その奥には強い決意が感じられた。これで、未来に関わる能力を持つ仲間は五人となった。残るはあと二人。


しかし、政府の動きは日に日に 不明確さを増していた。神崎凛からの連絡はないまま、明稜大学周辺では、以前にも増して大学関係者以外を見かけるようになった気がする。


そんな中、悠斗は、暦、瑠璃、葵、そして新たに加わった紫苑と共に、今後の方針について話し合った。それぞれの能力を最大限に活かし、政府の動きを探りながら、残りの仲間を見つけ出すこと。そして、もし政府が敵対的な行動に出た場合には、協力して対抗すること。


五人は、それぞれの能力を試しながら、互いの繋がりを深めていった。ある時、悠斗が未来跳躍で見た断片的な映像について話すと、紫苑がそれを象徴的に解釈し、未来の危険を回避するヒントを与えてくれたことがあった。また、葵の未来視は、直近の危険を予測するのに役立ち、瑠璃の予知は、さらに先の未来の可能性を示唆してくれた。


それぞれの能力が共鳴し合うことで、彼らは一人では見えなかった未来の姿を、少しずつ明確に描き出し始めていた。


しかし、まだ出会っていない二人、そして政府のより強い力が、彼らの行く手にどのような困難をもたらすのか、想像もつかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る