第13話 橘家のお社
私はこの手紙を3回くらい読み直した。
この手紙が、死の間際の父が娘に宛てた渾身のジョーク、という線はないだろうか。あの人は娘の私をからかうのがとても好きだったから。手紙が包んでいた紙に何か書いてないか見てみたり、手紙の裏側をみたり、光に透かしてみたりした。念のため炙ってみたりもしたが、特にどこも怪しいところはみつからなかった。
「うーん。」
私が傍目にはとても奇妙な行動をとっていたからか、私の幼い頃の写真に夢中だった拓真もそんな私の様子に気付き、こちらを見ている。
「何してるの?」
「父の手紙が……」そういえば、父が見せる相手は限定しろって言ってたわね。でもこれまでの拓真の行動を見る限りそうそう私に悪いことはしなそうだし、こんな荒唐無稽な話を真に受けて一人で真っ暗な社なんか行きたくないし、巻き込むとしたら拓真が適任かも。
「はい」と拓真に父の手紙を手渡した。
「見て良いの?」
「いいわよ、その後で感想を聞かせて。」
さっきまでは寝転がってアルバムを見ていた拓真だけど、ちゃんと座ってちゃぶ台の上で読みだしたわ。父の手紙をリスペクトしてくれるのは地味に嬉しいわね。
そういえば仏壇に鍵があるって言ってたっけ。がさごそ、ここかな?あった。真鍮製の長さが10cmくらいある結構ゴツイ鍵ね。もしかしたら手紙の話は本当なのかしら。
そこで拓真がちらっと私を見た。読み終えたのかしら。
「どう思う?」
「面白いよ!わくわくするじゃん、こういうの。仁美はそうでもない?」
「まぁね。父は私をからかうのが結構好きだったから、死ぬ間際の渾身の力作という線が捨てきれなくて。」
「……仁美って結構ひねくれてるの?さすがに死の間際でそれはやらないでしょ。相手の反応も見れないんだし。」
「でもあの父親だからどうかな?
とりあえず、拓真は興味あるってことでいい?それなら日本酒買いに行こうか。もし嘘だったら父の墓にぶっかけてやれば無駄にならないでしょ。」
「それは別に俺が飲んでもいいけど。まぁいいや、エンジンかけてくる。」
日光まで車を飛ばして、ついでに二人でランチをした。それから、酒屋で一升瓶の日本酒をせっかくならと3本買った。そして実家に戻り土蔵の前へ。
表の鍵を開けると、土蔵の中は思ったよりも片付いていた。幼い頃の記憶では、製材所で必要な資材等が雑然としていただけだったのに。製材所を閉じたあとに片づけたのかもしれない。
奥まで進むと、そこには手紙にあった南京錠がかかった大きな扉があった。仏壇の引き出しにあった鍵でその扉を開ける。扉の奥は真っ暗で、土蔵の天窓からの薄暗い光が差し込んだ程度では、細い道があるかなくらいにしか分からない。そして心なしか辺りの空気にひんやりとした冷たさと清涼さとを感じる。
持ってきた懐中電灯の明かりをつけると目の前には、ずっと奥まで左右と天井を木材で補強された土のトンネルが見える。補強された柱の天井近いところには、昔はろうそくを置いていたのではないかと思われる小皿がところどころに設置されていた。
私は思わず拓真をみた。それに気付いた拓真もこちらを見た。
「ちょっとこれはもう、ネタやジョークで出来る範疇の代物じゃないわね。」
「だから、言ったじゃないか。とりあえず奥に行ってみないか?」
「何がいるか分からないから、拓真先に行ってくれる?」
「構わないよ、と言いたいところだけど、お父さんの手紙を見る限り、橘家の血を引く仁美が前の方が良いと思うんだよね。」
くっ、確かに。
懐中電灯を片手に暗いトンネルを進む。20メートルほど進んだところで少し開けたところに出た。
そこには明らかに不自然なくらい真新しいお社がぽつんとあった。
木造のお社は昨日建てたまるで新築のようだ。それに掃除されたように埃ひとつない。こんな場所に誰が、いつ、どうやって?
「お社、あったわね。しかもなんでこんなに不自然に真新しいの?」
「そうだね。なんか掃除も必要なさそうだし、とりあえずお酒をお供えしてみたら?」
と一升瓶を渡された私は、廟の前の左右に置かれた徳利にお酒を注ぐ。
「神様だから、二礼二拍手一礼でいいのかな。」
その辺に一升瓶を置くと、二礼二拍手一礼をした。
すると中央にある喫茶店のシルバートレイ大の鏡が白く光り輝き、頭の中に誰かの声が響いてきた。
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