契約期間は5年間。男嫌いな私の契約結婚物語
崖淵
第1話 青天の霹靂
男なんてくだらない。
絶対に結婚なんてしない。
私の名前は、
ちなみに星場XコーヒーのXは、星場一族が倍々に栄えていくようにって願いが込められてるそうよ。今のところその名のとおり破竹の勢いで、出店数を増やしているわね。
我ながらルックスはそこそこ良いから、告白された回数は数知れず。付き合った男の数だって両手の指では収まらないわ。
でもね、その結果として、男なんてくだらないという結論に至ったわけ。別に理由もなく男嫌いとかではないわ。
男の何が嫌かって、今まで付き合った男にみんな言えるけど、総じて精神的にガキで、そのくせどこかしらで女性を下に見ている。
ふざけんなっつうの。
「私は、お前のママじゃない。」
実際に言ってやった相手も何人もいる。
尊敬できる男性が今までいなかったわけじゃないけど、そんな人はずっと年上で妻子もちゃんといるわ。
若い男にロクな男はいない。
これすごく大事だからみんな覚えておいて。
でもね。そんな私がなんとこの度、結婚する羽目に……。はぁ。どうしてこうなってしまったのか。
まぁ、理由ははっきりしてるんだけど。
話せば長くなるんだけど、遡ること半年ちょっと前、父が死んだわ。突然の脳梗塞でね。あの時は悲しかったわ。忙しかったからしばらく顔を出せてなかったけど、今思えばもう少し会ってあげていればよかったわね。
私は一人娘だったし親戚も特にいなかったから、葬儀やお墓のために帰郷して、1週間かけずりまわったわ。
一連の手続きを終えて、私はすぐに東京へ戻った。忙しかったからね、とんぼ返りだったわ。喪に服す気が無いわけじゃなかったけど、父はもちろん母も数年前に亡くなって、誰もいない家に一人でいるのもね。
それで忙しさからいつの日からか、父のことを忘れたわけじゃなかったけど、あんまり意識はしなくなっていたわ。でも青天の霹靂ってのは本当にあるのね。その約半年後、私の自宅に1通の封筒というか通知書が来たわ。
それは税務署から相続税を払えって通知書だった。
相続税って言われて、え?実家なんて田舎の山のふもとにある木造の平屋なんだし、無税の範囲内でしょって思いながら、むしろあの親父、申告しないといけない程の隠し財産でもあった?ってちょっと期待しながら封筒を開いて中を読んだのよ。
そしたら、最後に書いてあったわ。
”評価額約1.5億円の山林の相続税2,860万円を来月末までに納付すること”
ってのがね。
「はい?」一瞬何のことか分からなかったわ。次にタチの悪い冗談か、流行りの振り込め詐欺かと思ったわ。でも書類は税務署からの正式な物にしか見えなくて、その対象とされた山林の住所も実家と似たような住所で見覚えがある。
言われてみればうちの実家、山をもってたわね。小さい頃はその裏山でよく遊んでたし、父は事業として林業をやってたわ。年配の従業員たちともよく遊んでもらったっけ。でも高齢からか従業員も年々減って、最後の一人になった父も先年に腰を痛めてから止めたって聞いてたけど。
……
あぁ、その山が残っていたわけか。思わず私は頭を抱えたわ。
そういえば相続放棄という手段があったはずと思い、WEBで調べてみたけど期限は3カ月でとっくに過ぎていたわ。
相続放棄をし損ねて、親の莫大な借金を背負うことになる――調べているうちにそんなケースが山ほどあるのが分かったわ。そしてもうどうにもならないことも。
何をどう足掻いても相続放棄はできない。ああ、参ったなぁ。
そしてタチが悪いことに、私の場合は親の借金ではなく税金であること。
税金は破産できない。厳密には破産しても借金と違って、税金は支払い義務が残る。ようするに破産する意味が無い。
その山を売却すれば相続税は払えるのでは?って思ったでしょ。
確かに売れれば売却金で払えるわ。
でもね、調べてみたけど、山林はなかなか売れない。どれくらい売れないかっていうと1億円以上の山林が3年以内に売却できるのは80%くらい。逆を返せば20%の確率で3年経っても売れないということ。
しかも売れても評価額の10%~30%がいいところみたいね。そこまで下げても売れるのには数年単位でかかる。
そしてこの封筒は支払い期限間際の通告で、期限は残り1カ月半後。
売れるかな、あんな田舎の山。しかも1カ月で。絶対売れないよな……。
あー、失敗した。あの時の私は相続放棄をしないといけなかった。どうせ山なんていらないんだし、忙しさにかまけて迂闊だったわ。でもすべては後の祭り。
何があっても、税金だけは借金してでも払わないといけない。そして売れない期間中はずっと固定資産税(評価額の1.4%)が発生し続ける。
その額はなんとあの山の場合、1年で210万円。高っ!
でもリアリストだった父が、そんな固定資産税がかかる山をそのまま放置するなんてある?いや、今はそんなことを言ってる場合ではないわ。
とりあえず落ち着いて、資金のシミュレーションをしてみるべきね。
この山を担保に銀行から3,500万円借りたとする。3年以内に山が売却できれば、相続税2,860万円と固定資産税3年分の210万円×3年の合計約3,500万円分の借金でとりあえずまかなえる。
でも3,500万借りたら、年利3%で毎年105万の利息。
……利子だけで毎月9万円弱の支払いか。しかもこれだけ払っても元本が減らないのだから、やってられないわ。
しかも評価額の30%の4,500万円で売れたらいいけど、10%の1,500万円だったら借金2,000万円以上だけが残る。あんな田舎の山で30%は無理な気がする。
そしてどちらにしろ、売れない限りは毎年210万円の固定資産税が発生する……。
あれ?これ早期に売れないと私詰まない?
はぁ。郊外のそこそこ良いマンションを買って悠々自適なソロライフ……は、少なくとももう無理そうね。私の人生計画が大崩壊だわ。
って考えてたら、ついついオフィスで溜め息ついちゃった。キレイで静かなオフィスのせいか、その溜め息は周りによく聞こえてしまったみたいで、新入りの生意気な要注意人物な部下の一人に「先輩が溜め息なんて珍しいですね、どうしたんですか?」って聞かれて、つい答えちゃったのよね。いつもの私なら絶対にそんな弱気な態度を部下になんて見せないのに。あまりの金額に心が弱くなっていたのかもしれない。
「へー、それはそれは……『何よ?』いや、えっと……大変そうだなって」って彼は何か言いたげだったけど、結局その時はそれだけで終わったわ。いつもの彼の軽いノリとは違うと思ったけど、私はその話を早く終わらせたかったから気にしないことにしたわ。
でも週末になって急にその部下が、
「先輩、今晩時間もらえますか?」
「デートのお誘いならお断りよ?仕事の悩みなら上司として聞いてあげてもいいけど。」
「じゃあ、それで」
「じゃあ、それでって何よ」って話なんだけど。
まぁ予定も無かったし、上司のつとめとして夕飯を一緒にすることにしたわ。
それがまさかあんな話になるなんてね。
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