美少女(73)ハーレムと田舎暮らし

のりお

プロローグ

「やっと終わったー、早く食べよ」

「やべ、俺早弁したわ」

「何してんの。学食行ってきたら?」

「そうする……って、げぇ、アイツらいんじゃん」

「アイツら?ああ、あのキモオタ三人グループねw」

「あそこ通りたくねぇー、匂いが移りそうw」

「ちょっとやめなよ、聞こえるよw」

「大丈夫だってw」


♢  ♢  ♢


 いや聞こえてますけどーー。

 全く、俺らなんにも迷惑かけてないだろ。何でそんなに嫌煙けんえんされなきゃならんのだ。ってか毎日風呂だって入ってるし!臭くねーよ!


「ひどい言いようだよね、全く」


 隣にいた朝陽あさひにも聞こえていたのか、ムッとした顔で集団の方を見る。“ほそかわあさひ”という名とその柔らかな物腰から、字面じずらだけ見れば清楚系女子である。現実は身長百六十のチビデブメガネなのだが。


「ああ、青羽あおば殿wwあの陽キャどもを『バイオレンス・フレイム』で片付けるのはどうでござるかww」


 弁当を食べる手を止め、瓶底メガネをカチャカチャと鳴らしながら俺にそう言ったのは雪野桜太ゆきのおうた桜太おうた朝陽あさひとは真逆で、ガリガリの体に出っ歯の瓶底メガネスタイルが特徴的だ。見え方の原理は知らない。

 ちなみに桜太おうたは秋生まれである。


「そこは『フロート・フラッシュ』だろ。分かってないな」


 俺は卵焼きを飲み込んでからそう言った。『フロート・フラッシュ』も、『バイオレンス・フレイム』も、マイナーアニメの必殺技だ。


「それは青羽あおば殿の推しが使っている技だからであってwwwこの場合での最適解はwやはり苦しめられる『バイオレンス・フレイム』がいいかとww」

「もー。あんな奴らの苦しむ姿見た所で面白くないよ。僕は青羽あおばに賛成」

「はは、これで二対一だ」


 からかってそう言うと、桜太おうたはあからさまに悔しそうな顔をして、また弁当の白米に目をやった。


 俺達は、見てわかる通りのオタク三人組。細川朝陽ほそかわあさひ雪野桜太ゆきのおうた、そして俺

鈴木青羽すずきあおば。三人ともものの見事にオタクで、アニメ、マンガはもちろん、最近はガチャの排出率が異常に低いソシャゲにハマっている。メガネ率は驚異の百パーセントだ。

 特徴を聞いて察するだろうが、俺達はいわゆる"陰キャ"というもので、いわゆる"陽キャ"というものに様々なことでからかわれる毎日を過ごしている。


 しかし俺達は、そんな陽キャ共に合わせることなく、毎日推しの話をして、ゲームの話をして、アニメの話をして……そんな日々が楽しかった。だから別に陽キャが来たって……


「なあ、君ら三人って何話すの?w」


 話しかけて来たのは、先程早弁して食堂に行こうとしていた陽キャA。ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながらこちらへ来る。


「あっ、いや、まあ、色々……」


 テンパってしまってそれ以上の言葉が出ない。動揺している間にも、陽キャAは話を続ける。


「やっぱアニメ?それともゲームとか?おっぱい大きい女の子が出てくるやつ?w」

「や、話しても分からないかと……w」

「え?なんて?w聞こえないw」

「あっ、なんでもないです……はい」


 桜太おうたのささやかな抵抗も虚しく、外野の笑い声と目線が次第に多くなっていく。


「君は?えぇっと、誰だっけw太川くん?太川くんはゲームやるの?w」

「いやぁ……ん~……はは……」


 朝陽あさひはニコニコと迷惑そうな顔で曖昧に返事をする。


 その後はとても気まずい沈黙が流れ、やがて沈黙を破ったのは昼休み終了を告げるチャイムだった。


♢  ♢  ♢


「くーー!やっと六限終わったーー」


 放課後も三人でまた集まると、大きな伸びをしてからカバンをかるう。

 この学校は肩からかけるタイプのスクールカバンだが、ほとんどの生徒は取っ手を使ってリュックサックのようにして背負っている。まあ俺達三人はその"ほとんど"に全員入っていないが。


「あ、そういえば!青羽あおば桜太おうた、僕昨日臨時でお小遣い入ったからアニ○イト寄って帰らない?」

「寄り道などw陽キャでござるかw」

「いやアニ○イト行く陽キャどこにいんだよ」

「どう?楽しそうじゃない?」


 思いがけない誘いだったが、なんせ俺達陰キャは予定など無に等しい。放課後のアニ○イト寄り道なんて……そんなの……


「いや行くに決まっているw」


 言おうとしたことを桜太おうたが先に言ってくれたので、俺もそれとなく頷いて、今日の放課後はアニ○イトに行く事になった。


 アニ○イトで何を買いたいか話して、新刊の情報を共有して……そんな時間ときを過ごした頃は夢にも思わなかった。

 まさかこの何気ない選択が、俺達三人の人生を変える、それこそ夢のような選択になるとは。



 そう。あれは。


 夏の暑さでやられそうになって。


 いつも煩い蝉の声に耳を塞いで。


 ”七月の過去最高気温”と書かれたニュースを横目に見ながら。


 普段から運動なんてしない俺達にとっては地獄のような道のりで。


 遮蔽物しゃへいぶつも何もない商店街を全力で照らす太陽を恨みながら。


 息を切らして歩いた七月十五日。


 俺達は。


「下の高校生!!!危ない!!!」


♢  ♢  ♢


「キャァァァァァ!!」

「救急車!!救急車を、!!」

「に……肉と……血が……飛ん……」

「落ちてきたのは……鉄骨か……?」

「落ち着いて!!離れてください!」


 工事現場の真下を歩いていた。

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