Well-being
トンヌラ
第1話
昼休みの鐘がなったので、ラヌントは二冊の本を持って校庭の隅へ向かった。
分厚くて大きい方の本を地面に置き、枕のようにして寝そべる。薄い方の本を顔の上に被せる。完璧だ。
下校の鐘が鳴ったので、ラヌントは急いで学校を出た。家から学校までの距離は長く、退屈であったので、ラヌントはよく考え事をしていた。
「誰だって被害者なんだ、悪人はいないよ。みんな望んで生まれてきたわけじゃないんだから。しょうがないじゃないか、可哀想に。この戦争だって誰が悪いってわけじゃないんだ。先生が『ザルドアの連中は悪魔だ』って言うのだって、生徒がそれを信じるのだって、仕方のないことなんだ。」
「勝ち組だからそんなこと言えるんだろ。」
彼の側には常にもう一人の自己がいた。そいつはラヌントの論理の隙をついたり、違う視点を示したりする。ひとりぼっちで生活しているうちに、彼の紡ぐ論理が偏らないようにと、自戒のためにそいつを生み出した。
彼には幼い頃から友人がおらず、生まれつき人間を恐れていた。
翌日も昼休みの鐘がなったので、ラヌントは二冊の本を持って校庭の隅へ向かった。
分厚くて大きい方の本を地面に置き、枕のようにして寝そべる。薄い方の本を顔の上に被せる。悪くない。
下校の鐘が鳴ったので、ラヌントは急いで学校を出た。
「だからこそ僕は『ぼくが』幸せにならなきゃいけないんだ。正確にいえば、『僕は僕の幸福を最大化して、不幸を最小化する』。」
「でも、『時間をx軸、幸福をy軸としたとき、生まれた時から死ぬときまでの範囲の符号付き面積を最大化すれば良い』みたいな、そんな簡単な話じゃないんだ。実態はもっと複雑で、例えば起伏のある人生と起伏が皆無な人生が同価値とは思えないし、長期的幸福計算と短期的幸福計算のどっちを優先すべきかみたいな話も出てくる。そもそもどうやって幸福を測るのかもまだ分からないし……」
ラヌントは一度考え出すと止まらなかった。彼の思考は授業中でさえも抑えられず、それゆえ学業成績は、彼のポテンシャルに反して学年で真ん中くらい、といったところで落ち着いていた――彼の住むモルナ区でトップの実績を誇る高校の中の中間だが――。志望大学にはなんとか合格することができたので、来年度からは大学生となる予定であった。
家と学校のちょうど中間のあたりへ着いた。
突然、鳥が飛び立った。白と、黒と、赤。三色同時に。
「赤い鳥なんて見たことないな」
だが彼はすぐに、赤い鳥より遥かに奇怪なものを見つけた。遠くに見える、白い光。それは突然ラヌントにものすごい勢いで急接近してくる。
衝撃が体を貫き、世界が白に染まった。ラヌントは3メートルほど吹き飛ばされた。
「…… ザルドアの新兵器か?」
加えて突然、曇っていた空が明るくひらけた。
先程の衝突なぞ比べ物にならないほどの爆発音がして、視界が真っ白になった。
ラヌントは呆然としていた。理解が追いつくはずがなかった。今の爆発は何か、何故自分は生きているのか。光が薄れてくると、彼は2つのものを目にした。
目の前に広がる更地と、自分を覆っている透明で球状の何か。
「…… 本当に新兵器、なのか? ザルドアの?」
自分の家があったあたりの更地を見つめながら、彼は腰を抜かしていた。
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