A0919〜いつか夢見た異世界転生

黒月凪咲

死後の世界ってなんであんな殺風景なんだろうね?

 突然の事だが、俺は死んでしまったらしい。


 なんか気づいたら真っ白な空間に飛ばされてた。辺りを見回してもなんにもない、ただただ白い場所。


「テンプレ的な死後の場所、って感じだな」

 そこそこラノベを読み漁っていた俺にとっては、ある意味1番今の状態を表してくれる所。直前の記憶はほとんど無いけど、ここにいるってことは死んだんだろう。


「にしても殺風景だな。もっとこう、座る所とかなんかないものかな」

 そう思った瞬間、目の前に木製の椅子と机が出現する。

「うぉっ⁉これ、俺が昔使ってた椅子か?――座り心地もそのままだ」

 座ってみれば、それが自分の物だと分かる。とりあえず欲しいと願えば物が出てくることが分かったので、クッションとオレンジジュースを出して一息つく。


コクコク「...ふぅ」

 一息ついた所で、改めて自分の状態について見てみる。目が覚めた時には気が付かなかったが、体が薄っすらと透けている。より、死んでしまったのだという確信が深まった。


「死んだのか...随分と早かったな」

 小中高はクラスのよくいる陰キャ集団の一人として過ごし、甘酸っぱい青春とはほとんど無縁の人生を送った。大学は家から近い適当な場所を選び、単位を取るだけ取って後は家に引きこもってゲーム漬けの日々。両親がその段階でいなくなった為、卒業後は週3の軽いバイトと、親の残していった大量の遺産で過ごしていた。


 周りからはつまらない生活ともいわれていたが、個人的には充実した人生だったと思う。友人も少ないながらもいたし、バイト以外は趣味のゲームに注ぎ込んだ。

きっとやり直しの機会が与えられたとしても俺は同じ人生を歩むと思う。


 …いや、出来てないこともあったな。両親に育ててもらった恩を返せていなかった。親孝行をする前に事故で亡くなったものだから、隠れて貯めていた金も意味が無くなってしまった。


「それを除けば、やっぱ良い人生だったのかな」

「そうですか。それはなにより」「おわぁっ!?」

 急に後ろから聞こえてきた声に驚く。驚いた拍子に足を机にぶつけてしまい、上に置いていたジュースが机から落ちてしまう。咄嗟に手を出したものの間に合わない、と思ったが、横から出てきた細く白い手がカップを掴んだ。

「おっと危ない」

今までに聞いたことがない美しい声が耳元で響く。硬直した俺をそのままにしてジュースが机へと置かれた。


 声の主が机の前へ移動した。またしても俺は体を固めた。

その姿が、余りにも美しかったから。


「どうも、■■■■君。私は天使シリス。今回、あなたの転生業務に当たることになりました。短い間ですがよろしくお願いします」

「.........あ、ああ。こちらこそよろしくお願いします」

 辛うじてそれだけを返すことができた。頭の中はちょっとしたパニック状態だ。そりゃあそうだろう、目の前に急に絶世の美女と言っても足りないくらいの女性(天使)が現れたんだから。女性経験なんて塵ほどにしかない俺のとっては致命的クリティカルだ。

「あらら。緊張しちゃってます?女神様から賜った体ですし、当然ですが。このままだと仕事に支障がでそうですね。軽めに、【鎮静reduction】」




 ―――っ、なんだ?いきなり思考に冷水を浴びせられたような感覚がした。


「落ち着きました?転生業務に入りたいのですが」

「あ、はい。大丈夫です」

 あれほど緊張していた心が今はすっかり落ち着いている。彼女、シリスさんを見ても今は平静を保てている。魔法だろうか。

「ええ、パニックになっていらっしゃったようなので、精神安定の魔法を掛けさせていただきました」

 あれ、今口に出していたっけ。もしかして心を読んでいるのだろうか。

「はい、天使ですから」

天使ってすごいな。あ、ドヤ顔した。可愛いな

「コホン、それでは転生業務に入ります。よろしいですね」


 あ、ハイ。

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