【おまけ】魔王と弟とハンバーガー


【ハンバーガーが食べたい】


弟は『はんばーがー』とやらが食べたいらしい。

しかし、少女は『はんばーがー』を知らなかった。





今から5年前。

料理人は暇だった。

この静まり返った店内を見れば、原因は明白だ。

『客が来ない』

人間の国、その王都イーゴンに店を出したは良いものの、王都には星数ほど料理店があり、真昼間から店の中では閑古鳥が鳴いていた。

いくら腕前が良くても客が来ないなら意味がない。


「まあ、こんな路地裏やと昼間はこおへんよな」


路地裏の人通りなど期待できない場所にその小さな店はあった。

そんな逆境にも負けず、彼は今日も新作メニューを考えていた。


今日のテーマは『新しい肉料理』。

王都の主流は肉をそのまま焼いてソースにつけて食べるスタイルである。

肉自体には極力手をつけない食べ方が好まれており、ソースに工夫を凝らすことで料理として店毎に差別化を図っている。

しかし、彼はこれを料理だと認めたくなかった。

肉自体を調理しないということは、その味を上げるために肉自体を上質なものにする必要がある。

そうなった場合、自ずと高価な料理となって市民が手を出せない。

そのため、一般的に肉料理は貴族が食べるものというイメージが強い。


だが、『肉を食べれば力が湧く』。

これは料理人として沢山の食材に触れてきた経験によるものである。

肉、魚、果物、野菜といった食材はそれぞれ異なるパワーを宿しており、食べることで人間は強くなれる…はず。

だから、低品質な肉でも調理することで安く美味く元気になる肉料理を開発する事に意味があった。

少なくとも彼はそう考えている。


「ということで、試作13号『肉練りくん(仮)』を作ってみたんやけど……」


肉×練り物。

このアイデアで作ったのが『肉練りくん(仮)』である。

肉を細かく刻んで練り物のように固めたものであり、味付けも完璧である。

料理人のプライド的にも、味には自信がある。

しかし、人間の国において、こんな見た目の料理は今まで存在しなかった。

彼の脳はこれを食べ物と認識してくれない。


だいぶ迷走していると自覚がある。

彼は仕切り直すため、水を取りに席を立った。





「ごちそうさま」


料理人がコップを片手にテーブルへ戻ると、そこにはが座っていた。


「あ? いつの間に来たんや。ちょっと待っといて、今準備するし」


そして、目に入るのは綺麗に平らげられた皿。

『肉練りくん(仮)』の姿は何処にもない。


……。


彼は厨房へ向かうのをやめ、少女の対面にドカリと座った。


「どやった?」

「びみょう」


少女の口から出た感想に、彼はガックリと項垂れる。

それは料理を強奪した者が呟くにしては、あまりに無情な物だった。


「やっぱりかぁ。あんたは何が足りんと思う?」

「スパイシー」


即答。

思いの外まともな返答が少女の口から帰ってきた。

それは曖昧な言葉ではない。

少女は『断定』している。

この料理にはスパイシーさが足りない。

それはまるでこの料理の本来あるべき姿を知っているかのような物言いだった。


「また来る」

「……ええやろ、次は『うまい』と言わせたるわ」


これは挑戦状だ。

少女の中にある『新しい肉料理』に勝つ試練。

気付けば、料理人は久しく感じていなかった情熱を瞳に宿していた。


そして、気づいた時には少女の姿は何処にもなかった。


「え? 次いつ来るか分からんやん…」





あの少女に次に会ったのは1週間後だった。

次にいつ来るか分からない少女のため、彼が次なる肉料理を準備していた時である。


「ちがう」


「お気に召さんかぁ…」


今回は王都でも広く普及しているスパイスを使ってみた。

もちろんもっと金を払えば美味くすることはできる。

しかし、それでは一般市民が払える昼食代を超えてしまう。


「ふわふわ、足りない」


「なる…ほど?」


ふわふわとは? 彼がその言葉の意味を考えている間に、再び少女は姿を消した。

あまりにも早いご帰宅である。


それから料理人は少女に新しい肉料理を食べさせ続けた。


試作24号

油を増やす


試作31号

肉を細かく


試作49号

ジューシーさが足りない


試作99号

フォークとナイフで食べるスタイルにこだわらない


試作165号

ソースが物足りない


試作368号

食べづらい


試作568号

バリエーションが欲しい


試作1451号

刺激が足りない


彼は少女に新しい肉料理を食べさせ続けた。

不思議な事に、彼が肉料理以外を作った日に少女は現れない。

逆に肉料理を2品作った日には、1日に2度も現れた。

いちいち帰らなくてもいいのにと思わないでもない。

少女は表情が乏しいが、美味いと感じた時は口元がピクつくようだ。

ここ数年で少女の好みがだいぶ把握できた。

だからこれからも、彼が料理を作り、少女が食べる。

そんな日常が続くと思っていた。


「コレ」


少女が呟いた。

どうやら当たりを引き当てたらしい。

そう呟き、少女はいつものようにいなくなった。

そして、店に現れなくなった。





少女が店に現れなくなって1年。

いつものように試作品を作っても、少女は現れなかった。

しかし、変化はあった。

肉料理の香ばしい匂いに釣られ、昼間から店が賑わうようになったのだ。

店が忙しくなり、彼が新しい肉料理の研究をする事はなくなった。


そして、人間の国が魔王に負け、料理人の生活は一変した。

しかし、それは必ずしも悪い出来事ではなかった。



『弟、はんばーがー食べに行く』



頭の中に声が響く。

その言葉に、彼の心は跳ね上がった。

声の主人は魔王である。

そして、 とはあの時の少女と作り上げた『肉料理』の名前である。


「これは急いで準備しないとな」


料理人はいつものように挽肉を用意し、いつものように少女が愛用していたスプーンを食器棚から取り出した。

そして、



カランカラン



「らっしゃい。王国最強のバーガーショップへようこそ。うちの目玉商品、『渾身ハンバーガー』食べてや」





「たいしょう、いつもの2つ」

「ハンバーガーね。お前久しぶりやな。元気そうでよかったわ。ゆっくりしていきや」


料理人らしき男が姉さんに挨拶をし、厨房へ帰っていく。

かなり親しげである。

姉さんの交友関係は謎だらけだ。

でもそんなことは今どうでも良い。

今は『ハンバーガー』の方が重要である。

夢にまで見たハンバーガー。

この世界に転生し、ゲームもファストフードもスナックも無くなったと思っていた。

正直この文化レベルの世界にハンバーガーがあるのは違和感が凄いが、アニメや漫画の世界ではご都合主義などよくある話だ。

俺が転生した後に、マッ◯とコラボしたのかもしれないしな。


【姉さん、ハンバーガーショップなんてよく見つけたね。ハンバーガー食べたこと無いんじゃなかった?】


「魔法で作った」


ん?

よく分からないが魔法で作ったらしい。

姉さんの言ってることがよく分からないのはいつものことだ。

姉さんの『翻訳魔法』で会話できることが分かり、会話に飢えていた俺はめちゃくちゃ喋った。

勢い余って前世だかなんだかの話までしてしまった。

しかし、姉さんは微塵も動揺していない。

うちの姉さんは凄いのだ。


「おまちどうさん。渾身ハンバーガー2つや。冷めんうちにおあがりや」


「おいしそう」

「……」


料理人が姉さんと俺の分の料理を運んで来た。

姉さんがクマの模様が描かれたスプーンを使って食事を始める。

いつも無表情な口元がピクついている。

たぶん満足するお味ということだろう。


俺は皿の上にあるに目を落とす。










「いや、麻婆豆腐やんこれ」





---


■ 本日の魔法

【過去に介入する魔法】

ハンバーガーがないなら、ハンバーガーが発明された過去を作ればいい。

ハンバーガーを発明する可能性がある料理人へ干渉すれば難しい話ではない。


【記憶を覗き見る魔法】

『はんばーがー』がなにか分からないなら、分かるやつの記憶を覗けばいい。

とんかつ?ぴざ?まーぼーどうふ?おいしそう。




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