第19話

side:刻尾


  弟分の愚が絶望を味わってる時、兄貴分の存在である刻尾はその真逆で、幸福の絶頂で悦に浸っていた。


「ふははははははッ!!やはり俺は人生の勝ち組だッ!!!」


刻尾は超高級ホテルのスイートルームに泊まり、その部屋に用意された風呂に浸かりながら高笑いを上げていた。その側にはアリスから手に入れたトランクケースに入った札束があった。


「しかし……北条の名前が出て引きさがっちまったが、もっとあの女からむしり取るべきだったな。10億なんて金、いくら北条家の娘と言えど、そう簡単に用意出来るはずないからな。きっと、北条家の財産から勝手に取ったに違いない。そこを突いて脅せば……あるいは……」


アリスが10億もの金を持っている訳がないと考えている刻尾は、そんか思考を巡らせニヤニヤと笑みを浮かべていた。

  が、そんな思考を遮るように同じくトランクケースの近くに置かれていたスマホが鳴った。刻尾はスマホを手に取り、着信相手の名前を見て舌打ちをする。一度無視を決め込んだが、その後も何度もかかってくるので、イライラしながら電話をとった。


「ったく!うっせぇな!愚!今色々知恵を巡らせて金稼ごうとしてんだ!邪魔すんじゃねぇ!!」


刻尾は着信相手である愚にそう恫喝した。いつもなら、その恫喝の一言で謝罪して引くのだが今回は違った。


『うるせぇ!!あんたのせいで!あんたのせいで!!』


ひたすら同じように恨み言をぶつけてくる愚に舌打ちをし、「少し落ち着け」と言い放ったのだが


『これが落ち着いていられるか!?あんのせいで!あんたの悪巧みに乗ったせいで!俺の人生が破滅してんだよッ!!!』


「はぁ?どういう事だよ?」


刻尾はそう問いかけると、愚は怒り混じりに叫ぶように、自分が4大財閥家のブラックリスト入りし、どこにも就職出来ずアルバイトすら出来ない事を説明した。

  愚の話を聞いて、最初は自分への金の催促かと思っていたのだが、全くの真逆の話に顔が青ざめる。


「お前!?何で4大財閥家に睨まれてるんだ!?」


『バレたんだよ!!あの時!レストランで先輩とした会話!全部!そのせいで……!?』


レストランの会話と聞いて思い当たる節があった刻尾は更に顔を青ざめる。


(嘘だろ!?まさか!?あの時の会話全部聞かれて!?しかもそのせいで4大財閥家のブラックリスト入りするだと!!?)


『おい!聞いてんのか!?俺をこんなにしたんだ!責任を……!!』


「うっさい!お前はもう2度と俺に関わってくんなッ!!」


刻尾はそう叫んだ後、すぐに電話を切り愚を着信拒否設定にした。その後、広い風呂に縮こまりガタガタと震えながら思考を巡らせる。


(どうする!?どうする!!?あの会話もバレたって事は、俺も4大財閥家に睨まれてるって事か!?……いや、まだ大丈夫だ。あの10億の話を使ってあの女を脅せば……そこに活路を作るしかない……ただ、下手に藪を突く訳にはいかないから、あの女からまた金を巻き上げる事が出来ないが……)


「そうだ……!そうすれば……!まだ俺は大丈夫のはずだ……!」


刻尾は乾いた笑みを浮かべて現実逃避するようにそう言った。


  が、残念ながら刻尾の思考通りとはならず、すでに北条家の影が刻尾の周辺を徹底的に調べ始めた。過去の事から現在の事まで徹底的に。

  それだけでなく、今現在も影が刻尾を監視し、その様子を常にアリスに逐一報告されている事に……刻尾は全く知らないまま現実逃避の思考を巡らせるしかなかった。

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