第11話

  あまりにも空気過ぎて存在を忘れていた両親と妹の菜々美。それは、アリスの方も同じらしく軽く溜息をついて父の方を振り向いた。


「ごめんなさい。すっかり存在を忘れてたわ。貴方達への仕置きは後日じわじわとやっていくから。私達は忙しいのでこれで」


まるで早口言葉のように一切噛まずに淡々とそう言い放つアリス。そして、再びアリスは私の手を取り部屋を出ようとする。なんか気になる言語がいくつかあったのだけど、それよりも結婚の挨拶を優先したいの!?


「ハッ!?ちょっ!?待て!?話はまだ何もしてないだろうがぁ!!?」


アリスの言葉にしばし呆然としていた父だが、すぐに復活してそう叫んだ。アリスは私に聞こえる程度の音で舌打ちし、仕方なく父の方を振り向いた。


「何かしら?私はこれから私の両親に愛美と結婚する事を報告したいのだけど。それを遮ってまでする用なのかしら?」


「あっ……そ!その!うちの不出来な娘との結婚について話があるんですッ!!」


アリスの言葉に一瞬怯むも、何とかそう返す父。アリスはそんな父に溜息を一つついて、「言いたい事があるなら早くして」と冷たい眼差しでを向けて言い放つ。


「その……何故貴女様がうちの不出来な娘と結婚なさりかいは分かりませんが、その両親への挨拶は私共も参加出来ますよねぇ……」


父は媚び諂うような笑みを浮かべそう言った。父の言葉にすぐに反応を返したのは意外にも母だった。


「ちょっ!?貴方!あんな娘の結婚挨拶に参加するつもりなの!?」


「当たり前だろ!北条家との繋がりが出来たら、私の出世も約束されたも同然だからな!」


両親がそんな会話をする。父は小声で話したつもりだが、普通に丸聞こえで、私は思わず溜息をつく。まぁ、出世の為に私をあんな奴と結婚させようとした父だ。今更何も期待してないが、こうもあからさまな対応だと、悲しさよりも呆れてくるな……。


「あら?何故貴方達も誘わなくてはいけないのかしら?」


「いや!それはもちろん!そこの不出来な娘は一応私達の娘ですから!私達にも出席する義務はあると思いますが」


アリスが首を傾げてそう尋ねると、父はヘラヘラと笑いながらそう返す。こんな時だけ私を娘と言う父に最早怒りの感情すら湧かない。


「そもそも、貴方達は愛美とは絶縁してるのでしょう?」


「うぐっ!?そ……それは……!!?」


アリスの言葉に言葉を詰まらせる父。

  そう。中学の時に警察の厄介になって数日後、両親は私に絶縁状を送ってきたのだ。警察沙汰を起こした私は娘じゃないそうだ。故に、婆ちゃんが私を養子として迎えてくれたのだけど……。

  だから、呼び出された時は今更絶縁したくせに何でとも思ったが、私からも今後貴方達とは一切関わるつもりはないとハッキリ意思表示しようとも思い向かったら今回の件が起きたのだ。


「し……しかし……!絶縁は法的な拘束力はありませんし……!」


しどろもどろになりながらもそう答える父。一応、そこは知ってたんだと少しだけ感心する私だが、アリスは冷たい眼差しを向けたまま父に告げる。


「例え法的拘束力が無かろうが、一度絶縁を叩きつけた娘を呼び出し、あんな男と私の愛美を結婚させようとする輩と付き合いを持とうとは思わないわ。これは、私の両親も同じ意見よ」


「ぐっ……!?」


冷たい眼差しの上に淡々と告げるアリスの言葉に威圧され、父は小さな呻き声を上げる。やがて、誰も何も言わなくなったので「もういいかしら?」と言って私の再びとる。


「ちょっと待ってくださいッ!!!」


  そんなアリスに、まさかの待ったの声を上げたのは妹の菜々美だった。アリスは物凄く不機嫌そうな表情を浮かべながら菜々美の方を向く。


「まだ何か?」


「はい!お姉ちゃんじゃなく!私と結婚してください!!」


『はぁ?』


まさかのとんでもない事を言い出す菜々美に、私とアリスは同時に呆れた声を漏らした。

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