第2話 夢が現実に!? ミラクルトウェルブの世界!
それから私は、何日にも渡って同じ夢を見るようになった。
例の少女の夢、その少女が突然目の前に現れては言うのだった。
「お願いします。私たちの世界を救うために、こちらの世界にいらしてください。」と。
「どうすればそっちの世界に行けるの?」という私の問いに対して彼女は答えた。
「夜の12時に誰にも気づかれないように外に出て、学校の桜の木の周りを歩いて12周し、目を瞑って「ミラクルトウェルブの世界よ、我を呼びたまえ!」と10回唱えればこっちの世界に来る事が出来るわ。」
そんな馬鹿げた事があるか、最初は思った。
私には幼い頃から子供らしからぬ、物事をありのままに捉える、つまり現実的に考えてしまうような癖があった。
これは私の長所でもあるが、短所にもなり得る事があったという所は否定出来ないと思う。
物事を現実的に捉えるというのは、自分や他人の気持ち、あるいは状況を冷静に把握出来る事であり、その意味で常に落ち着いた行動をする事が出来る。
反面、子供らしい独創的な発想力や新しい物事にチャレンジしたりするといった能力はその頃の他の子供たちに比べて劣っていたように思う。
そういう意味で私はよく言えば大人びている、悪く言えばつまらない子供であった。
そのような子供であったから、私はあの夢を見た時も最初は全く信じてはいなかった。
しかし、5日間くらい続けて同じ夢を見たので、流石に「単に疲れているだけだ。」とは思えなくなってきた。
と言ってもあの夢の少女の話を完全に信じた訳ではない。
私は2つの可能性を考えていた。
1つは私が何らかの病気で、それによって例の夢を繰り返し見るのではないかということだ。
そんな病気がこの世にあるのかは知らないが、世の中は様々な私の知らない事象で溢れている。
そのような奇異な病気があっても不思議ではない。
もう1つ考えたのは、夢の話が本当だという可能性だ。
常識的に考えて全くもって現実的ではないが、5回も連続して同じ夢を見るというのは、自分が病気でないと仮定すればそれくらいしか説明がつかない。
そこで私は、外から見たら滑稽だろうなとは思いつつも、夢で少女が言った事を実際に試してみることにした。
それで何も起こらなければ私が何らかの病気だという事実がはっきりするだろう。
そう決断した3日後、私はそれを実行に移した。
その前の2日間は両親が夜遅くまで起きていたので、抜け出すチャンスがなく、その日にせざるを得なかったからである。
普段私の事を良い子だと思ってくれている両親に悪い気持ちもあったが、自分が病気なのかどうか確かめたい気持ちと、半ばの好奇心で私は11時30分過ぎに家を抜け出した。
誰にもそれを見られず無事学校についたのは幸いであった。
とりあえず学校の桜の木の下で12時になるのを待つ事にした。
しかし、桜の木の下はかなり寂しい場所だった。
今は9月で、花と言ったら1つも咲いていないのだから。
やがて12時になり、例の少女の言葉通り私は桜の木の下を12周し、例の呪文を12回唱えたが、何も起こらなかった。
「やっぱあんな現実離れした事が本物の筈がないわよ。」と私は心の中で自分をあざ笑った。
しかし、その時後ろから声をかけられた。
普段幽霊など信じていない私だったが、この時ばかりは心臓が止まるほど驚いた。
何の気配もせず、いつの間にか後ろに来れる存在といったら幽霊くらいしかいないではないか。
また、仮に人間だったとしても、小学生が夜に1人で出歩いているのを見られるのはやはりまずい。
私は恐る恐る振り向いた。
そこには、私が何度も夢で見た、例の少女が立っていた。
その姿は透き通っていたが、何故か幽霊の類ではないと私は直感した。
驚いて何も言えない私に、少女は言った。
「私たちの世界に来るのは、あの呪文を唱えるだけじゃ駄目なの。アニメや漫画の主人公のような英雄的な素質、他人を思う気持ち、そして理屈じゃ説明がつかないような事を信じられるような純粋な心が必要なのよ。あなたには英雄としての素質、他人を思いやる気持ちは充分にあるわ。あとは、純粋な心さえあれば私たちの世界に来る事が出来る。」
英雄としての素質は何を意味するのか正直わからなかったが、備わっているなら今は考えなくても良いだろう。
それよりもどうすれば純粋な心とやらを手に入れられるのだろう。
私の気持ちを察したのか少女は言った。
「純粋な心っていうのは、見たものをありのままの姿で捉えられるようなことを言うの。あれを見て。」
そして上を指さした。
「桜の木がどうかしたの?」と言いかけて私は思わず感嘆の声をもらした。
さっきまで花1つ咲いていなかった筈の桜の木が満開になっていたからだ。
しかもそれは普通の桜ではないことは一目でわかった。
1つ1つの花が夜空の星のように輝いて、神秘的な色合いを生み出していたからだ。
12という数字や桜が何を意味するのかはさっぱりわからなかった。もしかしたら特に意味はないのかもしてない。
だが、神秘的な輝きを放ち、大地にそびえ立っているその桜の木を見て、私の頭はこれが紛れもない現実であることを理解した。
私は少女に言った。
「もう一回やってみる。見られるの恥ずかしいから君はどこかに行っててくれない?」
少女は微かに微笑んで頷くと、どこへともなく姿を消した。
どういう風に消えたのかはわからない。
まるでそんな人物は最初からこの世に存在しなかったとでもいうような、不自然さがない消え方だった。
どういう風に消えたかわからないというのは明らかに不自然なのだが、私にはそのように感じられた。
しかし、少女が消えても私はこれが夢か何かだとは思わなかった。
桜の木が相変わらず大地を照らすような神秘的な輝きを放っていたから。
私はもう一度少女に伝えられたことを行動に移してみることにした。
12時を過ぎても少女の世界に行けるのかどうかはわからないが、今日以外に家を誰にも見られず抜けだせる日もそうそうないだろうという訳で、私は少女に夢で告げられた通り桜の木の周りを12周し、目を瞑って「ミラクルトウェルブの世界よ、我を呼びたまえ!」と12回唱えた。
端から見れば異様な行動に映ったに違いない。
最後の呪文を唱え終わった時、突然強風が吹いた。
世界中の干してある洗濯物が全て飛んでいってしまいそうな、とても強い風だったが不思議と心地よく感じた。
続いて私の全身が光に包まれた。
この表現は正確には正しくないかもしれない。
というのも私はあまりの眩しさに反射的に目を瞑って、更に手で光を遮るようにしてしまっていたからだ。
その間に何が起こったのかはわからない。
ふと気がつくと私はどこかわからない場所に立っていた。
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