グイグイ来るじゃん

 <新宿ダンジョン 46層>


「それで〜あなたのことはなんて呼んだら?」


「.........別に、なんでもいい」


「じゃあ〜、ユキちゃん! って呼びますね〜」


「.........」


「ところでユキちゃん! ユキちゃんってすごく強いんですね! さっきのユキちゃんすごく綺麗だったよ! ユキちゃんってもしかして高ランクだったり? マジックバッグ持ってたしねユキちゃん! ユキちゃんはいつもどれくらいダンジョンに行くの?というかユキちゃんって実はプロだったりする? あ! ユキちゃん別にユキちゃんのことは嫌なら話さなくていいよ! 私はユキちゃんのことが知りたいだけだから! ユキちゃんと仲良くもしたいし。やっぱりユキちゃんって───」


「───『極夜』、俺の称号。それでいい」


「『極夜』さん? ですね! でも〜ユキちゃんの方が───」


「.........『極夜』が、いい。ユキちゃんじゃなくて」


 :折れたw

 :怒涛のユキちゃん呼び

 :極夜、かっこよ

 :ちょっと赤くなった?



 ────やべえ、俺選択肢ミスったかも。めっちゃグイグイ来るじゃん。


 こいつといると演技が崩れそうになるんだが!? 俺はギャグキャラじゃなくて、そっけないけど言葉の節々から強さが滲み出るような強キャラを演じたいんだ!


 てかコメントォ! 赤くなんかなってねえ!


 なんでこうなったかなぁ......



「あ、ほら『極夜』さん〜モンスターですよ〜!」



 前から風魔狼ウインドハイウルフが6体やってくる。

 風魔狼はここ46層の主要モンスターで、群れで連携をとり、強力な風魔法も使う。


 そのためこいつらを安定して倒せるかが中層の1つの壁となっている。が──


 ────パキンッ



「.........行くよ」


 ......所詮中層。足を止める理由にはならない。


「......はえぇ〜〜。すごいな〜」


 :ヤバすぎ

 :一切減速しなかったよこの人......

 :踏み出すと同時に広がる足元の氷。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 :置いてかれてる置いてかれてる


「あ、待って〜」


 ******************


 <新宿ダンジョン 48層>


「──でね〜?その時思ったの〜。うちの視聴者って民度高いんだな〜って」


「........そうか。よかったな」


 :この人ずっとそれしか言っていない

 :ふふん、俺らはマナーあるからな

 :これってお散歩配信だっけ?



 ソラさんずっと話しかけてくるんだけど!? 俺全肯定botみたいになってない?

 でも民度いいのはほんとそう。同接400人だっけ? その人数だからこそでもあるだろうけど......



「もちろん私はみんなのこと大切に思ってるからね〜」


 :べ、別に嬉しくないし

 :俺らなんかより自分のこと大切にしろよ

 :失望しましたファンやめて大ファンになります

 :ツンデレしかいないのか?


「.........日が暮れる。ペース、少し上げるぞ」



 ついてくるなんて予想外だったから、とりあえず90とか言ったけど、このままじゃ帰れない。

 一応追いつけるギリギリで進むけど、ちゃんとついてこいよ...?


 ───ダァンッッ



「はや!!? ちょ、待ってって!?」



 遅れて後ろから追いかけてくる音が聞こえる。どうやら反応できたみたいだ。流石に中層探索者か。


 :はや

 :早い

 :これ追いつけるか?

 :ソラも早い



 ......大丈夫そうだな。じゃあ、このままでいいか。

 モンスターは、彼女に近寄らないように注意する必要はあるが、とりあえず少しあげるの"少し"が大きいという、滲み出る強者感は演出できるな。


 ポイントは、相手がついてこれる速さに留めることだ。そして自分は走った後汗ひとつ、息ひとつ乱さないことだ。


 これで俺の強キャラポイントがひとつ増えるな。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


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