「うーん……まあ面白そうだったから?」
翌日のことだ。
この日の授業もつつがなく終わり、俺たちは再び共有談話室に集まっていた。
今日のメンバーは昨日の話通り、俺、フィオナ、サクライ先輩、ラドフォードの四人だ。女子の少ないはずの士官学校で何故かこの空間だけ異常に女子の人口密度が高い。しかも美少女だ。普通は嬉しいはずだ。
俺だって美少女は嫌いじゃない。囲まれたいって思っても不思議じゃない。
だがしかし、なんだろう。この三人に囲まれても嬉しくない。
フィオナはまあ言うまでもないが、常に無表情のラドフォードに、マジで全く何を考えているかわからないサクライ先輩だ。気軽にニノちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ、なんて言っていたが、呼びたいとは全く思わない。
そんな三人が集まり、何をするかというと、まあ簡単な顔合わせと書類の提出だ。
このメンバーで部隊を編制しますって書類を書いて提出して、申請が通らなければ部隊は編成できない。倶楽部活動も似たようなものだが、それは新しい倶楽部を作るときの話だな。
「まあこれから仲良くしていこうぜー」
なんてなんて何を考えているかわからないヘラヘラした顔で言うサクライ先輩。
「あたしたちは仲良し倶楽部を目指しているわけじゃないわ。仲良くするのはもちろん構わないけれど、それは目的を達成してからの話よ!」
目的ってなんだよ、と思いながらもフィオナから投げつけられた書類の空欄を埋めていく。ラドフォードの出身地? そんなの知らねぇよ。
ペンと紙をラドフォードに渡しながら「目的ってなんだよ」とフィオナに聞く。
なければ作ればいい、と言う勢いに任せて本当にここまできたし、なんなら障害らしき障害も何もなかったが、これからどうしていくのか、と言うのはまぁまぁ重要なことだろう。
「あたしたちは面白いことを見つけたり、作ったりしてくのよ!」
「まぁそんなことだろうとは思っていたが。それならわざわざ部隊なんて作る必要あったのか? 倶楽部活動でもよかっただろ」
「バカね。倶楽部活動じゃ校外に自由に出られないじゃない。あたしは休みの日に限られた時間しか外に出られないような、せせこましい活動をしたいわけじゃないのよ」
必要事項を書き終わったラドフォードから書類を受け取る。パソコンで打ち込んだみたいな綺麗に整った字だな。
俺たち寮生は基本的には校外には許可をもらわないと出ることができない。規律を保つためだとかなんとか言ってた気がするが、あんまり詳しくは覚えていない。
が、部隊は「隊員同士の円滑な連携と秩序を構築するため」という建前で割と自由に校外に出ることができる。一応外出許可証なるものを発行してもらう必要があるらしいが。
「まぁ外出許可証なんて適当に名目を埋めておけばほぼ出るよ。出なくても僕が出すしね。なんたって生徒会副会長だし」
とのことらしい。
……というか、なんでこの人ここにいるんだ? いつフィオナと知り合ったんだ? 昨日はなんか衝撃的すぎて聞き忘れてたけど、普通に考えておかしいだろ。……おかしいよな?
「自由に外に出たいから部隊作ったっていうフィオナの話はわかった。それで、あの……どうしてサクライ先輩がこんな部隊に?」
「こんなってなによこんなって!」
フィオナがなんか喚いているが無視だ無視。
ラドフォードから受け取った書類をサクライ先輩に渡す。
「うーん……まあ面白そうだったから?」
書類を受け取りながらサクライ先輩がそんなことを言う。
「なぜ疑問系? ……というかどこでフィオナと知り合ったんですか?」
「フィオナちゃんが倶楽部の体験をしてるときにちょっと声をかけさせてもらったんだよね」
「そうね。いきなり話しかけられて流石のあたしも少し驚いたわ」
「僕のところに報告が上がってきてたからねー。いろんな倶楽部を荒らし回ってる子がいるって。まぁそれ以前にフィオナちゃんのことは知ってたんだけど。特待生だしね」
「そうなんですね。何故うちの部隊に?」
「面白そうだったから?」
「それはさっき聞きました」
サクライ先輩から書類を受け取る。めちゃくちゃ丸っこい字とめちゃくちゃカクカクの字が混ざってる。……わざと書いてるんだろうけど、地味にすごいなこれ。
「条件だったのよ」
「条件?」
フィオナがそんなことを言い出した。
条件ってなんだ条件って。
「部隊の申請をしに行ったときに条件をつけられたのよ」
「なんだそりゃ」
「部隊に生徒会執行部の人を一人入れれば申請通してあげるって」
「それでサクライ先輩を?」
「入ってくれるって言うから」
……まぁ、お目付役ってところなんだろう。部隊作らせてやってもいいけど代わりにこっちの目も入れさせろよって。
「もともと興味があったって言うのもあるしね。軍期待の特待生が何をするんだろうって」
「あ、そうですか」
書類を全部確認した俺はそれをフィオナに渡す。フィオナは俺から受け取った書類をざっと確認すると立ち上がった。
「これ出してくるから、今日のところはおしまいね。また明日ここに来てちょうだい」
そう言うなりフィオナはさっさと談話室を出て行ってしまった。
「どうする? 僕とおしゃべりでもしていくかい、シャン君?」
「遠慮しておきます」
手持ち無沙汰になった俺にサクライ先輩がそんなことを言ってきたので、反射的に断りを入れる。ていうかあなたもその名前呼びなんですね。まぁいいけど。
ああいや、でももう一つ気になったことだけでも聞いておくかな。
「そういえば、よかったんですか? サクライ先輩は。こんなところに所属して自分のキャリア的なものとかは」
「別に問題ないよ」
サクライ先輩は自分の制服の肩の部分を見せてきた。そこには何かのバッジみたいなものが付いていた。
「これ、階級章なんだけど。生徒会執行部の人間には特例で学生のうちから尉官待遇が受けられるんだよねー。副会長は中尉待遇。特務中尉ってやつかな。会長は特務大尉。そのほかの執行部員は特務少尉。何事もなくこのまま卒業すれば特務の部分が消えて晴れて尉官からのスタートってわけだね。だから学生のうちにキャリアなんてものを気にする必要はないってわけ」
マジか。
「それって、階級的にサクライ先輩がこの部隊の隊長をやらないとマズくないんですか?」
「ぜーんぜん。あくまで階級は軍での階級であって、学生生活には関係ないからねー。学生の部隊は学生同士で運営しろってことだね。そこに軍の階級を持ち込むなんて無粋なことはしないよ。面白くないし」
「面白くない、ですか」
「フィオナちゃんとは違うベクトルの面白さだろうけど。僕が面白そうだからこの部隊に来たっていうのは本当だぜ?」
そう言うとサクライ先輩は立ち上がる。そのまま談話室の出口に向かって歩き出した。
「ま、また明日だね。明日には僕らの専用の談話室も用意してもらえるだろうし、楽しみにしとくよ」
「お疲れ様です」
ひらひらと手を振って談話室からでて行ったサクライ先輩を見送る。掴みどころのなさそうな人だな。仲良くできるのだろうか。
「ラドフォードも、今日は終わったみたいだし帰ってもいいぞ」
結局一言も喋らなかったラドフォードにもそう言う。書類を書いてからマグカップを両手で持ってちびちび紅茶を飲んでいたラドフォードは、一回頷いてから立ち上がる。
「……また明日」
そう一言告げると、出口に向かって歩いて行った。
「おう。また明日」
さて、俺も帰って明日に備えて寝るかな。
……あ、課題やってねぇわ。フィオナが戻ってきてから写させてもらおう。
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